我が罪への供物

泡沫の愛情

　結局、ただ娘を殺したいだけだった。

　あの男に半ばレイプされるように抱かれ、それを理由に結婚を迫られた。
　両親は責任を取ろうとするなんて誠実じゃないかと賛成した。
　傷物になった娘なんて片付くうちに片付けたいと思っている感情が透けて見えた。
　今時何を言っているんだといいたい。
　傷物にした方の要望を通すなんてどうかしている。

　それでも結局あの男と結婚させられ。
　それから十年、両親と同じようにあの男は娘とともに私を捨てた。
　むしろ長く持った方だろう。

　私が両親から注がれなかった分と、この子が父親から注がれるはずだった分の愛情を娘に注ごう。
　そう思うのが普通の親なのかもしれない。
　けれど私はそう思えなかった。
　半分は私の血を引いてお腹を痛めて産んだ我が子には違いないけれど。
　あの男の存在と消したい過去がこの子にはまとわりついている。

　けれどこの子は育てなければならない。

　私は海神様に花嫁を捧げるという伝統を持つ血族の一人だ。
　その伝統は女性にしか受け継がれず、両親も知らない。私は父方の祖母に教わったし、小さな頃行方不明になった姉がいた。
　それを引き継ぐなら私は娘を育て、嫁に出さなければならない。
　もうそれしか残っていない。

　そのためならば、そして将来的に死ぬのなら、育てることも出来るだろう。
　その後なんてものは知らないし要らない。

　けれど世界はそれすら叶えてくれない。

　ある日、娘より先に花嫁は捧げられたと知ってしまった。
　育てた時間も耐えた感情も無駄だった。
　このおぞましい男の残り物をどうすればいい？

　結局他に思いつかず、残り物は海に放り込んだ。
　すぐに見つかってしまい殺せなかったのはすこし心残りだけれど。
　もう何もかもどうでもいい。

　私には何も残っていない。