103 / 134
二章 ムーダン王国編
18 可愛い子には旅をさせろ?
しおりを挟む
《本物が見たくなった。それだけだよ》
さっきは『ホー』と鳴いた梟が話し出す。
動物がおしゃべりするって、メルヘンだと思っていたけど、この梟が話すのは中々シュールだ。
チュウ吉先生はあんなに可愛く思えるのに。
ーーーーと言うか。
「覗き見なんて悪趣味ね。暇なの?」
ラインハルトの喉から、クッって意地の悪い笑いが漏れた。
こんな笑い方もするんだな。ちょっと以外。
「目的は達成させてやっただろう。早く帰った方がいいんじゃないか?【お前のお姫様】が待ってる場所へ」
息を呑む音さえ響く静寂の中、その声は緩やかに、だが、王が臣下に命ずるが如くの迫力があった。
ピンと空気が張り詰める。
この場に人間がいたら、冷や汗が止まらないだろう。
確いう私の心臓も、どくどく鳴っている。
クスっと笑う気配。
豪胆なのか、アホなのか鈍いのか。サジルは一体どれだろう。
《うん、痛いなぁ。胸が。これって傷付いたって事なのかな、やっぱり。優しい女神様は慰めてくれないのかい?》
傷付いたと言いながら、その声は至極楽しそうだ。
ーーーーサジル、エムな人疑惑発生案件かしら。
「生憎、私はいじめるのって得意じゃないから、無理だと思う。うーん、ネチネチ追い詰めて欲しいなら、あれ、誰が良いかな、ね、ラインハルト?」
《慰めてほしいと言う言葉に対して、何故、その思考になったのかが不思議なんだけどな》
あら、今度はご不満な声音だわ。
だけど、ご期待に添えずに申し訳ないとは思わない。
「お前が傷付いたと、楽しそうに言ったからだろう。そう言う嗜好の持ち主だとフィアは思ったんだ」
《アハッ!アハハハーーーークッ、駄目だ。お姫様、面白すぎる》
ラインハルトが丁寧に解説したら、思いっきり笑われたんですが、解せぬ。
「フィア、お勧めはロウだが、フロースもあれで中々追い込むのが得意だぞ。そうだろう?サジル」
ここでフロースの名が出てきた事に驚く。何で?
と、疑問に思ったその時、私の部屋の扉から、噂の本人とカリンが現れた。
「あーやっぱり。フロース様ってば、言い過ぎたんじゃない?フィアに慰めてもらいに来ちゃってるよ?」
「ラインハルトを見に来たんじゃない?でも真似するのは不可能だと、思い知るだけだと思うけど。お前、本物を見て感動してもさ、思い出せなかっただろう?フィーの顔。この場にいて見ている時は脳が認識してるけどね、目を瞑ってご覧よ。綺麗、美しいって感想と、大まかな印象は残るけど、キチンと思い出せるかい?」
《そう言えば、無理だったね。だから、お姫様が僕の側にいたら、思い出す必要は無くなるし、いいかなって》
「どうして、私が貴方の側に行くと思うの?」
《お姫様はそんなに束縛されて、嫌にならない?近付く男を殺しに掛かるんだから、怖いよねぇ。うっかりしたら、お姫様の周りの人間達は皆死んでしまうよ》
もしかして、私は揺さぶりとやらを掛けられているのだろうか。
ふと脳内で閃く。
もしかして、さっきのフロースとのやり取り。
サジルはフロースにやらかしたんだ。恐らくはカリンにも。
だから敢えて私は、サジルにありのままを答える。
「んー、嫌じゃないよ?何で、嫌になるの前提?貴方だって結局は死んでないし。それと、揺さぶるの癖なの?そうやって、シャークの兄様も追い詰めたの?」
最後のはポロっと出てしまっただけで、意図した訳じゃない。
でも、会話の中で、心の綻びを見つけては、穴を大きくしていたんだろうな。
《退屈で暇だったんだ。僕って何でも出来てしまうから。いつからか、そんな遊びを覚えたけど、皆んな予想を裏切ってくれないんだ。でもーーーー》
お姫様は神のクセして懸命だったね。
うっとりと、呟くサジルは一体どんな表情をしているんだろう。
これ程、言葉と気配と感情がチグハグな人間も珍しい。
《今回は、今までとは違う気がするんだ。痛い思いをしてまで、退屈を凌ごうなんて思わないだろう?》
拗らせちゃってるね、とはカリンだ。
ラインハルトとは別の意味でね、と言ったのはフロースで。
《所で、いい加減に返事が欲しいな》
「許可する訳がないだろう」
何の話に飛んだのかと思えば、通信紙を貰っていた事をすっかり忘れいました。
「ラインハルト、なんて?」
ふり仰げばしぶしぶと見せてくれた。
流麗で、以外に女性的な文字だと思う。
ふむ。山間の村まで私に一人で来いと、書いてある。案内は付けるとも。
