この恋は罪でいい

こうやさい

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エマ 前編

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「ここはどこなのですか?」
 何も言わずについてきて欲しいと頼んできたアンリエッタ様に今更ながら尋ねる。
「うちの王都の家の近くにある森の、こっそり隠れるために作った小屋よ」
 小屋とは言うけれど、あたしの家よりよほど立派だった。こっそり隠れるというのは高さがないという意味だろうか? 
 けれどそんなものがどうして必要なのだろう?
 領地と王都の両方に屋敷があるのはそれでも実家と寮みたいなものとでも無理矢理考えれば分かる。家が遠すぎればいくら貴族さまが立派な馬車を使っていようとも学校にもおちおち通えないだろう。正直貴族様の馬車って普段は体一つで走った方が速いようなかんじだし、急いだときにものすごい速かったのを見たことあるから実際問題それなりに速くいけるだろうけど、それでもこの国は広いと習った。
 それくらい離れた場所に他に家があるのに隠れるための場所まであるだなんて。

「あたしは何をすればいいんですか?」
 何よりそこにあたしを連れてきた意図が分からない。
「しばらくここに隠れていて欲しいわ」
 やはり意味は分からない。隠れるってどれくらいきっちりと?
「備蓄じゃない保存食とやらは揃えてあるし、新鮮な野菜がほしければ今の時期でも大丈夫なものなら中庭に植わっているわ。井戸もそこに」
 常に使えるようにしてあるのか、今回揃えたのかずいぶんと手回しがいい。
 あと敷地内にずっと籠もれの意らしいと分かった。学校に通うなら市くらいなら寄れるはず。
「新たに大きなものをを運び込むのは今しか出来ないから必要な物があるなら早めに言ってちょうだい」
 そう言われても何があるかも把握していないのでは返事のしようもない。
「あと、料理人と女中の手配が遅れているの。しばらくは保存食をそのまま食べて貰うことになると思うけど……」
「あの、あたし出来ますよ料理。自分で食べるような簡単なものならですけど」
 貴族さまの台所といえど下働きもいるはずなのだからそこまで特殊な物ではないはず。
「絶対に触っちゃいけない物とか、特殊な部分だけ教えて頂ければ多分何とか……」
 何が特殊かアンリエッタ様が知っているかは分からないけど、他の人が全然いないようではなさそうだし。

「エマは凄いわね」

 学校で淑女の中の淑女とたたえられるアンリエッタ様は皆の憧れだった。
 なのに料理を下の者がするものと切り捨てず、出来るあたしを凄いという。
 その上出来ない部分の穴を埋めてくれることもある。
 たとえば貴族以外にはなかなか入手出来ない道具を融通してくださることは感謝しかない。アンリエッタ様がやったわけでもないのに壊してしまったから弁償したという体を取ってこちらの精神的負担を軽くし他の人に口も手も出させないようにしてくれた。アンリエッタ様さえ壊せば弁償するとなると他の人も弁償を覚悟してまで壊そうとはしないし、そもそも弁償とはいえアンリエッタ様が与えた物を壊そうとはしない。
 他の方には良くて無視されていることがほとんどなのに。
 本当に凄いのはアンリエッタ様だと思う。
 そんなアンリエッタ様だからこそ信用してついてきたのだけれど、意図だけは未だ分からない。
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