この恋は罪でいい

こうやさい

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あったかもしれないしなかったかもしれない話

マクスウェル

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 崩れ落ちる息子を見てなんとも言えない気分になる。
 悔やんでも戻らないものは戻らない。


 昔、息子に魅了をかけるように先代の宮廷魔導師に命じたのは私だった。
 歴代王族は代々そうやってきた。

 貴族は幼い頃から婚約を整えることが多いが、王族の場合更に早い。正確には周りがはっきりと計画して顔を合わせるようになるのが他の婚約者同士より早いことが多い。
 王の子といえど子供、いくら言い含めていたとしても思いがけないことをやりかねないし、その印象が根強く残れば年頃になって交流の障害になることもある。政略といえど最低限すら取り繕えない関係ではさすがに問題だ。
 なので分別がつく頃には解けるような軽い魅了をかけた……ジョシュアとアンリエッタ嬢に。
 それで好きな子に嫌がらせをするようなら違う意味で教育のし直しだろう。

 そうして二人は仲良くなり、穏やかな関係を築きながら成長した。

 その息子がアンリエッタ嬢以外に恋情を抱くとは思っていなかったし、そんな報告もなかった。
 調べてみるとアンリエッタ嬢が止めていたらしい。
 最初は学生時代のお遊びだろうし婚約者が止めないのならと思っていた人たちすら慌て始めてからも、強固に。

 そして今、その魅了が問題を起こしていたとが判明した。
 もしかしたらアンリエッタ嬢もそうだったのかもしれない。
 ……だから抱え込むことを選んだのかもしれない。

 昔、幼い二人が一緒に楽しそうに同じ本を眺めていたところを見たことがある。
 あれは普通に恋に落ちていて魅了は関係なかったのだろうか?
 使われなかった魅了がこんな形で今更出てきてしまったのだろうか?


 真実は、特にアンリエッタ嬢の方に何があったかは分からない。
 けれどもあそこで魅了をかけなければ違う未来があったのだろうか。

 魅了が本来禁術である理由が痛いほど分かった。
 悔やんでも戻らないものは戻らない。
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