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 卒業が近づいて来て、殿下でなくとも役目が決まっている人たちは実務に携わる準備のため、決まっていない人はその役目を探すため忙しくなった。……暇そうなのもいることはいるけど。
 あたしも卒業後どうするか考える事に忙しいはずなのだけれど。
 とりあえず知り合いのところで聞いてみたところ、どうも学園を出たという付加価値と学園で学べる知識が重要なようなので、就職の時期が遅れるかもしれないけど最後まできっちり通う事を優先する事にした。
 魔法は許可がないと使えないから地元ではあまり意味はない。通えるようにされたのは活用させるためというより基本的な制御を学んで暴発を防止するのためだったようだし……周りに対応になれた上級者が多いせんせいがいるので万一の時も対処しやすいらしい。
 それは貴族の人なら既に教わっている部分で、補講として学んでいて、授業でやった事って結局使えないんだからほぼ無駄よね。あと魔力のある理由が貴族の隠された御落胤じゃないかの調査もあったらしい。……確かに少しぽやぽやしてるけど、普通なんだけどなぁ両親。
 それも今となっては特に意味もないことで、比較的のんきに過ごしていた。

 そのせいか、殿下が疲れて見えた。

 いくら殿下が有能でも本職に混じれば経験の差があるだろうし余裕でこなすことは出来ないんだな、なんて心配はしつつもそこまで深刻には思っていなかった。
 就職にしろ手伝いにしろ何か仕事をやり始めた子供――当時は年上だったけど――がへばっている姿なんてよく見かけたし。
 王族でも変わらないんだなぁ、なんて思わなければいいいことを思ったりもした。

 そんなところに求婚が来た。

 やっぱり疲れているのだなと思った。
 疲れていれば違う世界にいるものがまぶしく見えるのはしょうがない。その感情が善望になるか嫉妬になるかはたまた安心感になるか逃避になるかは人それそれだろう。
 だからこの時期で良かった。間違えず判断が下せる。
 期待なんてもうしていないはずなのに、具体的な言葉は強い。
 感情は忘れたつもりでも見た夢は覚えている。
 似た感情を再び抱かないとは言いきれない。

 言った言葉に嘘はなかったし、そう間違ってもいないと思ってる。
 きっと殿下なら乗り越えられると信じている。
 それでも殿下でいようとした方なのだから。
 きっと、だからこそ幸せでいて欲しいと思えるのだろう。

 ただ殿下が口にした心情を。
 珍しいであろう形にした言葉を。
 切り捨てなければならなかったことは残念に思っている。

 もちろんどうやっても叶えられる事ではないけれど。
 錯覚にすぎないのだろうけど。
 それでもあたしに自分の願いを強く望んでくれたのは初めてだったのに。
 否定や拒絶しか出来ない事が苦しかった。
 それがあたしの限界なのだろう。

 殿下が話を打ち切ってくれたのは優しさからだろうか?
 それとも失望されたのだろうか?
 それを嘆くことは許されないだろう。


 妙にゆっくりな鼓動が、どこか夢の中のようで。
 感情のまま動いていれば、こんな風に穏やかにはいられなかったはず。
 それを喜べばいいのか悲しめばいいのか分からない。
 子供のまま、感情のままいられることは幸せだろうか?

 それでも好きだった。
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