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本編

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『わたしは真実の愛を知った。よっておまえとの婚約を破棄し、彼女と結婚をする』
 殿下、真実の愛のお相手の方、考えもしなかったという表情で怯えてますけど大丈夫ですか?


 嫌な夢を見ましたわ。
 ついさっき見たのは夢ですけれど、実際にあったことです。
 殿下に婚約破棄された時、別に愛してもいない相手とはいえ、それでも衝撃を受けたのか気が遠くなりまして。
 次に気がついた時には婚約成立直後の六歳の時に戻っておりました。
 ……もしかしたら、予知夢だった可能性もありますし、殿下の印象から受けた不安がやたらと現実的な長い夢として具現化したのかもしれませんけれど、その辺りの検証はどちらにしろ婚約破棄はあり得そうと思った時点で後に回しましたわ。先に可能性の高い方の対策を取っておきませんと。

 とはいえ、今すぐの婚約破棄……それでもこの時間軸でまだ破棄された訳ではないわけですからゆずって解消でもいいですけれど、をこちらから申し込むのは悪手と判断いたしました。
 今の殿下の気に障る態度も一度成長してしまった以上、わがままな子供の範疇にそれでも収まると分かってしまいましたし……やっぱり怒りは湧きますし、殿下としてはそれでもどうかと思いますけれど、将来性がないと確信しているわたくしはとにかく、一応その期待を周りは持っているようですもの。
 ならば今それを望むのはわたくしのほうのわがままと取られかねません……婚約の意味は違う意味で分からない年齢ですし、人間関係が上手く築けないと思われても困りますわ。
 それに、仮に成立したとしても、あれは子供だったからだともう少し歳を経て今度は逃げられない形で戻ってくる可能性があります。わたくしこう見えて条件はいいんですのよ。

 ですので、殿下が他に選択肢がないからと戻ってこないかつ、わたくしの方は新しい相手がいなくならないよう条件が悪くなりすぎない時期を見極めて婚約破棄をしませんと。
 ……もっとも殿下はあの時のように他の事に夢中でこちらのことなんて構う暇はないかもしれませんわね。

 お相手のあの子、わたくしが通っていた……これから通う予定であろう学院の特待生で貴族ではありませんでしたが、別にいじめたりはしていませんわ。
 むしろ個人的には気に入っていましたの。
 親しかったというわけではあいにくございませんが。
 あの子はなんといいますか、野心はあるのですけど、自分の手の届く範囲を把握しておりまして。
 利点だけ見て高望みをしたり、破綻するまで欲望のまま突っ走ったりしないような方ですわ。
 つまり王族や高位貴族わたくしたちに必要以上にすり寄ったり、かといって自らが正しいと信じて無礼をそのままにしたりしませんの。
 後者はよほど上手くすり抜けないと学院までは入ってくることはないのですけど、前者はそれなりに煩わされますもの。
 そうしないというだけでも好感を持ちますわ。
 だからこそ親しくはなれなかったのですけど、出来るなら……と思っておりました。
 ……嫌だわ、もしかして殿下と好みが同じなのかしら?

 そういう方ですから、殿下に色仕掛けでもして迫ったとは思えません。
 万一狙うとしても正妃はあり得ないはずです。能力は高そうですけど、これから学習を始めるにはそれでも遅いでしょうから、少なくとも早急にことを進めはしないはず。
 なので最悪でもあの子が殿下に婚約破棄をそそのかしたということはないでしょう。そうでしたらあそこであの表情はわざと作ったにしてもないでしょうし。

 …………もしかしてですけれど、あのまま続いていたとしても、わたくしはそこまで責められなかったのではないかしら?
 弱みを見せればつけ込もうとする方はどこにでもいらっしゃいますから無傷とはもうしませんが。
 賠償される損害もありそうですし、総合的にみれば大丈夫なのではないかしら?
 殿下が上手く言いつくろうことなど無理でしょうし。

 殿下は一途といえば聞こえはいいですけれど、思い込みが激しくて。
 しかもその思い込みの根拠がないか間違っているかが多くて。
 今回の件がなくとも遠からず病気にでもなって王位継承権を返上することになったかもしれませんわね。
 あの子もきっとその被害者でしょう。取られている立ち位置が心地よいのなら変に近寄ろうとしなければよろしいのに。状況が見えていませんわ。
 処罰に巻き込まれないといいのだけれど。

 もしかしてこの時戻りはわたくしのためではなくあの子を助けるためかもしれませんわ。
 ……だとすれば婚約を破棄する時期をもっと考えるべきかしら?

 こんどはもっと仲良くなれると嬉しいですわね。
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