9 / 13
誰かにとっての不幸あるいは幸福
そうして殿下は募らせる
しおりを挟む
彼女は成人のお披露目が済んですらぐっと忙しくなった。
今まで成人していないからですんでいた諸々が避けて通れなくなったためだ。
そのせいで殿下はしばらく彼女に会えていない。
この間まで夜会の打ち合わせで普段より顔を合わせる機会が多かったため余計に寂しい。
先日の着飾った彼女を思い出す。
そしていつもの彼女も。
綺麗だと思うのは着飾った方だけれど、好きだと思うのは普段の彼女だった。
もちろんほんの少しの差だけれど。
そして隣に立つ自分の姿を想像し――少しへこむ。
自分でも姉弟あたりとしか思えない。
夜会の時など、子供用の夜会服はないからと新しく作ったものの明らかに大きさが合っていなかった。
縫っている間に身長が伸びるかもしれないからと大きめに作ったせいだ。結局そこまで伸びなかったせいであちこちが緩かった。
もちろん見苦しくないようにきちんと調整をされたので相当近くで腕のよい職人が見なければ詰めてあるとは分からなかっただろう。
けれどもそうされていることは殿下自身は知っている。
そのせいか頭の中で並べた彼女との距離がますます遠ざかった気がする。
もう目を合わせるのに彼女に膝を付かせる必要はない。
それでもまだ足りない。
早く大人になりたい。
年齢差は変えることができなくとも、何か出来ることがあるはず。
分かっていたそれをに今更殿下が思い悩むのには理由がある。
本来なら彼女の成人は陛下に嫁ぐのと同じ意味を持つはずだった。
もちろん今はあの約束があるので国家情勢が大幅に変わりでもしない限り陛下との話が進むことはない。
けれどその話を知っているのは陛下と殿下だけで彼女すら知らない。
婚約者のまま放置されて何か言われるのは彼女だ。
本来なら陛下もいわれるはずだろうが、陛下だし、そうではなかったとしても既に相手が複数いる以上えり好みしているとでも思われるだろう。
ならば彼女に避けられる要素があるのではと考えられたりしないだろうか?
それが彼女自身が理由なのか、彼女の故国が理由なのか、はたまた思いがけない事なのか。
好き勝手噂されるだろう。それくらいは分かる。
けれどここでどちらか選べとは彼女には言えなかった。
未だ言いたくなかった。
大人になりたいと願いながらそう出来ない矛盾。
そうして焦りだけを募らせる。
今まで成人していないからですんでいた諸々が避けて通れなくなったためだ。
そのせいで殿下はしばらく彼女に会えていない。
この間まで夜会の打ち合わせで普段より顔を合わせる機会が多かったため余計に寂しい。
先日の着飾った彼女を思い出す。
そしていつもの彼女も。
綺麗だと思うのは着飾った方だけれど、好きだと思うのは普段の彼女だった。
もちろんほんの少しの差だけれど。
そして隣に立つ自分の姿を想像し――少しへこむ。
自分でも姉弟あたりとしか思えない。
夜会の時など、子供用の夜会服はないからと新しく作ったものの明らかに大きさが合っていなかった。
縫っている間に身長が伸びるかもしれないからと大きめに作ったせいだ。結局そこまで伸びなかったせいであちこちが緩かった。
もちろん見苦しくないようにきちんと調整をされたので相当近くで腕のよい職人が見なければ詰めてあるとは分からなかっただろう。
けれどもそうされていることは殿下自身は知っている。
そのせいか頭の中で並べた彼女との距離がますます遠ざかった気がする。
もう目を合わせるのに彼女に膝を付かせる必要はない。
それでもまだ足りない。
早く大人になりたい。
年齢差は変えることができなくとも、何か出来ることがあるはず。
分かっていたそれをに今更殿下が思い悩むのには理由がある。
本来なら彼女の成人は陛下に嫁ぐのと同じ意味を持つはずだった。
もちろん今はあの約束があるので国家情勢が大幅に変わりでもしない限り陛下との話が進むことはない。
けれどその話を知っているのは陛下と殿下だけで彼女すら知らない。
婚約者のまま放置されて何か言われるのは彼女だ。
本来なら陛下もいわれるはずだろうが、陛下だし、そうではなかったとしても既に相手が複数いる以上えり好みしているとでも思われるだろう。
ならば彼女に避けられる要素があるのではと考えられたりしないだろうか?
それが彼女自身が理由なのか、彼女の故国が理由なのか、はたまた思いがけない事なのか。
好き勝手噂されるだろう。それくらいは分かる。
けれどここでどちらか選べとは彼女には言えなかった。
未だ言いたくなかった。
大人になりたいと願いながらそう出来ない矛盾。
そうして焦りだけを募らせる。
0
お気に入りに追加
344
あなたにおすすめの小説
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。
ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。
なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。
妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。
しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。
この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。
*小説家になろう様からの転載です。
すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
【 完 】転移魔法を強要させられた上に婚約破棄されました。だけど私の元に宮廷魔術師が現れたんです
菊池 快晴
恋愛
公爵令嬢レムリは、魔法が使えないことを理由に婚約破棄を言い渡される。
自分を虐げてきた義妹、エリアスの思惑によりレムリは、国民からは残虐な令嬢だと誤解され軽蔑されていた。
生きている価値を見失ったレムリは、人生を終わらせようと展望台から身を投げようとする。
しかし、そんなレムリの命を救ったのは他国の宮廷魔術師アズライトだった。
そんな彼から街の案内を頼まれ、病に困っている国民を助けるアズライトの姿を見ていくうちに真実の愛を知る――。
この話は、行き場を失った公爵令嬢が強欲な宮廷魔術師と出会い、ざまあして幸せになるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる