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三章 忌み地と名も無き神

19 最終話 再生

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「何なの、コレ。まるで業の塊ね」



禍々しい気配は止むこと無く、徐々に大きくなっていく。

「これは••••因果を歪められた••••そう、世界の理がーーーー」

「え、何て?この渦の事?」

ポツリと呟いたライディオス兄様は、コレが何なのかわかったようだけど、その向こうに力無く横たわる影に意識が行っているらしく、アステールを観察しているのか、視線を逸らさない。

「あら?そろそろ消滅する筈なんだけど!?」

アスターと違い、肉体の器を持つが、精神と神核を器から同時に切り離され、剰え私の力を以て砕かれたのだから、消える筈。

ーーーなのに。

倒れているアステールがピクピクと痙攣しだした。
どうやら禍を引き寄せているようで、体に取り込もうとでもいうのか。
意識も、もう無い筈だったのに、一体何が起こっている?

「ーーーーえ!?」

「む?ならんぞ、アステール!!」

それは一瞬の出来事で、技芸はディオンストムの腰からレイピアを抜き取ると、アステールの身体の前で、一閃した。

目を閉じ、細かく痙攣していたアステールがカッと目を見開き、開けた口から恐ろしい悲鳴が迸る。

『ギエェェェェェーーーー』

技芸の足元からは、湿ってーーーーいや、濡れた音がした。
泣いているのは、気持ちの良い音では無かったからーーーーではないだろう。
まさか、技芸が自分から、処すとは思わなかった。

「器と言えど、俺やフィアが動けば蟠りが残るからだろう」

「だから黙って見てた?」

コクンと頷いた兄様の手には神剣が握られていて、何時でも動けるようにはしていたようだ。

私は砕いた残っている神核を掌に集め、一番小さな欠片に精神を移す。意識が無いからすんなりと入って行く。
禍の封じられていた欠片は粉々になって消える様子は、砂糖がカップの中で溶けるのを連想させる。
今し方、跡形も無く消えた肉体に取り憑こうとしていた禍は、行き場を喪い辺りを彷徨う。

「アレは、一体ーーーー何?」

「人の罪、因縁、無念、怨嗟。業と云われるモノ達。因果が昇華されずに凝ったのだろうな。理に背き、又は因果律を書換えずに運命を曲げた、その代償」

ライディオス兄様の言葉に、皆が、ああと納得する者、憤慨する者、それぞれの反応を示す。

「力を奮いはしても、是正策を取らなかったのか、この馬鹿は」

重い溜息を付いたのはメルガルドだ。
その時、私の頭上がフッと暗くなった。

「フィア!」

鋭い兄様の声にハッと我にかえった私は、それを恐怖一歩手前で聞いていたらしく、足が竦んだ。

彷徨っていた禍の渦が、私に狙いを定めたらしく、編みを広げるかのように、襲いかかってきたのだ。
黒い塊が闇で覆おうとする。

「あッーーーー」

ーーーーブオン!キィィィンーーーー!

私が咄嗟に錫杖を振り回して追い払うのと、ライディオス兄様が私を腕に庇って、神剣を思いっきり振り抜くのがほぼ同時の出来事だった。



「ちょっ、ライディオス!今本気出しただろう!?マズイって!」


そうフロースが言うや否や、空間がグニャリと歪んで辺りが滲む。
兄様が『つい、な』何て言ってバツが悪そうにしてるけど、この事態って割と大事だからね!?

「いけません早くここから出なければーーーー崩壊に巻き込まれます!場が崩れました」

私達が立っている場所ーーーー凡そ半径五m範囲の外が時空の嵐に見舞われている。
時場所が、激しく入れ替わる。時代がひしゃげては、何処かの時代に呑まれていった。

「ねぇお姫様、あの渦が喚ばれているのって気の所為かな?」

ん?とサジルの指差す方へ視線をむければ、過去に知った姿を見つけた。

「あれはーーーーエルフリンデ!?」

兄様を欲して強い力を求めた魔女。
禍をここから召喚でもしようというの!?
何て無茶で迷惑な!

「禍は確かに大きなエネルギーを持っているけどね?アステールだって素材にして力を増す事に使えなかったのに、魔力が強いだけの半エルフに糧と出来る訳無いんじゃ?」

「いえ、何方かと言えばーーーー禍が魔女に惹かれて行っている気もします」

「そんな事よりも、フィア!早う我に命じるが良い!ここから急いで出ねばならんぞ!?」

バタバタと慌ただしく、検証もままならない。
時空の嵐と大波に攫われたらと思うと、身震いがする。
ヘッポコなので。絶対に迷子る。

「チュウ吉先生!イケる?大丈夫なの?」

「我はフィアの神獣ぞ?誰よりも、何よりも疾く翔けようぞ!」

「わかった。チュウ吉先生ーーーー」



顕れた白銀に光る鱗も眩い龍は、私達を乗せてから一度身体を大きくくねらせると、モリヤとキョロ助の待つ扉を目指した。

耳鳴りがする程の速度の上で見た最後の景色は、エルフリンデとその国が崩壊する場面だった。







「姫様!!」

血相を変えたモリヤに迎えられて、キョロ助が慌てた様子で扉を締める。

だが、忌み地が揺れだした。
時を越えて、今の時代にまで影響するなんて!!

