1 / 2
前編
しおりを挟む
二月も半ばを過ぎた。
この時期に桜を見ると梢全部がピンクに色づいている気がする。
もちろん木に詳しい訳ではないのであくまで気のせいだろう、似たような別の木を見ても同じことを思うに違いない。
桜というのもは人を浮き立たせる。
浮き立つということは足元がおろそかになるということでもある。
気づけば知らないところにいたとしても、そこまで驚くことではないのだろう。
妹がいなくなったのは確か桜の花が舞う時期だった。
帰ってこなかった妹を周りの大人が探していたのを覚えている。
あの日見た、舞い散る花びらの向こうの月が朧ではなくくっきりしていたのを覚えている。
可能性は低いけれど、もしかしたら舞っていたのは桜ではなく風花だったのかもしれない。
記憶は不自然に途切れているし、周りは未だ話題にはあげない。
あるいは私が妹の事を覚えていないと思っているのかもしれない。
そこまで幼くはなかったはずなのにその時のことは季節すら正確に思い出せないのだからある意味正しい。
事実、妹が居なくなった後、見つかったかどうか分かっていない。
直後に死んでいて、葬式も済んでいるから記憶にないのだろうか? 行方不明のままなら死亡扱いになるのは何年か後だと何かで聞いた。
改めて聞く切っ掛けもなく、同棲するために家を出て両親と同居していない以上、何かの拍子に話題になる可能性も当面低いだろう。
それでもそんな経緯がある以上、桜の季節に自発的に浮かれるようなことにはならない。
それは兆しでも同様のはず。
なのに迷子……というか、記憶が飛んでいるだなんて。
何時、こんなところに来てしまったのだろう?
幸か不幸か見知らぬ場所ではない。
けれどよく知っているというにはいささか年月が経ちすぎている。
実家の近くの公園だった。
妹がいなくなるまでよく遊びに行っていた。
当時から古ぼけていた小さな公園だったけれど、今見るとさらに狭く、遊具は壊れている物もある。
変わらないのは、公園より前からあったと言われていた桜の木くらいだろう。
もしかして既に閉鎖されているのだろうか? 何せどうやってここに来たのかわからないぐらいなのだからバリケードや看板を見落とした可能性は充分ある。
あるいは時節柄か、単純に寒いからかもしれない。桜が咲く準備を始めていようとも、冬は今が一番寒いと個人的思っている。
それとも時間帯の問題だろうか? 夕暮れというには時間が経ち、夜というには早すぎる。既に子供の時間ではないし、大人はまだまだ来ないだろう。
黄昏時という言葉は今のためにあるのかもしれない。
もっとも誰かわからないも何もそもそも人がいないのだけれど――。
『おねえちゃん』
いきなり後ろから聞こえた子供の声らしきものに思わず肩を揺らす。
……なぜここにいるかわからないとはいえ、それでも見知った場所にいるのに気を張りすぎている。
まだ家に帰っていなかった子供を見逃していただけで、ここまで驚くなんて。
苦笑しながら声の方に振り返る。
暗くて誰か顔がわからず、誰ぞ彼と尋ねたのが黄昏の語源だと聞いたことがある。
つまり見間違えている可能性は多大にある。
そもそも子供の、そして昔の記憶過ぎてまともに覚えてないと思ったばかりのはず。
それでも、その女の子はいなくなった妹に見えた。
この時期に桜を見ると梢全部がピンクに色づいている気がする。
もちろん木に詳しい訳ではないのであくまで気のせいだろう、似たような別の木を見ても同じことを思うに違いない。
桜というのもは人を浮き立たせる。
浮き立つということは足元がおろそかになるということでもある。
気づけば知らないところにいたとしても、そこまで驚くことではないのだろう。
妹がいなくなったのは確か桜の花が舞う時期だった。
帰ってこなかった妹を周りの大人が探していたのを覚えている。
あの日見た、舞い散る花びらの向こうの月が朧ではなくくっきりしていたのを覚えている。
可能性は低いけれど、もしかしたら舞っていたのは桜ではなく風花だったのかもしれない。
記憶は不自然に途切れているし、周りは未だ話題にはあげない。
あるいは私が妹の事を覚えていないと思っているのかもしれない。
そこまで幼くはなかったはずなのにその時のことは季節すら正確に思い出せないのだからある意味正しい。
事実、妹が居なくなった後、見つかったかどうか分かっていない。
直後に死んでいて、葬式も済んでいるから記憶にないのだろうか? 行方不明のままなら死亡扱いになるのは何年か後だと何かで聞いた。
改めて聞く切っ掛けもなく、同棲するために家を出て両親と同居していない以上、何かの拍子に話題になる可能性も当面低いだろう。
それでもそんな経緯がある以上、桜の季節に自発的に浮かれるようなことにはならない。
それは兆しでも同様のはず。
なのに迷子……というか、記憶が飛んでいるだなんて。
何時、こんなところに来てしまったのだろう?
