この恋は罪でいい

こうやさい

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ジョシュア

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「アンリエッタ!!」
 目の前の細い肩を思い切り掴む。
 淑女に対する態度ではないと理性は訴えるが感情はそれを聞かない。
 ……そもそもこいつはもう淑女とは呼べない。
「エマをどこにやった!?」
 ただの犯罪者に過ぎない。
 この学校の生徒である以上、理由も連絡もなく卒業式でもある学校での夜会を休むはずがない。
 ならば誰かが妨害をしたと考える方が自然だ。

「まぁジョシュア殿下」
 この目の前にいる親が決めた婚約者である侯爵令嬢おんなは、すました顔でいつものように扇を広げようとしたが無様にも取り落とした。その無様さか貴様の本質だ。
 なのに慌ても拾いもせず視線もそらさない。まるで自分が何よりも気高いとでもいうように。
「わたくしは気のない相手につきまとわれては不快でしょうと引き離したまでのこと」
 もっとも言動が言動なのでそんなもの端からは欠片も感じない。
「エマを不快に思った事など一度たりともない」
 市井から特待生として入学したという経緯のせいもあってか、エマはいつでも控えめだった。気にしなくてもいいと言っているのに王太子という立場に遠慮していた。
「殿下の話をしているのではありませんわ」
 ……そして、割り込んでくるアンリエッタに萎縮していた。
 つきまとわれて不快というならむしろエマの方がアンリエッタに対して感じていただろう。

「お前は見えるところ以外でもエマに何かしただろう!!」
 少なくともエマは孤立していたし、アンリエッタがエマの持ち物を壊していたことも知っている。
「ご想像にお任せいたしますわ」
 証拠が出ない自信でもあるのか、一瞬状況を忘れて見惚れるほどアンリエッタはつややかに微笑う。
 だかそんな事では誤魔化されない。
「必ず証拠を見つけてやるからな!!」
 王家の特務部隊をなめるな。
「ええ、見つけられましたらね」
 と言わなかった以上、それも証拠だ。

「衛兵、この女からドレスも宝飾品も取り上げてふさわしい格好にしてから地下牢に放り込んでおけ」
 そうすれば簡単には逃げられないだろう。日頃から使ってみたいと言っていたようだしちょうどいいだろう。
「し、しかし……」
「逆らうのか?」
 ぎろりとにらむと衛兵はやっとアンリエッタに近づき、拘束というよりはエスコートに近い態度だが、会場から連れ出した。
 尋問してエマの居場所を吐かせるべきか。
 いや、のらりくらりとかわされているうちに手遅れになるかもしれない。
 ……既に手遅れだとは思いたくはない。
 エマ、どうか無事でいてくれ。
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