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過ごす日々の
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これが通り過ぎた村にいた若者が相手とでもいうなら、一人でしばらく暮らせるだけの財産を渡し、村に食料でも知識でも分けられるものは分け、相手に無理強いまではしないものの村に受け入れて貰えるように働きかけをするなど、出来る事をして、それから別れたはずだ。
けれど彼女は僕を好きだという。
それは気の迷いか、勘違いか、まだ他に本格的に頼れる人がいないので、多少のことで勢いで離れて後悔しないため好きだと思い込もうとしている辺りだと説得した。
僕は精々父親のようなものだとも。……外見的にその理由は少し苦しくはなっていたけれど。
それども彼女は恋と言い切った。
あるいは父親云々が彼女をかたくなにさせたのかもしれない。
幼い頃に捨てられたといっても実の父親の記憶は恐らく残っているだろう。
僕からすれば子供を捨てる酷い親なのだから懐いてはいないだろうと考えていたが、無条件に親を慕う幼子なら、それとも故意ではないと思っているのなら、あるいはいろんな意味で納得出来る理由で別れていて美しい想い出として君臨していたのなら、その場所に他の人を据えようとはしないだろう。
だから結果的に僕の位置が動かなかったのだろう。
正直に言うなら、彼女の事は嫌いではない。嫌なら途中でその辺の村にでも置き去りにすればよかったわけだし。
けれどこの気持ちが恋情かといわれれば、実際分からない。
もしかしたらかつて似た気持ちを経験したことがあったかもしれないが、思い出せない。
だから比べられない。
他にいない、見捨てられるのが怖いは僕の方だろう。
長い間の孤独と、それを埋めるほどの数年を、どう表せばいいだろう。
それを簡単に恋とは呼べない。
けれど僕は年を取らなくて、死ぬ方法も分からなくて。
たとえ彼女が僕を見捨てなくて一緒にいてくれても、いずれは彼女を見送る立場になる。それは間違いない。
たとえ恋だとしてもどうにもならない。
それでももうしばらくは一緒にいる事になる――いられるのだろうと思っていた。
彼女が病に倒れたのは突然だった。
いや、恐らく予兆はあったのだろう。ただ僕には長い間縁がないせいで気づかず、知らず知らずのうちに無理をさせていたのだろう。
近くに村はないし、あったとしても病人は入れてはもらえないだろう。
休ませるにも普段の野宿とあまり変わらないような状況では治るものも治らない。
そして治るとは限らない。
彼女は徐々に弱っていく。
なのに僕に想いを告げる。
これは心細くなっているせいだと分かっているし、一時の同情で迂闊な事を言ってはいけないと自分に言い聞かせるが、恋情なのか憐憫なのか動く気持ちは止まらない。
どうせ死んでしまうのだからと開き直れたら良かったのに。
とうとうずっと一緒にいると誓ったその時、彼女は何かを告げようとして、その途中で呼吸を止めた。
しばらく彼女を掻き抱いて呆然としていたと思う。
温もりも冷め切り、やっと泣けそうになったとき、それに気づいた。
彼女の身体が軽くなっている。
慌てて少し離し目線を向けると、彼女の姿が若返り始めた。
見慣れた姿から懐かしい姿を経て赤子へと。
そして最後の言葉の代わりに産声めいたものをあげた。
生きていた。
彼女は人間だったはずだし、確かに死んだはずだった。
起こるはずのないことだった。
……ならばこの状況は僕が望んでしまったからだろう。
少しでも長く一緒に居られるように、若返って蘇ったのだろう。
それからやり直すように僕らは旅を続けた。
ただ以前と違うことは言い聞かせもしていないのに彼女は僕を父親だと思った事だろう。
そして適当に寄った村で出会った青年に恋をして、その手を取りそこに残ったことだろう。
それを望んだ事もあるはずなのに切なさが募る。
なんて身勝手なのだろう。
けれど彼女は僕を好きだという。
それは気の迷いか、勘違いか、まだ他に本格的に頼れる人がいないので、多少のことで勢いで離れて後悔しないため好きだと思い込もうとしている辺りだと説得した。
僕は精々父親のようなものだとも。……外見的にその理由は少し苦しくはなっていたけれど。
それども彼女は恋と言い切った。
あるいは父親云々が彼女をかたくなにさせたのかもしれない。
幼い頃に捨てられたといっても実の父親の記憶は恐らく残っているだろう。
僕からすれば子供を捨てる酷い親なのだから懐いてはいないだろうと考えていたが、無条件に親を慕う幼子なら、それとも故意ではないと思っているのなら、あるいはいろんな意味で納得出来る理由で別れていて美しい想い出として君臨していたのなら、その場所に他の人を据えようとはしないだろう。
だから結果的に僕の位置が動かなかったのだろう。
正直に言うなら、彼女の事は嫌いではない。嫌なら途中でその辺の村にでも置き去りにすればよかったわけだし。
けれどこの気持ちが恋情かといわれれば、実際分からない。
もしかしたらかつて似た気持ちを経験したことがあったかもしれないが、思い出せない。
だから比べられない。
他にいない、見捨てられるのが怖いは僕の方だろう。
長い間の孤独と、それを埋めるほどの数年を、どう表せばいいだろう。
それを簡単に恋とは呼べない。
けれど僕は年を取らなくて、死ぬ方法も分からなくて。
たとえ彼女が僕を見捨てなくて一緒にいてくれても、いずれは彼女を見送る立場になる。それは間違いない。
たとえ恋だとしてもどうにもならない。
それでももうしばらくは一緒にいる事になる――いられるのだろうと思っていた。
彼女が病に倒れたのは突然だった。
いや、恐らく予兆はあったのだろう。ただ僕には長い間縁がないせいで気づかず、知らず知らずのうちに無理をさせていたのだろう。
近くに村はないし、あったとしても病人は入れてはもらえないだろう。
休ませるにも普段の野宿とあまり変わらないような状況では治るものも治らない。
そして治るとは限らない。
彼女は徐々に弱っていく。
なのに僕に想いを告げる。
これは心細くなっているせいだと分かっているし、一時の同情で迂闊な事を言ってはいけないと自分に言い聞かせるが、恋情なのか憐憫なのか動く気持ちは止まらない。
どうせ死んでしまうのだからと開き直れたら良かったのに。
とうとうずっと一緒にいると誓ったその時、彼女は何かを告げようとして、その途中で呼吸を止めた。
しばらく彼女を掻き抱いて呆然としていたと思う。
温もりも冷め切り、やっと泣けそうになったとき、それに気づいた。
彼女の身体が軽くなっている。
慌てて少し離し目線を向けると、彼女の姿が若返り始めた。
見慣れた姿から懐かしい姿を経て赤子へと。
そして最後の言葉の代わりに産声めいたものをあげた。
生きていた。
彼女は人間だったはずだし、確かに死んだはずだった。
起こるはずのないことだった。
……ならばこの状況は僕が望んでしまったからだろう。
少しでも長く一緒に居られるように、若返って蘇ったのだろう。
それからやり直すように僕らは旅を続けた。
ただ以前と違うことは言い聞かせもしていないのに彼女は僕を父親だと思った事だろう。
そして適当に寄った村で出会った青年に恋をして、その手を取りそこに残ったことだろう。
それを望んだ事もあるはずなのに切なさが募る。
なんて身勝手なのだろう。
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