この恋は罪でいい

こうやさい

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エマ 後編

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「それであたしはいつまでここにいればいいのですか?」
「最悪、国があなたを見つけ出すまでよ」
 何か規模が更に大きくなった。
 疑問が表情に出ていたのだろう、貴族さまのように何があってもおすましはなかなか出来ない。
「いけないわ、説明の順番と、そもそも説明するのを忘れていたわね」
 やっとあたしにも分かるように説明してくる気になったらしい。

「あなた、殿下に迫られているでしょう?」
 さーっと血の気が引くのが分かる。
 確かに正直にいってしまえば迫られているというかつきまとわれているというか思い込まれているというかなんだけど。
 こっちは正直言ってときめくどころか迷惑してるけど。
 その殿下の婚約者さまに今更それを尋ねられているということは責められているということで。知られているのはいくらなんでもさすがに分かってたけど無視というか見逃してくれるというかあたしには怒ってないというか……とにかく直接触れられるとは思っていなかった。
 否定するべきか肯定するべきかどう返事をすれば不敬にならないのかも分からない。
「責めている訳ではないわ、あなたが嫌がっている事くらいは分かるから」
「アンリエッタ様っ」
 それだけで苦労が報われた気がします、もう本当に。
「けれどわたくしに殿下の気持ちがない事は事実ですもの。それでも政略に従うつもりがあるのか確かめることにしましたの」
 婚約を解消するかどうかというお話ですよね?
「そこにあなたがいれば殿下はより感情的になられるでしょうし、もっと直接的に巻き込まれるかもしれないわ」
 …………すみません、否定出来ないです。
「巻き込まれてはっきり求婚でもされた場合、後々遺恨が残らないように断れて?」
「……無理です」
 お優しいと分かっているアンリエッタ様に対する返事すらまともに出来なかったのに、あの思い込みの激しい殿下相手に失礼にならないかつ理解させるとか難易度が高すぎますし、もし殿下が納得されても周りが騒ぐのも予想が付きます。意見を統一してくれれば諦めて従うこともまだ考えるけど、間違いなくバラバラです。それくらい学びました。
「なので話をする間こじれないように、長くなるかもしれないけれど見つからない場所に隠れていて欲しいの。それでここに」
「ありがとうございますっ」
 むしろそれはこちらが頼みたい。居る場所まで用意してくれるとかいたせりつくせり。

 だけど。
「アンリエッタ様は迎えに来て下さらないのですか?」
 貴族のご令嬢に来いとはなんとも不遜だけれど、嫌な予感がひしひしとする。
「どう転んでもばたばたするだろうから、確約は出来ないのよ」
 その問いはほんの少し困ったような微笑で返される。
「だからあなたが敵じゃないと思える人が迎えに来るまで、あるいは大事になって殿下一人ではどうにも出来なくなったとき――場合によっては逃げ切れると思うかほとぼりが冷めるまで、ここにいてちょうだい?」
 その時アンリエッタ様は?
「あの、アンリエッタ様が来て下さるのを待ってますから」
 それでもはっきりとは聞けず、そう返す。
 アンリエッタ様がツンと顎を上げる。
「あら、わたくしを使う気? 生意気な庶民ね」
 いまさら、その辺の令嬢なような態度を取っても、返事を誤魔化しているとしか思えなかった。

 ――問うべきか、ほんの少し迷った。
 けれども、なによりそれを許さない空気があった。
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