異形どものパレヰド

プロローグ篇

主はんの隨に

　人間サマにとったらわてら異形なんぞ関わりとうないもんやろ。わてらもそうや、できれば人間サマとは関わりとうない。人間サマは朝早うから夜遅うまでせっせか働いたりがりがり勉強したりすればええねん。その人間サマがおねんねしてからまた起きるまでの間だけわてらの時間になればええねん。やれ都市伝説や、やれ妖怪や騒がんと大人しゅうしとればわてらなァんもせん。わてら、興味持たれると嬉しゅうて嬉しゅうて、ついちょっかいかけてまうのや。
　あとな、最近多いねん、祠荒らして住処荒らして 憑かれただの祟られただの被害者ぶる阿呆あほうども。お門違いやで。人間サマでいうプライバシィってやつはわてらにもありますのや。そら確かに根っからの祟り神もおるし、悪霊かてうじゃうじゃおる。けど全部が全部そうとは違うのや。悪いのはわてらだけとちゃいますねん、おあいこや。
　まあ、わてらの話はどうでもええねん。 わてが聞いてほしいんはわての主あるじはんのことや。四ツ谷よつやヨミ、それがわての主はんの名や。まァだ若いんやけどな、たまげるほど強いねん。 物理的にも、精神的にも、対異形能力的にもな。まさかこのわてが十五、六の嬢ちゃんに使役されるなんて思わんだわ。ヨミのひいじいちゃんが百歳間近でまだぴんぴんしとるくそジジイやねんけどな、多分、こいつの力を色濃ォく継いどるんとちゃうやろか。なんとなく魂の感じも似とる。あと顔立ちも性格も似とる。親の遺伝子よりジジイの遺伝子のが強いてどういうこっちゃねん。わけわからんわ。
　……あ、呼ばれた。すまんな、わておしゃべりやねん。千年と八十年封印されててな、外に出れたんつい最近やもんでな、今まで寂しかったぶん口がよう回る回る。油塗ったかいな、ってくらいにな。つい話し込んでしもた。うちの主はん、今機嫌悪そうやで待たせたらどえらいことになるわ。
　ああ、そうそう。最後にいっこ。あんた引っ越したほうがええで。色んな隙間からずーっと妖があんたのこと見てんでな、そろそろ死ぬで。今体調どえら悪いんとちゃう？祓いたかったらいつでも呼んでや。宛名のとこに“四ツ谷”って赤ァい字ででっかく書いて、あんたの住所と名前だけ書いてな、野良犬とか野良猫とか烏の集まっとるとこに置いといてくれたら遅うても二、三日で行くで。
　ほな、お元気で。異形関係は祓い屋の四ツ谷にお任せでっせ。