「ちょっと兄様ーーーー!!」

ぷち切れの私は兄様に怒るけど、怒った顔も可愛いとか相変わらずで、地震だよ!?十中八九兄様の力が原因だからね!

「悪かった。収めるから、フィアも手伝って欲しい」

今一反省の色が見えないのだけれど、了承はする。そして安易に答えた後悔も、した。

「んーーーーフィアおいで」

「むあ!?」

しぶしぶ承諾した私は、兄様からいきなり口付けされたおかげで、力が暴走した。
兄様の鞘の役目をするつもりがーーーー出来たよ?出来たけどね?
過剰に溢れてしまった訳で。

「コレはまた見事な•••••」

ディオンストム、褒めてるの?

「青々してますね」

美味しくはないと思うよ、ロウ。
それ雑草だし。

「玉座の間が池になりましたね、姫様!!ーーーーやがては湖にでもなるのでしょうか?」

まだ聖霊は居ないから、何処かから連れて来るの?でもちょっと待って?

「瘴気が所により、きれいサッパリだ!」

フロース、当たらない天気予報みたいな事を言わないで?そしてシロツメクサをお願いします。
わかった!と返事の後に、ポンポンポンと白いボンボンが揺れる。馴染みの深い三つ葉の群れ。

私はアステールの精神を移した欠片を取り出した。

「何をするつもりだメイフィア!」

「何って。ポポと同じ様にする、かな?」

ーーーー仕様を。

アステールが、は?とか、さっさと消滅させろとか言ってけど、ガン無視だ。

「アハハ、フィアってさ、再生と誕生も司るんだよねー!」

カリンは何がそんなにおかしいのか、シロツメクサを指差して笑い転げた。

「姫様は終わりと始まりの女神ゆえ」

技芸は満足そうですね。私は結構草臥れましたので、オヤスミしたいですが。

『クスッーーーーアステール、とても可愛らしいですよ。フィア、名前は何とするのですか?』

「ポポ。そうね、シロツメクサのシロ、で良いんじゃないかなー」

『聞いてない、そんなのきいてない!!なんだ、さいせい?たんじょう?それに、シロなんて、センス皆無な名前など断固拒否する!』

「残念だったな。お前は既に妖精としてフィアと契約した。諦めろ」

ーーーー白いポンポンが中々よく似合ってるぞ?

ライディオス兄様が笑った。
機嫌が良いな、と思って聞いてみると、後は任せた、と皆に言い残して私を攫った。





ーーーーそれから少し後。

暫くはライディオス兄様の宮で過ごしていたけど、たまには様子を見てたよ?ラインハルトも地上と行ったり来たりしているし、情報は結構入る。

ポポとシロは忌み地ーーーー今は元だけど、そこに出来た池にいる。
所々残っている濃ゆい瘴気を昇華する罰をシロに与えたからだ。
私と契約してるんだから、その位は頑張ってもらおう。

サジルは大神殿に一生幽閉だけど、命は助かった。
アステールが、ほんのちょっぴりサジルから奪ってたギフト擬きを戻したからだ。
レガシアに扱き使われている。

フィリアナは男の子を産んだ。此方も大神殿の尼僧院で幽閉だ。

ティティは二年後に結婚して、王妃となる。実は内緒でちょいちょい会いに行っている。

シャークとアストレアはこの間結婚したし、仲は良好ーーーーというか、シャークが尻に敷かれている。
相変わらず賑やかだ。

私はーーーー

この世界が寿命を迎えた時、私は世界をとじる。
それが破壊になるか、消滅となるのか。
生きている者にとっては悪魔の所業よねぇ。


「フィア、ここにいたのか」

高台に座ってボケっとしていた私に声が掛かった。

「風が強い。帰るぞ」

そう言って、唇の痕が残る私の首筋を、長い指がなぞる。

「フィア、愛してる」

「うん、知ってる」

そして新たに世界を、大地をうむ。
それからも共にいるし、離れないだろう。

今も背後にべったりくっついてるしね。

体温を感じていたら、何やら賑やかな集団が、ここに来るのが見えた。

ああ、メルガルドを先頭に、いつもの騒がしい面々だ。
ディオンストムは技芸と歓談しながら何やら紙袋を確認している。

因みにチュウ吉先生は、まんまるボディにモフモフンの神獣に戻っている。
アステールの砕いた神核を使って、新たなモフモフンを創り出すのも良いかも。

思わず声を出して笑った私に皆が気が付くと、口々に愛称を呼ぶ。


ーーーーなんだかんだで愛されてるな、と思うこの頃だった。










ーーーー完ーーーー


ここまでお読み下さって有難う御座います( *´ω`* )
最終話までお付き合い下さった方には感謝しかありません。

取り敢えずは完結目指そうと、色々と模索しながら書いてきましたが、次のお話に活かせる事ができたらいいな、と思っております。

有難う御座いました!


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