ずっと傍にいる

こうやさい

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それもまた選択の結果

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「あたしも結婚したい」
 彼女の結婚話は今まで何度も聞いたが、今回は特に動揺はしない。
 今はまだ幼いし、先日まで滞在していた場所で結婚式があって、花嫁さんの姿に見とれていたので綺麗な服が着たいとほぼ同意だろう。
 ……久々に大きめの街にでも立ち寄って服を新調した方がいいだろうか?

「誰とかな?」
 なので今回は無駄に父親ぶる必要もない。からかう余裕もある。
「お父さんと」
 なのにそんな事を言うので一瞬どう反応していいか分からなくなる。


 昔、まだ「そろそろ少しぐらいは大人の貫禄が欲しいなぁ」とかのんきに思っていられた頃。
 酔っ払った友人が、大きくなったら自分と結婚すると言ってた娘が男の子と手を繋いでいたとくだを巻いていたことがあった。
 ちなみに彼の娘は確か四歳だった。今の彼女より幼い。
 その娘が誰と結婚したかまでは見届けることは出来なかったが、父親と結婚したのではないことだけは間違いないだろう。友人だって本気で自分と結婚させようとは思ってなかっただろうし……妻の尻に敷かれてたしな。

 けれど、その娘と彼女とは状況が違う。
 友人は何を思おうが結局自身娘に対する感情だが、僕は彼女を最終的には娘だとは思っていない。
 それは何歳でも変わらなかった。
 深い意味がないと分かりきっている言葉でも動揺してしまうほど。


「お父さん?」
 彼女に不審そうな視線を向けられる。
「いや、なんでもない」
 とりあえず微笑わらってみせる。

 実際、考えた事がある。
 彼女を赤子の時から死ぬまでどこかに閉じ込めて僕だけしか目に入らないようにすればどうなるだろうかと。
 そうすれば他の誰かを好きになることはないのではないかと。

 けれど普通の赤子は知らないが、彼女は教えなくとも知っているものが時々ある。
 記憶よりも深い部分に宿った以前の人生の残滓が中途半端に残っているのだろう。
 一度小さな頃結果的に世間から隔離されて育った事があったが、それでも僕を「お父さん」と呼んだ。
 そこできっと閉じ込めることを無意識に諦めた。

 そんな事を続ければいずれは自らの置かれた状況の異常さに気づくかもしれないし、僕が年を取らないことにも気づくかもしれない。
 そうしたら彼女も僕を化け物と思い嫌うかもしれない。
 それだけは耐えられない。
 だから仮に彼女が結婚すると言い出さなくても、途中で手放さなければならないだろう。
 何も分からぬ赤子に戻るその日まで。


 もし僕が完全に狂ってしまって。
 嫌がられても怖がられても彼女を離さずに。
 もしかしたら自らの手で殺してしまうようなことがあっても。
 それでも彼女は僕のところに戻って来てくれるのだろうか?

 どちらが彼女の幸せなのだろう?
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