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三章 忌み地と名も無き神
4 過去
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弱々しく儚い存在は、一同をぐるりと見渡すと、メルガルドに目を留めた。
『ああ、もしやメルガルドでは?その様な格好をしているので気が付きませんでした。随分と雰囲気が柔らかくなってーーーー』
昔は、と続けそうなアスターを遮ってメルガルドが咳払いをする。
「アーアー、わたくしめの事などよりも、アスター様は••••何故その様に?」
バラされたく無い過去があるのか、メルガルドが逸れそうになった話を元に戻す。
興味深い視線が突き刺さるが、無視だ。
アスターは、気持ちを切り替えるよう、けぶる睫毛を一度伏せる。
そんな細やかな仕草が、少女神を思い起こさせる。やはり良く似ているのだ。
「そうしていると、姫様によう似ておる。月光母神様よりも、な。アヤツの中におった時は、そこまで似ていると思わなんだが。不思議なものよ」
故に、精神体の今こそが、本来のアスターの姿なのだろう。
『そうでしょうか。自分では分からないものですね。切り離された影響なのかも知れません。神力も、もうありませんしーーーーそう、人間で言う幽霊の様なものですから』
そしてクスリと笑う。
しみじみとしたアスターの言葉に、全員が沈黙した。
『そうそう、どうしてこの様に、でしたねーーーーライディオスに根こそぎ力を奪われたからですよ。容赦なく振り下ろされた剣先は、間違いなく私達を屠るつもりだった』
表情を僅かにも変える事なく、向けられた剣先を身に受けたとアスターは言う。
『あの時私の半身は、持てる力の総てで抵抗しました。が、敵う筈もなく、命懸けで間に入った神獣が私達を切り離すことに成功して、私は逃げる事が出来たのです』
本当に、ギリギリだったと。
切り離された瞬間、弾かれた衝撃があり、そのお陰でライディオスの力が緩んだ。
『私と半身、両方を屠る為の力が、私だけ弾かれたのです。歪んでしまった力を暴走させる訳にはいかず、やもなく封印の形を取ったのでしょう』
「それが、三界に分かたれる引き金となった。地形が変わる程、散々神々が争った後です。渦巻く神々の力と、ライディオス様の時空の力が共鳴してーーーー爆ぜた」
ロウの言葉に、きっとそうなのでしょうと、アスターが頷く。
『力を失い、半身は奈落の底に。実体を持たぬ私は、小さな欠片になって、神獣と共に逃げたのです』
「その逃げた先が、今はアルディア王国にある、初代花冠の乙女が産まれた村にあった湖でのぅ。我も、アスター様も、消滅を待つばかりの時分、フィアに会えたーーーーその縁が、今も消滅を逃れられている理由なのだろうの」
一度目の出逢いでも、二度目の出逢いでも。
一度目はフィアがまだ幼い頃。
湖で、消え逝くを待つ者に対して、消えるなと願った。そうして手に入れたのが、小さき者の体。
ーーーー我は白き龍から創り変えられ、アスター様は宿らせる器を示された。
瘴気漂う中でも強く生きる蒲公英にはーーーー正直な所、もっと他には無かったのかと思わないでも無いが。
二度目の出逢いは、湖は潰され、王城が建ち、古井戸の妖精などと呼ばれる存在になっていた時。
神獣は己の正体も忘れて、蒲公英はポツリと咲くだけの。
この時は微塵も余力など残っていなかった。
そんな自分達と、記憶を失った女神が後宮で出逢ったのだから、運命とは数奇なものだ。
『そうして生きながらえた、幸運なのでしょう。あの子との繋がりで、神力は無くとも、ポポとして、妖精の力は使えました。忘れてしまった記憶も、徐々に思い出して•••••想いも』
言った後、アスターは、失敗したと言う感じに顔を歪めた。
「かの••••邪神となった、貴方様の半身はーーーー今も、姫様を器にと?」
『私が消滅していない事は知っているでしょう。ならば、諦めてはいないと、思います。お願いです!どうか、私の半身を止めて下さい!滅ぶなら、今度こそ私も共に参ります。メイフィアを犠牲になどさせません』
「アスター様!!」
神獣が悲鳴をあげる。耐えられない、と言うように。
「フィーを害するなら、ライディオスが黙って無いし。二度目の目溢しは無いと思うよ?」
ーーーー星が流れた。
行く末を占おうとして、フロースは諦める。
メイフィアが関わっているなら、神占も当てにならない。
やれやれと肩を竦めて、冷めてしまったお茶をすする。
その時だった。緊迫した足音と、控え目に、だが鋭くドアをノックする音が室内に響いた。
次いで聞こえるのは、新たに大神官となったレガシアの声だ。
ディオンストムが対応するが、その表情から、あまりよろしくない情報だと知れる。
穏やかなディオンストムには似合わず、レガシアに返す声音までもが厳しい。
やがてレガシアも室内に入ると、最上礼をとった。
「例の怪しげな団体ですがーーーーサジルに聞いた通り、西に七つ、東に五つ御座いました。サジルは遊び場だと言っておりましたが••••その【場】が4ヶ所、跡形も無く消滅致しました。聖騎士の前で、人が、村がーーーー全て綺麗に、影に飲み込まれたそうです」
ヒュと、息をのんだのは複数。
メルガルドもフロースも、ピリピリとした気配を出している。
「邪神め。信仰の力とやらで、力を欲したかーーーーん?アスターとチュウ吉は何処に行きおった?」
