魔法は秋風と共に

こうやさい

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「魔法?」
 頭が回らないせいもあって、それしか思いつかない。
「そうだよ」
 あっさりと肯定された。
 ……たぶん、この辺りのヤツらが使えるようになったら散々もったいぶるだろう事を軽く言うのだから、確かに地元の人間ではないのだろう。

 ペットボトルはオレが飲んだ。なじみのある味がした。
 けれど魔法を使ったのは彼女だった。
 ……オレが使い方を分からないだけということはきっとない。

 遊んでいるつもりだった。
 真剣に探していたけど、真剣に探すという遊びをやっているつもりだった。
 なので結果はどうでもいいと。

 思っていたよりショックを受けている事に気づく。
 オレ、魔法使いたかったんだな。

「大丈夫?」
 だまりこくったせいか心配された。
 確かにスポドリ一本で治るレベルは過ぎてるかもしれない。

「ペットボトルの中身が魔法を使えるようになる薬だって内輪でだけど噂になってるけど」
 それでも確認せずにはいられなかった。
「ウソ!? なんで?」
 欠片も心当たりがないのか、本気で驚いてるように見える。
「中身を飲んだ後に魔法使ってなかった?」
 オレが見たわけじゃないけどな、今回も。
「あー」
 心当たりはあるらしい。
「あたし暑さを感じにくいの。感じないだけで暑い事は確かだから、体に負荷はあるのよ」
 属性とかいうヤツだろうか? 研究途中らしいけど。
「それで、喉か乾いたら暑いんだろうなって事で、魔法で、こう」
 周囲を冷やしたと。
 そりゃ下敷き持ってればそれで涼むように、魔法が使えればそれを使うよな。
 人なのだろう。

「ペットボトル振ってたのは?」
 ついでなので聞く。
「……小さな頃魔法少女物のアニメにはまってね」
 魔法の事よりよっぽどいいにくそうだ。
「……その影響が未だにあって、何かを振ると発動が楽になるの」
 本当にペットボトルはそこまで関係ないな。

 あーあ、オレも棒でも振ってれば良かっただろうか。

 気が抜けたせいかめまいがする。これ以上立っていると倒れそうだ。
「大丈夫? 一人で帰れる?」
 今なら多分ギリ帰れる。
 けれどここで別れたら彼女とはもう会えないかもしれない。
 そりゃ、来年にはオレも中学生だけど、なんか学年の隔たり厳しいっていうし。
 その一年差はたぶん接点を奪う、今も、これからも。
 そもそも彼女が来年卒業していないとも限らないし、いつまでこっちにいるかも分からない。
 だからといって連絡先を聞くわけにもいかないだろう。初対面では怪しすぎる。
 そしてそうする余裕も残っていない。

「――一人で、帰る」
「あ、うん、気をつけてね」
 ふらふらと歩き出す。

 ひときわ、涼しい風が吹いた。

 連絡先や話を聞いていないことよりもドリンク代を払っていない事に気づく。
 てか、今手持ちがないことにして、払うために連絡先教えてって言えば良かった。
 教えてくれるなら良し、断られたとしてもオレは一応誠意を見せたことになる。

 慌てて振り返るけれど、彼女はもういなかった。
 風も、残っていなかった。
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