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望むのはわがままか?

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 婚約者殿は腹芸が出来ない。
 いや出来るかもしれないが俺の前ではやっていないように見える。
 まだ解消前提が消えないとはいえ婚約者なのだし他の時でも役に立つからと、機密に関係ないかつ基本に近い妃教育として礼儀作法などは習っていて、挨拶などの定型に近い所作は少しばかり洗練されてきたように思う。
 そのためにぎこちなさも少なくなり、礼儀と線はきっちり守りながらも素で過ごしているようにしか見えない。
 嬉しいと思うべきなのか、欠片も意識されていないと嘆くべきなのかちょっと悩んでいる。
 そう思っていた。

 それは彼女自身に多く関わる話題のときだった。
 当たり障りなく無難で、それでいて彼女自身はそれが楽しいとか嬉しいとかそんな感じで話す事が多い。
 好きなことの話なら無難な部分だけじゃなくもっと話が聞きたいなと思ってから気づく。
 それが取り繕われたものだと。
 彼女について調べたいろいろで彼女が兄弟間で孤立していることは知っている。
 そのことについて何もかも分かるというわけではないが、孤立しているというなら一部発言内容が成立しない。それ以外も曖昧にされている部分が多い事に気付く。
 別に俺に隠したいという感じではない。
 ならばそんな嘘を誰に対して吐き慣れる必要があるのか。
 決まっている、義理の両親、特に義母だ。
 育ててもらっている以上、その子供達の所業を言いつけるような真似は出来なかったのだろう。

 彼女が不自然に痩せていたり、見える部分に怪我をしていたり、身体が痛がるようなそぶりをしたことはない。なので肉体的に虐待はされていないと思う。
 服装は王族に会う事が前提なのだから、たとえ日頃どんなボロを着せられていたとしてもそこは隠されてしまう。もっとも慣れない格好のようではあるが極端にという風には見えないので、そちらも問題ないのだろう。
 ならば本当に居づらいだけなのだろう。一番他人が介入しづらい状況だな。
 それが全然平気な人も、ものすごく辛い人もいるはず。
 彼女には辛いのだろう。そうでなければ解消前提の婚約などするような性格ではないと思う。
 ……最近、そう思うようになった。

 最初は面白いと思って興味を持った。そしてこちらに興味を持ってくれないことを悔しいと思った。
 そしてそれだけの人ではないと知った。
 そこで俺が彼女への興味を失えばあるいはそれが一番平和だったのかもしれない。
 次の婚約者が出来るまでの数年は我慢しなくてはならないが、それが終われば彼女は望む生活を手に入れられる。
 俺が次の婚約者に興味を持てるかどうかは分からないが、彼女を執着なく手放すことは出来ただろう。

 だけど未だ彼女を離したくない望む。
 それは彼女には負担でしかないだろう。
 自分の事だけ考えていたあの頃を恥ずかしいと思う。
 けれどほんの少し懐かしくもあった。
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