我が罪への供物

誰にざまぁすればいい？

　あたしには婚約者がいた。
　といっても好き合っていた訳ではなく生まれた時に決まったもので、しかも相手は会ったこともない人間どころか神様で、結局のところ生け贄を花嫁と言い換えただけだけど。

　海神様に娘を嫁がせること、その伝統を血族の女性にのみ残すこと。
　あたし達の一族に課せられた掟はその二つ。
　たった二つといっても簡単ではない。
　女の子を二人以上産み、かつ、嫁がせることを邪魔する人がいなければ何とかなるけれど。
　複数どころが子供が生まれない可能性が絶対ないとは誰にも言えないし。
　嫁がせると言っても結局は海に沈めることだから、掟なんてそんなこと知らなくて、もしかしたら知ってすら直接的なり間接的なり止めようとする人は家族にも他人にもいるかもしれない。

　そういう意味では母は上手くやっている方だったろう。
　あたしと妹と二人女の子を産み。
　早々に花嫁をどちらか決めて。
　障害になるはずの夫は海の事故で亡くした。母が手を下したかどうかは知らない。
　夫を弔うためという名目で時々娘と一緒に海に出向き。
　その途中で娘も海に囚われてしまってもおかしくはない。

　ただ誤算だったのはあたしむすめより先に別の人が海神様に嫁いでしまったこと。

　花嫁は同時期に複数はいらない。少なくとも母はそういう。
　こうしてあたしの婚約はあたしの知らないところで一方的に破棄された。

　ならばこれからどうしたらいいかと尋ねたら好きにすればいいいという。

　今まで母があたしに冷たいのは生け贄にする時に情が移ってためらわないようにだと思っていた。
　だってあたしは未練が残らないように気をつけていたから。
　深い付き合いの友達は作らず。
　そのために有り余る暇を潰すために始めた読書も、連載物は避けて読み切りや完結したものばかりを選んでいた。
　オンノベの婚約破棄物の短編なんて何本どれくらい読んだか覚えてない。
　自分は婚約破棄することもされる事も恋をすることもないのだからとよほど無責任に楽しめた。

　けれど婚約はなくなってしまった。

　未来なんて望まないようにしていたからやりたいこともない。
　相談できる相手もいない。
　妹は一応事情は知っているけれど、それでもまだ幼い。

　母はあたしを愛してはくれていなかった。
　最初がどうだったか知らないけれど、母の中であたしはもう娘にカテゴライズされていない。
　いなくなるはずだったのに何故か残っている邪魔者でしかなかった。

　そして婚約はなくなっている。行き場がない。

　オンノベだったら理不尽な婚約破棄には仕返しがなされることが多い。
　ならばあたしの仕返しは、どこにぶつければいいのだろう？