婚約破棄はいつが最良かしら？

あったかもしれないしなかったかもしれない話

　それで。
　どうして殿下の執着がこちらに来ているのかしら？

　……分かってはいますのよ、ただ認めたくないだけで。

　前回のわたくしも愛してはいなかったものの、それでも将来の結婚は決定事項と考え、多少なりとも歩み寄ろうと致しました。
　それが殿下には媚びを売ってくる輩と同じように感じたのでしょう。
　それで適切な距離を取るあの子に惹かれて真実の愛と思い込んだのでしょう。

　一方今。
　破棄する予定の婚約なのに不必要に距離を縮めようだなんて時間の無駄ですもの。
　汚点を減らすため、そして婚約者としての最低限はそれでも役目としてこなしましたが、私的な場所で交流を持とうと思うはずもなく。

　……殿下って、距離を取るそういう方にあまり慣れてらっしゃらないのね。
　隙間が空いていれば食いこんでくる方はいくらでもいらっしゃるから、子供でいらっしゃるうちはそうなってもおかしくはないのでしょうけれど。

　市井ではつれない野良猫を手懐けようとするがごとくと喩えるそうですけれど、自分をないがしろにされていると感じると関心を向けさせたくなるらしく。
　いまや殿下の寵愛は一身にわたくしに注がれております。

　そんなものなんて要りません。
　うっかりながされた途端になくなりそうなものをよすがには出来るはずないでしょう？
　なのに生活に支障をきたすほど甘やかしてくるのはやめてください。

　あの子？
　殿下に溺愛されている婚約者なんて面倒くさいものに近寄ってくれるはずがありません。
　殿下共々以前よりも関わってくださいませんわ。

　あの子の破滅は阻止出来たようですけれど。
　わたくしは以前よりよほど破滅に近づいている気がするんですけれど。
　今から婚約を破棄して間に合うかしら？