魔法は秋風と共に

こうやさい

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「暑い……」
 口を開けば余計に喉が渇くのは分かっているが、黙って歩きづけるのもそれはそれでキツい。
「油断した」
 こうなったら足で探すしかないと、きっちり準備もした上で外出したつもりだったが、甘かった。
 ここ数日少し涼しかったので、ここまでとは思っていなかった。風はどこだよ!? 残暑といえどエグすぎる。

「自販機……」
 既にあてどなく探すつもりなんて欠片もなくなっていたが、このまま家に帰り着ける自信もない。
 持ってきていたペットボトルは既に空だ。ゴミ箱があったら捨てるつもりだが、そもそも自販機が見つからない。田舎の自販機は偏っている。
 知らない道というには、交差点の度に通学路に繋がっているのだが、それでも近いところの自販機の分布なんて分からない。
 ……いやこれ、素直に通学路に帰るべきだよな。
 頭が上手く働かない。
 ヤバ……。

「飲む?」

 目の前に差し出されたペットボトルを反射的に受け取り、開けて中身を煽る。
 こんな場所だというのにやたらと冷たい。
 ……って。

「大丈夫?」

 知らない人から差し出されたものを無警戒に飲んじゃったよ、オイ。
 いやキャップはちゃんと閉まってたし、どう考えても善意にしか見えないけど、それはそれ。

「……アリガトウゴザイマス」
 反省すべきなのはこっちなので、お礼はお礼で言う。
 ぎこちなかったのは警戒しているせいじゃない。

 ペットボトルをくれたのはオレと同い年くらいに見える……けれど中学の制服を着ているのだから年上の女の子だった。
 年上に対して言うのもどうかだけどかなりかわいい。
 つまり探していた存在の特徴を有していた。
 中学生の女の子とペットボトルって組み合わせは他にもあるだろうし、見慣れないだけなら中学生じろじろ観察してるわけじゃないから普通に知らない人も多いんだけど、小学校より学区広いし人数多い。
 けど発音が標準語だった。
 標準語ってだけならこのご時世メディアで幾らでも聞けるからいなくはないけど、そういう綺麗さでも、中途半端に地元に染まったのでもない。いや気のせいかもしれないけど。
 でも何より直感が彼女だと告げている。

「えっと……」
 何か聞きたい事があったはずなのに思考が回らない。
 手の中のペットボトルは中身は飲み慣れたスポドリと告げているが、それだけで簡単に回復はしないらしい。

「貸して」
 彼女が空のペットボトルをオレから持って行く。
 そして軽く無造作に振った。

「え?」
 風が吹いた。
 風ぐらいならさすがに吹いてもおかしくないが、明らかに温度が低かった。
 ホームセンターでスポットクーラーから出てくる風、そんな感じのものがオレの側を吹き抜けた。

 そういえば、さっきもペットボトルを冷たいと思った。
 クーラーボックスどころか扇風機すら持っている気配はない。
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