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アンリエッタ
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地下牢はシンと冷えてシンと静まっています。
殿下に掴まれた肩だけがジンジンと熱を持ちます。
ここは刑が確定した貴族の重犯罪人を外部からの隔離や心を折るために収容するところ。みたところわたくし以外人が居ないようで幸いですわ。
本来、刑が確定していない上罪状を否認しているわたくしは……それどころか本当に殿下のいいがかりをやっていたとしても恐らくここに入れられることはないはずですが。
あのあと殿下が絶対に出すなと念を押しに来た上に、口を割らないと知るやせめてと入れてくださった毛布まで取り上げていきました。牢番に口止めはきちんとなさったのかしら?
それからずっと放置されております。証拠を見つけるために証言させるよりエマを探す方を優先したんでしょうね。
うちは現在王家に叛意はありませんけれど、いざという…………こういう時には王家が敵に回ることも想定してあります。殿下では見つけ出すことは不可能でしょうね。
それで延々と見つからないのも困りますから、頃合いを見て迎えに行く方は用意してますわ。
殿下の側近のセイリアスなのですけど、今回殿下がやらかしたなら見限るとの言質を取りましたのでお教えしました。殿下に隠れ場所を流すことはないでしょう。
……やらかさなければエマはお望み通りわたくしが迎えに行ったのですけど、やらかすように誘導していたのですからまず無理ですわね。
確認してはいませんが、エマはセイリアスが好きなようですの。優しくされればくらっとくるのは分かりますわ。
殿下も優しくしているおつもりなんでしょうが、あの子とは感覚が違いすぎる上に独りよがりで。
恐縮と困惑を続けるエマをセイリアスは最初は殿下のために、その後は彼女のために助けていたようで。
いずれは両想いでしょうね、微笑ましい事。
もしエマの立場が特待生をやり遂げても足りないというならうちの養女にするよう手配してあります。無駄に爵位を抱えておりますから、もし彼とは駄目になっても好きな立場で好きな方に嫁げますわ。もちろん今のまま居ることも、結婚しないこともエマの自由です。自分で選んだことならエマなら頑張れるでしょう。
いろいろと継ぐはずの娘はここでいなくなりますし。
この学校では卒業式は冬に行われます。式だけ先に行われるのです。卒業後の立場がいろいろありますので、学校に通える人がこの後あたりからぐっと減ります。……成績や素行不良で卒業出来そうもない方を誤魔化すためでもあります。
つまりこの牢は冬らしく冷え切っております。
さすがに脱がされまではしなかったものの、防寒を考えていない服で放り込まれ、碌な準備もされずに放置され、毛布まで取り上げられて。
健康に自信がある方でも本気で元気と言いきれるのはきっと短い時間でしょうね。
わたくしは殿下の婚約者という立場でいられる程度には病弱ではないのですけど、それでもこれに耐えられる自信はありません。既に頭がくらくらしていますし。
予定通りです。
仮に殿下がわたくしとこのまま結婚してくれても、心は手に入りませんわ。
ですからそれは諦めました。
代わりにわたくの存在を刻みつけようと思いましたの。
出来るなら婚約者の立場のまま殿下に殺されたいと。
最悪でも熱を出してしばらくは意識がもうろうとするでしょうね。その後は傷物扱いで修道院かしら?
いろいろと許されている殿下とはいえ、罪の無い婚約者にそんな嬲るようなことをすれば、どんな風かはとにかく、記録にも記憶にも残るでしょう。
残ればいずれは殿下に向かっていくでしょう。
周りがわたくしを忘れさせてくれないでしょう。
陛下方もいずれお気づきになるでしょうし。
お忙しい中、息子を卒業式に出してやりたいと無理をなさって余裕がないそうですのに、更に騒ぎを持ち込むことだけは申し訳ないと思っております。
特に重要な案件がこの時期まで続くだろうと聞いたので対応が遅れるとのことで、これ幸いと計画を実行に移した訳ですけど。
一応、他の手段も考えていましたけれど、これが一番確実だと思いましたの。
それでも追い詰めたいのはあなた方ではありませんわ、申し訳ございません。今更やめられないし、やめるつもりもありませんけれど。
好きな方を追い詰めようだなんて酷いですわね。
けれどもうわたくしにはこれ以外思いつきませんの。
たまに今殿下にそこまで恋い焦がれているのかと考える事もありましたけれど。
わたくしが好きになった殿下はもういないと心のどこかで理解している気もしますけれど。
それでも幼き日の想いがわたくしを放してはくれません。
優しくされればくらっときたものです。
この恋は罪でいい。
叶えることは出来なくとも貫くことは出来るから。
罪だとしてもいいのです。
わたくしはそれを抱えていけるのですから。
――愛しています。
その言葉は口から出たのか出なかったのか。
ただ静寂に溶けていきました。
殿下に掴まれた肩だけがジンジンと熱を持ちます。
ここは刑が確定した貴族の重犯罪人を外部からの隔離や心を折るために収容するところ。みたところわたくし以外人が居ないようで幸いですわ。
本来、刑が確定していない上罪状を否認しているわたくしは……それどころか本当に殿下のいいがかりをやっていたとしても恐らくここに入れられることはないはずですが。
あのあと殿下が絶対に出すなと念を押しに来た上に、口を割らないと知るやせめてと入れてくださった毛布まで取り上げていきました。牢番に口止めはきちんとなさったのかしら?
