魔法は秋風と共に

こうやさい

文字の大きさ
上 下
1 / 5

-1-

しおりを挟む
「何だよ、通話スマホじゃ出来ない話って」
 夏休みといえば子供は外で遊ぶものだとボケかけているじーちゃんは繰り返すが、こう暑いと迂闊にそんなことが出来るはずがない。遊ぶのはどこか室内だとしても外出となれば移動がある、タクシーくるまで行けるところばかりとは限らない。ちょっと思い付いたでろくな準備もなくうろつけば後が怖い。そこまでして行ったところでオレらもなにかと忙しいから遊べるとは限らないしな。
 なのでどうしても一緒にやらなければならないこと以外は友達とは大概スマホ越しになる。……てか、会う約束するために連絡で案外用件片付いたりするし。
 だからそれでも直接しなければならないというのは――。
「飲むと使ドリンクがあるかもしれないんだって」

 魔法がおとぎ話の中の存在ではなく実在すると認められたのはオレ達が生まれる前の話で、使える人はすごく足が速いとかすごく記憶力がいいとか、そういう感じの個性として認識されている。いい意味で目立つ方のギフテッドってヤツだ。
 仕組みがあまり解明されておらず、超能力と呼ばれる事もあるが、それでもオレらは魔法と呼ぶ。生まれたときから使えないとは思いたくないそうだ。
 けれども目指してなれるわけでなく、人数は圧倒的に少なく、こんな地方都市……はっきり言えば田舎には存在していない。
 はずなのだが。

「誰かが使っていた……だけならそんな話にならないよな?」
 田舎は閉鎖的といえど別に鎖国とかいうヤツをしている訳じゃないから、人の出入りはある。碌な観光地とかないからあんま来ないけどな。
 なのでたまにそれっぽいのを使っている人がいないこともない……はっきり見せてもらったことがないからそれっぽいだけで、実は大人なら誰でも使ってるような道具の可能性もあるけど。スマホでだいぶ追いついたとはいえオレらの世界はまだまだ狭い。
 なのでそれだけでわざわざ直接会って話をしようとはしない。

 魔法の話はスマホを通さないというのはオレ達の間でやっている遊びで。
 意味がないと分かっていながら誰もが破らない願掛けで。
 忙しいはずのになぜか有る退屈のしのぎ方で。
 それでも目撃情報程度なら世間話なのだから普通にスマホでもやる。

「そもそもドリンクってどこから出てきたんだ?」
 ドリンク自体もそうだが、それで魔法を使えるようになるって発想が。
「いやバスの窓から見たんだって、中学生のおねーさんがペットボトル半分くらいを一気飲みした後、そのペットボトルを振り回したら不自然に風か」
「見てたのかよ!?」
 思わず叫ぶが。
「……いやけどバスの窓からってことは一瞬でその後も確認出来てないんだろ?」
 嘘は疑わないが見間違いは疑う。
「だいたい中学生って情報は何から?」
 中学生くらいってオレからすれば一番年齢が分かりづらい。
「制服着てた」
「あー」
 あの襟が暑そうな真っ白なセーラー服。部活かなんかの帰りなの見かけて中学生って地獄だなと夏休みの度に毎年思ってるヤツ。
 その地獄の中学生は近づいてくるのだが。
「それは目立つな」
 女子中学生は複数いるのでそういう意味では目立たないが、夏休みに制服姿で一人彷徨いていれば目立つ。
 一人?
「その人誰かと一緒だったとか、他の目撃者とかは?」
「バスは貸し切り田舎道」
 つまり乗客は自分だけで人がいない道だった、と。
「で、その人は一人だった」
「やっぱりか」
 オレらよりも大人と言っても中学生がそんな珍しいものの存在知ったら黙ってられるはずがないもんな。欠片も噂が聞こえてこないわけがない。女の友情とか信じない。
「けど目立つなら他にも目撃情報があるかもしれないな」
 魔法じゃなくとも夏休みに制服姿の少女が一人うろついていれば意識に引っかかる人はいるだろう。

「探そう」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ぼくの家族は…内緒だよ!!

まりぃべる
児童書・童話
うちの家族は、ふつうとちょっと違うんだって。ぼくには良く分からないけど、友だちや知らない人がいるところでは力を隠さなきゃならないんだ。本気で走ってはダメとか、ジャンプも手を抜け、とかいろいろ守らないといけない約束がある。面倒だけど、約束破ったら引っ越さないといけないって言われてるから面倒だけど仕方なく守ってる。 それでね、十二月なんて一年で一番忙しくなるからぼく、いやなんだけど。 そんなぼくの話、聞いてくれる? ☆まりぃべるの世界観です。楽しんでもらえたら嬉しいです。

イチの道楽

山碕田鶴
児童書・童話
山の奥深くに住む若者イチ。「この世を知りたい」という道楽的好奇心が、人と繋がり世界を広げていく、わらしべ長者的なお話です。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

おなら、おもっきり出したいよね

魚口ホワホワ
児童書・童話
 ぼくの名前は、出男(でるお)、おじいちゃんが、世界に出て行く男になるようにと、つけられたみたい。  でも、ぼくの場合は、違うもの出ちゃうのさ、それは『おなら』すぐしたくなっちゃんだ。  そんなある日、『おならの妖精ププ』に出会い、おならの意味や大切さを教えてもらったのさ。  やっぱり、おならは、おもっきり出したいよね。

かつて聖女は悪女と呼ばれていた

楪巴 (ゆずりは)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」 この聖女、悪女よりもタチが悪い!? 悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!! 聖女が華麗にざまぁします♪ ※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨ ※ 悪女視点と聖女視点があります。 ※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

そうして、女の子は人形へ戻ってしまいました。

桗梛葉 (たなは)
児童書・童話
神様がある日人形を作りました。 それは女の子の人形で、あまりに上手にできていたので神様はその人形に命を与える事にしました。 でも笑わないその子はやっぱりお人形だと言われました。 そこで神様は心に1つの袋をあげたのです。

処理中です...