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慈雨
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「まるで雨のようね」
そう、彼女は微笑った。
あたしの血族には義務がある。
海神様に娘を嫁がせること。
そしてそれを代々女性の血族に受け継がせていくこと。
そうは言っても女の子を全員生け贄に出してしまえば、当然受け継がせる血族が居なくなる。
なので最低でも一世代に親戚中の中で一人、長いときは百年くらい間が開くときもある。
そんな調子だった。
あたしはちょうどその間の世代に当たっていた。
伯母や叔母が嫁がされた事もないし、娘や姪が嫁がされる事もない。
将来的には孫や姪孫が嫁ぐことにはなるかもしれないけど、今まで生きたよりも長い年月が簡単に想像がつくはずがない。
現状、ただ伝えるだけのだけの立場は、どこか気楽で他人事だった。
中学で彼女と友人になるまでは。
入学式で知り合い、不思議なほど仲良くなった。
何でもこの春越してきたとかで、以前は山に住んでいたとか。
だから海になれておきたくて引っ越した、と。
……その言葉が少し引っかかった。
中学生がわざわざ引っ越してまで海になれる必要がどこにあるんだろう?
昔やフィクションのように許嫁が海の側で住んでいて、もうすぐ嫁がなければいけないとでも言うのだろうか?
そう考えれば心当たりが一つ出来てしまう。
無関係な人に話したならば、何か罰でも当たるのだろうか?
それでも尋ねずにはいられなかった。
「まるで雨のようね」
そう彼女は微笑った。
遠いところに降った雨が川に溜まり流れて海に集まるように。
遠く離れた血族が出会うこともあるのね、と。
大好きな友人が遠いとはいえ、親戚だったということは嬉しい。
ここに来たのが海になれるためでなければ。
海の側にすみ続けるという訳じゃない。
水底に嫁いでしまえばもう会えない。
あたしの未来の孫か誰かがいくんだからそれでいいじゃない。
身勝手にもそういったけれど、彼女はうなずかない。
元が同じ血族だったとしても、今は違うルールで動いている。
「それでも嬉しいわ」
そう、彼女が微笑う。
「もし水底で孤独だったとしても、いつかあなたにゆかりのある人と会えるんですもの」
――途中で別れてしまっても、雨がいつかは海に集まるように。
それ以来、その話はしていない、彼女とも血族とも。
当たり前のように過ごし、当たり前のように笑い、当たり前のように卒業し……。
その後、彼女とは会っていない。
もしかして彼女がいたから自分の近しい家族が嫁がなくて済んだのだろうか?
今まではおとぎ話、あるいは海神様がいるという前提のごっこ遊びだった。
実際に誰か死んだわけではなかったから。
けれど海神様がいないのならば、彼女は本当に一人水底に沈んでいる事となる。
それを思うと体の芯が冷えていく気がした。
だから皆、花嫁を出すことを、伝えることをやめないのだろう。
少しでも慰めになるように。
そう、彼女は微笑った。
あたしの血族には義務がある。
海神様に娘を嫁がせること。
そしてそれを代々女性の血族に受け継がせていくこと。
そうは言っても女の子を全員生け贄に出してしまえば、当然受け継がせる血族が居なくなる。
なので最低でも一世代に親戚中の中で一人、長いときは百年くらい間が開くときもある。
そんな調子だった。
あたしはちょうどその間の世代に当たっていた。
伯母や叔母が嫁がされた事もないし、娘や姪が嫁がされる事もない。
将来的には孫や姪孫が嫁ぐことにはなるかもしれないけど、今まで生きたよりも長い年月が簡単に想像がつくはずがない。
現状、ただ伝えるだけのだけの立場は、どこか気楽で他人事だった。
中学で彼女と友人になるまでは。
入学式で知り合い、不思議なほど仲良くなった。
何でもこの春越してきたとかで、以前は山に住んでいたとか。
だから海になれておきたくて引っ越した、と。
……その言葉が少し引っかかった。
中学生がわざわざ引っ越してまで海になれる必要がどこにあるんだろう?
昔やフィクションのように許嫁が海の側で住んでいて、もうすぐ嫁がなければいけないとでも言うのだろうか?
そう考えれば心当たりが一つ出来てしまう。
無関係な人に話したならば、何か罰でも当たるのだろうか?
それでも尋ねずにはいられなかった。
「まるで雨のようね」
そう彼女は微笑った。
遠いところに降った雨が川に溜まり流れて海に集まるように。
遠く離れた血族が出会うこともあるのね、と。
大好きな友人が遠いとはいえ、親戚だったということは嬉しい。
ここに来たのが海になれるためでなければ。
海の側にすみ続けるという訳じゃない。
水底に嫁いでしまえばもう会えない。
あたしの未来の孫か誰かがいくんだからそれでいいじゃない。
身勝手にもそういったけれど、彼女はうなずかない。
元が同じ血族だったとしても、今は違うルールで動いている。
「それでも嬉しいわ」
そう、彼女が微笑う。
「もし水底で孤独だったとしても、いつかあなたにゆかりのある人と会えるんですもの」
――途中で別れてしまっても、雨がいつかは海に集まるように。
それ以来、その話はしていない、彼女とも血族とも。
当たり前のように過ごし、当たり前のように笑い、当たり前のように卒業し……。
その後、彼女とは会っていない。
もしかして彼女がいたから自分の近しい家族が嫁がなくて済んだのだろうか?
今まではおとぎ話、あるいは海神様がいるという前提のごっこ遊びだった。
実際に誰か死んだわけではなかったから。
けれど海神様がいないのならば、彼女は本当に一人水底に沈んでいる事となる。
それを思うと体の芯が冷えていく気がした。
だから皆、花嫁を出すことを、伝えることをやめないのだろう。
少しでも慰めになるように。
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