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二章 ムーダン王国編

18 可愛い子には旅をさせろ?

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《本物が見たくなった。それだけだよ》

さっきは『ホー』と鳴いた梟が話し出す。
動物がおしゃべりするって、メルヘンだと思っていたけど、この梟が話すのは中々シュールだ。
チュウ吉先生はあんなに可愛く思えるのに。

ーーーーと言うか。

「覗き見なんて悪趣味ね。暇なの?」

ラインハルトの喉から、クッって意地の悪い笑いが漏れた。
こんな笑い方もするんだな。ちょっと以外。

「目的は達成させてやっただろう。早く帰った方がいいんじゃないか?【お前のお姫様】が待ってる場所へ」

息を呑む音さえ響く静寂の中、その声は緩やかに、だが、王が臣下に命ずるが如くの迫力があった。
ピンと空気が張り詰める。

この場に人間がいたら、冷や汗が止まらないだろう。
確いう私の心臓も、どくどく鳴っている。

クスっと笑う気配。
豪胆なのか、アホなのか鈍いのか。サジルは一体どれだろう。

《うん、痛いなぁ。胸が。これって傷付いたって事なのかな、やっぱり。優しい女神様は慰めてくれないのかい?》

傷付いたと言いながら、その声は至極楽しそうだ。
ーーーーサジル、エムな人疑惑発生案件かしら。

「生憎、私はいじめるのって得意じゃないから、無理だと思う。うーん、ネチネチ追い詰めて欲しいなら、あれ、誰が良いかな、ね、ラインハルト?」

《慰めてほしいと言う言葉に対して、何故、その思考になったのかが不思議なんだけどな》

あら、今度はご不満な声音だわ。
だけど、ご期待に添えずに申し訳ないとは思わない。

「お前が傷付いたと、楽しそうに言ったからだろう。そう言う嗜好の持ち主だとフィアは思ったんだ」

《アハッ!アハハハーーーークッ、駄目だ。お姫様、面白すぎる》

ラインハルトが丁寧に解説したら、思いっきり笑われたんですが、解せぬ。

「フィア、お勧めはロウだが、フロースもあれで中々追い込むのが得意だぞ。そうだろう?サジル」

ここでフロースの名が出てきた事に驚く。何で?
と、疑問に思ったその時、私の部屋の扉から、噂の本人とカリンが現れた。

「あーやっぱり。フロース様ってば、言い過ぎたんじゃない?フィアに慰めてもらいに来ちゃってるよ?」

「ラインハルトを見に来たんじゃない?でも真似するのは不可能だと、思い知るだけだと思うけど。お前、本物を見て感動してもさ、思い出せなかっただろう?フィーの顔。この場にいて見ている時は脳が認識してるけどね、目を瞑ってご覧よ。綺麗、美しいって感想と、大まかな印象は残るけど、キチンと思い出せるかい?」

《そう言えば、無理だったね。だから、お姫様が僕の側にいたら、思い出す必要は無くなるし、いいかなって》

「どうして、私が貴方の側に行くと思うの?」

《お姫様はそんなに束縛されて、嫌にならない?近付く男を殺しに掛かるんだから、怖いよねぇ。うっかりしたら、お姫様の周りの人間達は皆死んでしまうよ》

もしかして、私は揺さぶりとやらを掛けられているのだろうか。
ふと脳内で閃く。
もしかして、さっきのフロースとのやり取り。
サジルはフロースにやらかしたんだ。恐らくはカリンにも。
だから敢えて私は、サジルにありのままを答える。

「んー、嫌じゃないよ?何で、嫌になるの前提?貴方だって結局は死んでないし。それと、揺さぶるの癖なの?そうやって、シャークの兄様も追い詰めたの?」

最後のはポロっと出てしまっただけで、意図した訳じゃない。
でも、会話の中で、心の綻びを見つけては、穴を大きくしていたんだろうな。

《退屈で暇だったんだ。僕って何でも出来てしまうから。いつからか、そんな遊びを覚えたけど、皆んな予想を裏切ってくれないんだ。でもーーーー》

お姫様は神のクセして懸命だったね。

うっとりと、呟くサジルは一体どんな表情をしているんだろう。
これ程、言葉と気配と感情がチグハグな人間も珍しい。

《今回は、今までとは違う気がするんだ。痛い思いをしてまで、退屈を凌ごうなんて思わないだろう?》

拗らせちゃってるね、とはカリンだ。
ラインハルトとは別の意味でね、と言ったのはフロースで。

《所で、いい加減に返事が欲しいな》

「許可する訳がないだろう」

何の話に飛んだのかと思えば、通信紙を貰っていた事をすっかり忘れいました。

「ラインハルト、なんて?」

ふり仰げばしぶしぶと見せてくれた。
流麗で、以外に女性的な文字だと思う。
ふむ。山間の村まで私に一人で来いと、書いてある。案内は付けるとも。
一人で来たら、青い花を返してくれるらしい。
案内が付くのかならば、と暫し考える。

「良いよ?一人で行っても。案内役がいるようだし、記憶と力を返してもらえるし」

フィア、フィーと、三人がそれぞれ非難を込めて私を呼ぶけど、意志は変わらない。

「神に対する約束は誓約になる。そうでしょ?」

ヘッポコですが、一応は女神様ですしね。
思えば随分と遠くに来ちゃった感があるけれど。女官時代が懐かしい。
どこ行った私のスローライフ。

《ふふふ、流石お姫様。っと、やだな、そんなに殺気を出さないで欲しいな。お姫様の事はちゃんと案内するし、安全は保証するよ。じゃぁ明後日、今度は小鳥がいいかな、朝食後に迎えに来るから》

ーーーー待っていて、お姫様。

サジルが言い終えると、バサっと翼を広げた梟が夜空に舞う。

「フィー、何であんな事言ったのさ。一人でなんて!」

「え、だって返してくれるって言うし。それに、ラインハルト達は、絶対に付いて来るでしょ?目的地が同じならば来ちゃうのはしょうがないし。【私は】一人で行くけど」

条件は、私が一人で村へ行くこと。
でも皆に来るなとは、書かれて無い。

なんだか、物凄く長い溜息を付かれてしまったけど、なんでさ。



こうして、私はサジルが乗り移った小鳥に案内されて、山間の名前の無い村を目指す事になった。





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読んでいただきありがとうございました(*´꒳`*)



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