ハッと振り向いた先には、神獣もアスターもーーーー影すら見当たらなかった。
『ああ、もしやメルガルドでは?その様な格好をしているので気が付きませんでした。随分と雰囲気が柔らかくなってーーーー』
昔は、と続けそうなアスターを遮ってメルガルドが咳払いをする。
「アーアー、わたくしめの事などよりも、アスター様は••••何故その様に?」
バラされたく無い過去があるのか、メルガルドが逸れそうになった話を元に戻す。
興味深い視線が突き刺さるが、無視だ。
アスターは、気持ちを切り替えるよう、けぶる睫毛を一度伏せる。
そんな細やかな仕草が、少女神を思い起こさせる。やはり良く似ているのだ。
「そうしていると、姫様によう似ておる。月光母神様よりも、な。アヤツの中におった時は、そこまで似ていると思わなんだが。不思議なものよ」
故に、精神体の今こそが、本来のアスターの姿なのだろう。
『そうでしょうか。自分では分からないものですね。切り離された影響なのかも知れません。神力も、もうありませんしーーーーそう、人間で言う幽霊の様なものですから』
そしてクスリと笑う。
しみじみとしたアスターの言葉に、全員が沈黙した。
『そうそう、どうしてこの様に、でしたねーーーーライディオスに根こそぎ力を奪われたからですよ。容赦なく振り下ろされた剣先は、間違いなく私達を屠るつもりだった』
表情を僅かにも変える事なく、向けられた剣先を身に受けたとアスターは言う。
『あの時私の半身は、持てる力の総てで抵抗しました。が、敵う筈もなく、命懸けで間に入った神獣が私達を切り離すことに成功して、私は逃げる事が出来たのです』
本当に、ギリギリだったと。
切り離された瞬間、弾かれた衝撃があり、そのお陰でライディオスの力が緩んだ。
『私と半身、両方を屠る為の力が、私だけ弾かれたのです。歪んでしまった力を暴走させる訳にはいかず、やもなく封印の形を取ったのでしょう』
「それが、三界に分かたれる引き金となった。地形が変わる程、散々神々が争った後です。渦巻く神々の力と、ライディオス様の時空の力が共鳴してーーーー爆ぜた」
ロウの言葉に、きっとそうなのでしょうと、アスターが頷く。
『力を失い、半身は奈落の底に。実体を持たぬ私は、小さな欠片になって、神獣と共に逃げたのです』
「その逃げた先が、今はアルディア王国にある、初代花冠の乙女が産まれた村にあった湖でのぅ。我も、アスター様も、消滅を待つばかりの時分、フィアに会えたーーーーその縁が、今も消滅を逃れられている理由なのだろうの」
一度目の出逢いでも、二度目の出逢いでも。
一度目はフィアがまだ幼い頃。
湖で、消え逝くを待つ者に対して、消えるなと願った。そうして手に入れたのが、小さき者の体。
ーーーー我は白き龍から創り変えられ、アスター様は宿らせる器を示された。
瘴気漂う中でも強く生きる蒲公英にはーーーー正直な所、もっと他には無かったのかと思わないでも無いが。
二度目の出逢いは、湖は潰され、王城が建ち、古井戸の妖精などと呼ばれる存在になっていた時。
神獣は己の正体も忘れて、蒲公英はポツリと咲くだけの。
この時は微塵も余力など残っていなかった。
そんな自分達と、記憶を失った女神が後宮で出逢ったのだから、運命とは数奇なものだ。
『そうして生きながらえた、幸運なのでしょう。あの子との繋がりで、神力は無くとも、ポポとして、妖精の力は使えました。忘れてしまった記憶も、徐々に思い出して•••••想いも』
言った後、アスターは、失敗したと言う感じに顔を歪めた。
「かの••••邪神となった、貴方様の半身はーーーー今も、姫様を器にと?」
『私が消滅していない事は知っているでしょう。ならば、諦めてはいないと、思います。お願いです!どうか、私の半身を止めて下さい!滅ぶなら、今度こそ私も共に参ります。メイフィアを犠牲になどさせません』
「アスター様!!」
神獣が悲鳴をあげる。耐えられない、と言うように。
「フィーを害するなら、ライディオスが黙って無いし。二度目の目溢しは無いと思うよ?」
ーーーー星が流れた。
行く末を占おうとして、フロースは諦める。
メイフィアが関わっているなら、神占も当てにならない。
やれやれと肩を竦めて、冷めてしまったお茶をすする。
その時だった。緊迫した足音と、控え目に、だが鋭くドアをノックする音が室内に響いた。
次いで聞こえるのは、新たに大神官となったレガシアの声だ。
ディオンストムが対応するが、その表情から、あまりよろしくない情報だと知れる。
穏やかなディオンストムには似合わず、レガシアに返す声音までもが厳しい。
やがてレガシアも室内に入ると、最上礼をとった。
「例の怪しげな団体ですがーーーーサジルに聞いた通り、西に七つ、東に五つ御座いました。サジルは遊び場だと言っておりましたが••••その【場】が4ヶ所、跡形も無く消滅致しました。聖騎士の前で、人が、村がーーーー全て綺麗に、影に飲み込まれたそうです」
ヒュと、息をのんだのは複数。
メルガルドもフロースも、ピリピリとした気配を出している。
「邪神め。信仰の力とやらで、力を欲したかーーーーん?アスターとチュウ吉は何処に行きおった?」
ハッと振り向いた先には、神獣もアスターもーーーー影すら見当たらなかった。
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