残ったのはただ一人

こうやさい

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 その後、王太子の地位には第三王子殿下が就かれたと聞いた。
 結婚相手の候補がみないなくなった殿下では、これから探す第三王子殿下よりも貴族相手には難しいだろうと。それでも簡単ではないだろうが。
 殿下は王位に就かなければそれでも貴族以外との結婚を許される可能性が以前よりはあるし、王位に就かないならゆっくり探すことも出来る。王位を継ぐとしても中継ぎになるそうだ。
 確実に貴族の血を引く子供に王家を継がせるために殿下は退いたのだろう。
 それでも予備として第二王子殿下は国外に出て、その国の公爵家の娘と縁づいたと聞いた。万一の時はその二人の子がこの国の王冠を戴くことになるだろう。その時までに病への恐れが払拭されているといいが
 直接的に矢面に立ったわけではないとはいえ、殿下あれほどの目に遭ったのだ。今後は少しでも平和に生きて欲しいと思う。
 あんな関係だし、向こうがこちらをどう思っているかは分からないが、個人としては案外と嫌いではなかった。

 王家を謀ろうとした元婚約者候補達は、本来ならば毒杯を賜り、その代わり病死として名誉は守られる辺りの沙汰になるはずだったのだろうが、一度に女性が複数人亡くなったとなればまた流行を疑われかねない。本来なら逆を勘ぐられるはずの事態なのにまだまだ傷跡とは深い。
 それに今は圧倒的に女性貴族が少ない。
 罪をつまびらかにし、その上で望むならと貴族達に下げ渡したそうだ。
 元の家は手を差し伸べなかったらしい。好き勝手やっていたようだがその程度の扱いだったようだ。
 それでどこそこの家に嫁いだというなら、元々政略が当たり前の貴族なのだから軽い罰になったな思うところだが、彼女達は複数の貴族男性に共有されることになったらしい。
 娼婦との違いは彼女達には子が望まれているということ。
 複数の貴族男性で協定を結び、身分が高い順から子がうまれる可能性が出来る行為をする権利を持ち、一定期間後、あるいは子が生まれた後は次の相手に下げ渡されるらしい。
 子供が産まれなかったり順番が回ってこない場合は諦めなければならないそうだ。その頃には他の貴族女性も少しは出てくるかもしれないが。
 恐らく歳を取るまで誰かのところで閉じ込められて過ごすだろう。死ぬのとどちらが辛いだろうか?
 瑕疵のない貴族以外より罪を犯した貴族の血を求めるのだから、本当に歪んでいる。
 あるいはこの程度の罪はたしなみなのだろうか?

 俺はあの後、あの場所から、王家から重い身体を引きずるようにして逃げ出した。
 うちの一族は公に守ってもらえることが少ない分、身内はぎりぎりまで庇う。
 その為今の俺にでも情報が入る。毒味や諜報などで王侯貴族に関わる人はまだいるのでかなり正確な情報だろう。
 もっともそれがもたらされるのはそのぎりぎりを超えてしまえば差し出せるように居場所を把握するためでもあるのだろう。
 支援や情報は確かに必要だし有り難いが、本気で逃がそうと思うならいくら隠密行動が得意でも継続的に接触しようとはすまい。
 一段落着いた今、逃げ出した影の事をそろそろ思い出すかもしれない。
 安全を考えるなら利点に釣られず一族とも縁を切った方がいいだろう。
 元々、一族を人質にするためとはいえ待遇が一時的に改善されるであろう事と引き換えにつくことになった役目だ。
 それが終われば殺される可能性を考えて皆が俺を逃がす準備はしてくれていたが、想定外のものまで拾ってきてしまったわけだし。

 元々俺のものじゃなかった立場は失った。
 それでも結束していたはずの一族との絆は断ち切ろうとしている。
 俺に残ったのは――。

 振り返れば合う視線がある。
 手を伸ばせば繋いでくれる人がいる。

 あの言葉は偽りではなかった。

 残ったのは。
 ――彼女、ただ一人。
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