幸か不幸か見知らぬ場所ではない。
けれどよく知っているというにはいささか年月が経ちすぎている。
実家の近くの公園だった。
妹がいなくなるまでよく遊びに行っていた。
当時から古ぼけていた小さな公園だったけれど、今見るとさらに狭く、遊具は壊れている物もある。
変わらないのは、公園より前からあったと言われていた桜の木くらいだろう。
もしかして既に閉鎖されているのだろうか? 何せどうやってここに来たのかわからないぐらいなのだからバリケードや看板を見落とした可能性は充分ある。
あるいは時節柄か、単純に寒いからかもしれない。桜が咲く準備を始めていようとも、冬は今が一番寒いと個人的思っている。
それとも時間帯の問題だろうか? 夕暮れというには時間が経ち、夜というには早すぎる。既に子供の時間ではないし、大人はまだまだ来ないだろう。
黄昏時という言葉は今のためにあるのかもしれない。
もっとも誰かわからないも何もそもそも人がいないのだけれど――。
『おねえちゃん』
いきなり後ろから聞こえた子供の声らしきものに思わず肩を揺らす。
……なぜここにいるかわからないとはいえ、それでも見知った場所にいるのに気を張りすぎている。
まだ家に帰っていなかった子供を見逃していただけで、ここまで驚くなんて。
苦笑しながら声の方に振り返る。
暗くて誰か顔がわからず、誰ぞ彼と尋ねたのが黄昏の語源だと聞いたことがある。
つまり見間違えている可能性は多大にある。
そもそも子供の、そして昔の記憶過ぎてまともに覚えてないと思ったばかりのはず。
それでも、その女の子はいなくなった妹に見えた。
10
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
そうして怪談だけが残った
こうやさい
青春
ここでするのもあれだけど私信。明日からVistaで某サイトが見えなくなるそうなのでしばらくは環境設定にかかりきりになります。コピペで済むのは未定だけど『叶わぬ夢を見たけれど』は完璧に止まります。あとこの部分はさすがに後で消す。近況ボード使えと言われそうだけどあれ苦手なんだよ、アリバイが消滅するから。だから初回完結日も苦手。。。
この学校には『『ハッピーバースディートゥーユー』を歌うスマホ』という怪談がある。
伏線はありませんが夢オチです(爆)。なのでカテゴリは変えましたが多少ホラーテイストのはずです。
なんかどっかにありそうな話だなぁ。
あとバス事故の要素等が少し出てきます。苦手な方はお気をつけ下さい。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
書き出しと最後の一行だけで成る小説
音無威人
現代文学
最初の一行と最後の一行だけで成る実験小説。内容は冒頭とラストの二行のみ。その間の物語は読者の想像に委ねる。君の想像力を駆使して読んでくれ!
毎日更新中。
【完結】離縁されたので実家には戻らずに自由にさせて貰います!
山葵
恋愛
「キリア、俺と離縁してくれ。ライラの御腹には俺の子が居る。産まれてくる子を庶子としたくない。お前に子供が授からなかったのも悪いのだ。慰謝料は払うから、離婚届にサインをして出て行ってくれ!」
夫のカイロは、自分の横にライラさんを座らせ、向かいに座る私に離婚届を差し出した。
ざまぁは終わったはずでしょう!?
こうやさい
ファンタジー
気がついたら乙女ゲームの国外追放された悪役令嬢に転生していました。
けど、この子は少し特殊なので……。
ガイドラインに基づきファンタジーにしましたが、ここで終わりだとちょっとホラーだと思う。けど前世の記憶が乗っ取る系って元の人格視点だと結構当てはまるからそうでもない? 転生じゃなくてNPCが自我に目覚めたとかにしてSFとか……微妙か。
ある意味ではゲーム内転生の正しい形といえばそうかもしれない。強制力がどこまで働くかって話だよな。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
人生の全てを捨てた王太子妃
八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。
傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。
だけど本当は・・・
受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。
※※※幸せな話とは言い難いです※※※
タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。
※本編六話+番外編六話の全十二話。
※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。
[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで
みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める
婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様
私を愛してくれる人の為にももう自由になります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる