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二章 ムーダン王国編
30 ただいまとおかえり
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神をも屠る神剣は、いともあっさりとアストレアの天秤を破壊する。
アストレアの神力と共に、鎮まりゆく大地と山々。やがて、鳴動は収まり、降り注いだ力が、染み込み消えた。
だが、シャークから迸った慟哭は未だ燻り、消えない嗚咽が響く。
「アストレア、アストレア、アストレア!」
何事だったのかと、集まりだしていた村人達は呆然と見ている。
フィリアナは魂が抜けたように座り込んで、少年がそれに寄り添う。
誰かが「神を殺した」と呟く。
畏れおののき、座り込む者、私を指差して言葉にならぬ声を発する者、他にも様々だけど、皆一様に恐ろしいものを見た表情をしている。
「あ、悪魔だ!」
「失礼な。そこは、悪役って言って欲しいな」
フィリアナに寄り添う少年に、悪魔と罵られて間髪入れずに言い返す。
私、頑張ったんだけどな。酷い言い様だ。
ちょっとムッとした勢いで、無造作に錘の林檎を放ってしまった。
林檎が嘆く殿下なシャークの元へと、転がる。
上手くいくか不安だったけど、なんとか出来たようで良かった。
シャーク殿下の背後に現れた影に、私は微笑んだ。
「アストレア、アストレアーー!」
「何よ、さっきから。私が返事をしているの、聞こえてなかったの?」
新緑色の緩い巻げを、腰の下まで伸ばした妙齢の美女が呆れた声を出す。
突き放すような口調に反して、眼差しは優しく笑む。
ただ、金色を帯びていたはずの瞳には、その影すら無かった。
「ふぉおお!?おらばぅでぃあああ!?」
振り返ったシャーク殿下の顔は、見ものだったけど、抱き締める前に、鼻水と涙は拭こうね。うん。
そして、イチャイチャするにはまだ片付けが残っているので、なるべく早く現状を思い出して下さい。
それにしても、この神剣ってば重い。
地面に突き刺したまま、持ち上げるのが億劫になる位に重い。
ラインハルトは、コレを軽々と片手で振り回すんだから、凄いよね。
「ーーーーん?」
私が抜けない神剣に手間取っている間に、屋敷の方が騒がしくなった。
どうやら、大捕物が始まったらしい。そこからロウ達の気配がする。
屋敷の窓ガラスが割れて、木材が破壊される。
「わぁ、派手にやってるなぁ」
「そうか?まぁ、取り敢えずは村中、捕縛対象だしな」
背後からお腹に腕が回される。よく知った香りが鼻孔を擽る。
ギュッと腕に力が込められて、片腕できつく抱きしめられた。
「ーーーーフィア」
こんな風に低く、甘く、私を呼ぶのは二人しかいない。人じゃないけど。
ライディオス兄様はどうしてるかな。地上ではラインハルトとして動いているけど、天界で今、何をやってるんだろう?
あんなにも苦労した神剣が、ラインハルトの左腕一本で軽く抜かれる。
「ラインハルト。姿を見せて良いの?」
「フィリアナとやらは、もう捕まっているから、問題無い」
え、いつの間に。私が神剣を抜こうと格闘していた時でしょうか。見られてたら、恥ずかしいいんですけど!
抜けた神剣を目で追っていると、耳に触れそうな位置で囁かれる。ちょっと掠った。
今振り向いたら、心臓が壊れると思うので、神剣がラインハルトの手の中で消えていくのを見ている。
剣が消えると、ラインハルトの左手が、私の左手に絡められた。そっと、壊れ物を扱うように優しく。
「ーーーーフィア」
「ラインハルトは、サジルを一度は殴ると思ったけど」
「死なない程度に、な」
あ、もうやっちゃったんだ。早いですね。
今度は、メイフィア、と呼ばれる。
それがひどく優しくて、聞いている方が切なくなる。
私は観念して、ラインハルトに向き直った。
ああ、やっぱり直ぐ様、熱を帯びたトルマリンブルーに囚われてしまう。
逞しい胸に手を置けば、いつものより早い鼓動。
「ラインハルトでも、緊張するの?」
一瞬、不安が見え隠れした瞳に、私は苦笑いをする。
「仕方がないだろう?お前に関しては、本当は余裕なんて、これっぽっちも無い事、知っているくせに」
「じゃぁ、私と同じだね」
少しだけおかしくなって、フフっと笑いが溢れる。
ーーーーただいま。
そういって、私は大好きな腕の中、思いっきり抱き着いた。
「大好きよ」
この場所は心地良いのに、泣きたくなる。
キュウッと胸が引き絞られる感じがして、苦しいのに、優しさがあふれる。
「おかえり、フィア」
ドクドクと五月蝿い鼓動はそのままなのに、心臓が壊れそうでも、熱と穏やかな落ち着きが身を包む。
ふわふわと、不思議な感覚。少しだけ擽ったい。
「残念、俺達の方が好きだ。二倍だからな」
そう言って、ラインハルトは攻撃力の高い笑顔で私を撃ち抜いた。
「ーーーーちょっと!?まだ後始末残ってるんだから、そこの二組、いい加減に現実に戻って来てよね!」
