我が罪への供物

せめて六月ならば

　ブーケトスに憧れていた。

　それは叔母の結婚式を見たのが切っ掛けという、女の子らしくも単純な話。
　退屈な部分は嫌だったけど、結婚にもドレスにも憧れた。
　けれど何より記憶に残っているのは空を舞う白い花束だった。

　まだ伝承の存在を知らなかった幼い頃。
　だからあたしが結婚式を挙げることがないということを知らなかった。
　海神様に嫁ぐこと、それを血族の女性にのみ伝えていくこと。
　あたしがその花嫁とは名ばかりの生け贄だということ。
　知っていたならばよくは分からないなりに諦めを抱いただろう。
　そうしていればこんなに切なくなかっただろう。

　それでもドレスに見立てた白いワンピースをまとってみたけれど、結局は死に装束としか思えなかった。
　だから海に投げたブーケも自分に対する手向けの花に過ぎない。
　誰かに幸せを渡せる訳じゃない。
　当時そんな風に考えていた訳ではないけれど。

　そうやってあたしは何も残さず消えてしまうのだろう。