それからずっと放置されております。証拠を見つけるために証言させるよりエマを探す方を優先したんでしょうね。
うちは現在王家に叛意はありませんけれど、いざという…………こういう時には王家が敵に回ることも想定してあります。殿下では見つけ出すことは不可能でしょうね。
それで延々と見つからないのも困りますから、頃合いを見て迎えに行く方は用意してますわ。
殿下の側近のセイリアスなのですけど、今回殿下がやらかしたなら見限るとの言質を取りましたのでお教えしました。殿下に隠れ場所を流すことはないでしょう。
……やらかさなければエマはお望み通りわたくしが迎えに行ったのですけど、やらかすように誘導していたのですからまず無理ですわね。
確認してはいませんが、エマはセイリアスが好きなようですの。優しくされればくらっとくるのは分かりますわ。
殿下も優しくしているおつもりなんでしょうが、あの子とは感覚が違いすぎる上に独りよがりで。
恐縮と困惑を続けるエマをセイリアスは最初は殿下のために、その後は彼女のために助けていたようで。
いずれは両想いでしょうね、微笑ましい事。
もしエマの立場が特待生をやり遂げても足りないというならうちの養女にするよう手配してあります。無駄に爵位を抱えておりますから、もし彼とは駄目になっても好きな立場で好きな方に嫁げますわ。もちろん今のまま居ることも、結婚しないこともエマの自由です。自分で選んだことならエマなら頑張れるでしょう。
いろいろと継ぐはずの娘はここでいなくなりますし。
この学校では卒業式は冬に行われます。式だけ先に行われるのです。卒業後の立場がいろいろありますので、学校に通える人がこの後あたりからぐっと減ります。……成績や素行不良で卒業出来そうもない方を誤魔化すためでもあります。
つまりこの牢は冬らしく冷え切っております。
さすがに脱がされまではしなかったものの、防寒を考えていない服で放り込まれ、碌な準備もされずに放置され、毛布まで取り上げられて。
健康に自信がある方でも本気で元気と言いきれるのはきっと短い時間でしょうね。
わたくしは殿下の婚約者という立場でいられる程度には病弱ではないのですけど、それでもこれに耐えられる自信はありません。既に頭がくらくらしていますし。
予定通りです。
仮に殿下がわたくしとこのまま結婚してくれても、心は手に入りませんわ。
ですからそれは諦めました。
代わりにわたくの存在を刻みつけようと思いましたの。
出来るなら婚約者の立場のまま殿下に殺されたいと。
最悪でも熱を出してしばらくは意識がもうろうとするでしょうね。その後は傷物扱いで修道院かしら?
いろいろと許されている殿下とはいえ、罪の無い婚約者にそんな嬲るようなことをすれば、どんな風かはとにかく、記録にも記憶にも残るでしょう。
残ればいずれは殿下に向かっていくでしょう。
周りがわたくしを忘れさせてくれないでしょう。
陛下方もいずれお気づきになるでしょうし。
お忙しい中、息子を卒業式に出してやりたいと無理をなさって余裕がないそうですのに、更に騒ぎを持ち込むことだけは申し訳ないと思っております。
特に重要な案件がこの時期まで続くだろうと聞いたので対応が遅れるとのことで、これ幸いと計画を実行に移した訳ですけど。
一応、他の手段も考えていましたけれど、これが一番確実だと思いましたの。
それでも追い詰めたいのはあなた方ではありませんわ、申し訳ございません。今更やめられないし、やめるつもりもありませんけれど。
好きな方を追い詰めようだなんて酷いですわね。
けれどもうわたくしにはこれ以外思いつきませんの。
たまに今殿下にそこまで恋い焦がれているのかと考える事もありましたけれど。
わたくしが好きになった殿下はもういないと心のどこかで理解している気もしますけれど。
それでも幼き日の想いがわたくしを放してはくれません。
優しくされればくらっときたものです。
この恋は罪でいい。
叶えることは出来なくとも貫くことは出来るから。
罪だとしてもいいのです。
わたくしはそれを抱えていけるのですから。
――愛しています。
その言葉は口から出たのか出なかったのか。
ただ静寂に溶けていきました。
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