唇が重なる寸前で掛けられた声に、ラインハルトの舌打ちが返事をした。
アストレアの神力と共に、鎮まりゆく大地と山々。やがて、鳴動は収まり、降り注いだ力が、染み込み消えた。
だが、シャークから迸った慟哭は未だ燻り、消えない嗚咽が響く。
「アストレア、アストレア、アストレア!」
何事だったのかと、集まりだしていた村人達は呆然と見ている。
フィリアナは魂が抜けたように座り込んで、少年がそれに寄り添う。
誰かが「神を殺した」と呟く。
畏れおののき、座り込む者、私を指差して言葉にならぬ声を発する者、他にも様々だけど、皆一様に恐ろしいものを見た表情をしている。
「あ、悪魔だ!」
「失礼な。そこは、悪役って言って欲しいな」
フィリアナに寄り添う少年に、悪魔と罵られて間髪入れずに言い返す。
私、頑張ったんだけどな。酷い言い様だ。
ちょっとムッとした勢いで、無造作に錘の林檎を放ってしまった。
林檎が嘆く殿下なシャークの元へと、転がる。
上手くいくか不安だったけど、なんとか出来たようで良かった。
シャーク殿下の背後に現れた影に、私は微笑んだ。
「アストレア、アストレアーー!」
「何よ、さっきから。私が返事をしているの、聞こえてなかったの?」
新緑色の緩い巻げを、腰の下まで伸ばした妙齢の美女が呆れた声を出す。
突き放すような口調に反して、眼差しは優しく笑む。
ただ、金色を帯びていたはずの瞳には、その影すら無かった。
「ふぉおお!?おらばぅでぃあああ!?」
振り返ったシャーク殿下の顔は、見ものだったけど、抱き締める前に、鼻水と涙は拭こうね。うん。
そして、イチャイチャするにはまだ片付けが残っているので、なるべく早く現状を思い出して下さい。
それにしても、この神剣ってば重い。
地面に突き刺したまま、持ち上げるのが億劫になる位に重い。
ラインハルトは、コレを軽々と片手で振り回すんだから、凄いよね。
「ーーーーん?」
私が抜けない神剣に手間取っている間に、屋敷の方が騒がしくなった。
どうやら、大捕物が始まったらしい。そこからロウ達の気配がする。
屋敷の窓ガラスが割れて、木材が破壊される。
「わぁ、派手にやってるなぁ」
「そうか?まぁ、取り敢えずは村中、捕縛対象だしな」
背後からお腹に腕が回される。よく知った香りが鼻孔を擽る。
ギュッと腕に力が込められて、片腕できつく抱きしめられた。
「ーーーーフィア」
こんな風に低く、甘く、私を呼ぶのは二人しかいない。人じゃないけど。
ライディオス兄様はどうしてるかな。地上ではラインハルトとして動いているけど、天界で今、何をやってるんだろう?
あんなにも苦労した神剣が、ラインハルトの左腕一本で軽く抜かれる。
「ラインハルト。姿を見せて良いの?」
「フィリアナとやらは、もう捕まっているから、問題無い」
え、いつの間に。私が神剣を抜こうと格闘していた時でしょうか。見られてたら、恥ずかしいいんですけど!
抜けた神剣を目で追っていると、耳に触れそうな位置で囁かれる。ちょっと掠った。
今振り向いたら、心臓が壊れると思うので、神剣がラインハルトの手の中で消えていくのを見ている。
剣が消えると、ラインハルトの左手が、私の左手に絡められた。そっと、壊れ物を扱うように優しく。
「ーーーーフィア」
「ラインハルトは、サジルを一度は殴ると思ったけど」
「死なない程度に、な」
あ、もうやっちゃったんだ。早いですね。
今度は、メイフィア、と呼ばれる。
それがひどく優しくて、聞いている方が切なくなる。
私は観念して、ラインハルトに向き直った。
ああ、やっぱり直ぐ様、熱を帯びたトルマリンブルーに囚われてしまう。
逞しい胸に手を置けば、いつものより早い鼓動。
「ラインハルトでも、緊張するの?」
一瞬、不安が見え隠れした瞳に、私は苦笑いをする。
「仕方がないだろう?お前に関しては、本当は余裕なんて、これっぽっちも無い事、知っているくせに」
「じゃぁ、私と同じだね」
少しだけおかしくなって、フフっと笑いが溢れる。
ーーーーただいま。
そういって、私は大好きな腕の中、思いっきり抱き着いた。
「大好きよ」
この場所は心地良いのに、泣きたくなる。
キュウッと胸が引き絞られる感じがして、苦しいのに、優しさがあふれる。
「おかえり、フィア」
ドクドクと五月蝿い鼓動はそのままなのに、心臓が壊れそうでも、熱と穏やかな落ち着きが身を包む。
ふわふわと、不思議な感覚。少しだけ擽ったい。
「残念、俺達の方が好きだ。二倍だからな」
そう言って、ラインハルトは攻撃力の高い笑顔で私を撃ち抜いた。
「ーーーーちょっと!?まだ後始末残ってるんだから、そこの二組、いい加減に現実に戻って来てよね!」
唇が重なる寸前で掛けられた声に、ラインハルトの舌打ちが返事をした。
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