ずっと傍にいる

こうやさい

文字の大きさ
上 下
4 / 16

そうしてくり返す

しおりを挟む
 夜中の墓地で土を掘る。
 取り出した棺桶の蓋を開ける。
 そこには赤子が泣いていた。


 彼女が結婚し、時を重ね、子や孫に看取られ亡くなったと聞いて、一目でも会いたいと思ったのは未練なのだろう。
 本来なら死ぬ前に会いに行くべきなのだろうが、何せ僕は姿が変わらない。
 彼女と別れた後に結婚してできた子供か孫で頼まれたとでも言っておけば周りには通じるだろうが、それが彼女にまで通じるかは分からない。

 彼女は人間でなければいけない。
 だから化け物の父親がいてはいけない。
 怪しまれる可能性は極力排したかった。
 ……もっとも墓荒らしが怪しくないかといわれるとものすごく怪しいのだが。
 その辺りは上手くやれるつもりだった。


 そうして開けた棺桶の中にいたのは穏やかそうに眠っている老女ではなく、泣いている赤子だった。

 以前と同じ事が起こったとすぐに思った。
 少なくとも葬儀はつつがなく済んだらしいので、埋める直前までは変わらなかったか、変わっていても不自然なほどまでは若返っていなかったのだろう。遺体の面差しが違って見えるなんてよくある事だし、息は確かに止まっているのだから。
 あるいは僕がここに来てしまったせいだろうか?
 何にしろ若返って蘇った事実は変わらない。
 抱き上げたとき、懐かしい気持ちがした。
 偶然だろうが泣き止んで笑顔を見せた。


 そんな事をずっと繰り返している。
 僕が近づかなければそのまま何人目か忘れてしまった夫の隣で安らかに眠り続けたのだろうかと考えた事もある。
 それとも掘り返さなければ赤子になって蘇ってまた死んでそれをずっと続けるのだろうか?

 どちらにしろ様子を見に行かないという選択肢は僕にはない。
 前者ならとにかく、後者なら無駄に苦しめるし混乱の元になるだけだ。
 彼女まで化け物と呼ばれるようにするわけにはいかない。
 それに何より会いたくてたまらない。
 巻き込んでしまったことに済まなさと後ろ暗い喜びを感じる。


『ずっと貴方の傍にいさせて』

 その願いを彼女はもう持たない。
 けれど僕の誓いはもう消えない。



 この胸の痛みはいずれ僕を殺してくれるだろうか?
 そうなれば彼女は安らかに眠れるようになるのだろうか?

 彼女が他に心を向けるのは僕に対する罰なのだろうか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

熱砂の過保護なプリンスの秘宝(R18)

カヨワイさつき
恋愛
とある夜、仕事が恋人状態の53歳、 高枝まどか(たかえだ まどか)は仕事中 イメージにぴったりの資料を見つけた。 すると急にめまい?がおき見知らぬ場所にいた。 照りつける太陽、暑さなどで頭がボーッとしてしまい、意識を失ってしまった。 気がつくと、視界はぼやけていたが 助けてもらった相手と豪華な湯けむりに……?! しかも、自分の体が…変化してる? 不器用な強面騎士との異世界不器用恋愛。 2万文字の物語。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

祝福のキスで若返った英雄に、溺愛されることになった聖女は私です!~イケオジ騎士団長と楽勝救世の旅と思いきや、大変なことになった~

待鳥園子
恋愛
世界を救うために、聖女として異世界に召喚された私。 これは異世界では三桁も繰り返した良くある出来事のようで「魔物を倒して封印したら元の世界に戻します。最後の戦闘で近くに居てくれたら良いです」と、まるで流れ作業のようにして救世の旅へ出発! 勇者っぽい立ち位置の馬鹿王子は本当に失礼だし、これで四回目の救世ベテランの騎士団長はイケオジだし……恋の予感なんて絶対ないと思ってたけど、私が騎士団長と偶然キスしたら彼が若返ったんですけど?! 神より珍しい『聖女の祝福』の能力を与えられた聖女が、汚れてしまった英雄として知られる騎士団長を若がえらせて汚名を晴らし、そんな彼と幸せになる物語。

冤罪による婚約破棄を迫られた令嬢ですが、私の前世は老練の弁護士です

知見夜空
恋愛
生徒たちの前で婚約者に冤罪による婚約破棄をされた瞬間、伯爵令嬢のソフィ―・テーミスは前世を思い出した。 それは冤罪専門の老弁護士だったこと。 婚約者のバニティ君は気弱な彼女を一方的に糾弾して黙らせるつもりだったらしいが、私が目覚めたからにはそうはさせない。 見た目は令嬢。頭脳はおじ様になった主人公の弁論が冴え渡る! 最後にヒロインのひたむきな愛情も報われる逆転に次ぐ逆転の新感覚・学内裁判ラブコメディ(このお話は小説家になろうにも投稿しています)。

婚約破棄の『めでたしめでたし』物語

サイトウさん
恋愛
必ず『その後は、国は栄え、2人は平和に暮らしました。めでたし、めでたし』で終わる乙女ゲームの世界に転生した主人公。 この物語は本当に『めでたしめでたし』で終わるのか!? プロローグ、前編、中篇、後編の4話構成です。 貴族社会の恋愛話の為、恋愛要素は薄めです。ご期待している方はご注意下さい。

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

死に戻るなら一時間前に

みねバイヤーン
恋愛
「ああ、これが走馬灯なのね」  階段から落ちていく一瞬で、ルルは十七年の人生を思い出した。侯爵家に生まれ、なに不自由なく育ち、幸せな日々だった。素敵な婚約者と出会い、これからが楽しみだった矢先に。 「神様、もし死に戻るなら、一時間前がいいです」  ダメ元で祈ってみる。もし、ルルが主人公特性を持っているなら、死に戻れるかもしれない。  ピカッと光って、一瞬目をつぶって、また目を開くと、目の前には笑顔の婚約者クラウス第三王子。 「クラウス様、聞いてください。私、一時間後に殺されます」 一時間前に死に戻ったルルは、クラウスと共に犯人を追い詰める──。

処理中です...