一人で来たら、青い花を返してくれるらしい。
案内が付くのかならば、と暫し考える。
「良いよ?一人で行っても。案内役がいるようだし、記憶と力を返してもらえるし」
フィア、フィーと、三人がそれぞれ非難を込めて私を呼ぶけど、意志は変わらない。
「神に対する約束は誓約になる。そうでしょ?」
ヘッポコですが、一応は女神様ですしね。
思えば随分と遠くに来ちゃった感があるけれど。女官時代が懐かしい。
どこ行った私のスローライフ。
《ふふふ、流石お姫様。っと、やだな、そんなに殺気を出さないで欲しいな。お姫様の事はちゃんと案内するし、安全は保証するよ。じゃぁ明後日、今度は小鳥がいいかな、朝食後に迎えに来るから》
ーーーー待っていて、お姫様。
サジルが言い終えると、バサっと翼を広げた梟が夜空に舞う。
「フィー、何であんな事言ったのさ。一人でなんて!」
「え、だって返してくれるって言うし。それに、ラインハルト達は、絶対に付いて来るでしょ?目的地が同じならば来ちゃうのはしょうがないし。【私は】一人で行くけど」
条件は、私が一人で村へ行くこと。
でも皆に来るなとは、書かれて無い。
なんだか、物凄く長い溜息を付かれてしまったけど、なんでさ。
こうして、私はサジルが乗り移った小鳥に案内されて、山間の名前の無い村を目指す事になった。
#####
読んでいただきありがとうございました(*´꒳`*)
さっきは『ホー』と鳴いた梟が話し出す。
動物がおしゃべりするって、メルヘンだと思っていたけど、この梟が話すのは中々シュールだ。
チュウ吉先生はあんなに可愛く思えるのに。
ーーーーと言うか。
「覗き見なんて悪趣味ね。暇なの?」
ラインハルトの喉から、クッって意地の悪い笑いが漏れた。
こんな笑い方もするんだな。ちょっと以外。
「目的は達成させてやっただろう。早く帰った方がいいんじゃないか?【お前のお姫様】が待ってる場所へ」
息を呑む音さえ響く静寂の中、その声は緩やかに、だが、王が臣下に命ずるが如くの迫力があった。
ピンと空気が張り詰める。
この場に人間がいたら、冷や汗が止まらないだろう。
確いう私の心臓も、どくどく鳴っている。
クスっと笑う気配。
豪胆なのか、アホなのか鈍いのか。サジルは一体どれだろう。
《うん、痛いなぁ。胸が。これって傷付いたって事なのかな、やっぱり。優しい女神様は慰めてくれないのかい?》
傷付いたと言いながら、その声は至極楽しそうだ。
ーーーーサジル、エムな人疑惑発生案件かしら。
「生憎、私はいじめるのって得意じゃないから、無理だと思う。うーん、ネチネチ追い詰めて欲しいなら、あれ、誰が良いかな、ね、ラインハルト?」
《慰めてほしいと言う言葉に対して、何故、その思考になったのかが不思議なんだけどな》
あら、今度はご不満な声音だわ。
だけど、ご期待に添えずに申し訳ないとは思わない。
「お前が傷付いたと、楽しそうに言ったからだろう。そう言う嗜好の持ち主だとフィアは思ったんだ」
《アハッ!アハハハーーーークッ、駄目だ。お姫様、面白すぎる》
ラインハルトが丁寧に解説したら、思いっきり笑われたんですが、解せぬ。
「フィア、お勧めはロウだが、フロースもあれで中々追い込むのが得意だぞ。そうだろう?サジル」
ここでフロースの名が出てきた事に驚く。何で?
と、疑問に思ったその時、私の部屋の扉から、噂の本人とカリンが現れた。
「あーやっぱり。フロース様ってば、言い過ぎたんじゃない?フィアに慰めてもらいに来ちゃってるよ?」
「ラインハルトを見に来たんじゃない?でも真似するのは不可能だと、思い知るだけだと思うけど。お前、本物を見て感動してもさ、思い出せなかっただろう?フィーの顔。この場にいて見ている時は脳が認識してるけどね、目を瞑ってご覧よ。綺麗、美しいって感想と、大まかな印象は残るけど、キチンと思い出せるかい?」
《そう言えば、無理だったね。だから、お姫様が僕の側にいたら、思い出す必要は無くなるし、いいかなって》
「どうして、私が貴方の側に行くと思うの?」
《お姫様はそんなに束縛されて、嫌にならない?近付く男を殺しに掛かるんだから、怖いよねぇ。うっかりしたら、お姫様の周りの人間達は皆死んでしまうよ》
もしかして、私は揺さぶりとやらを掛けられているのだろうか。
ふと脳内で閃く。
もしかして、さっきのフロースとのやり取り。
サジルはフロースにやらかしたんだ。恐らくはカリンにも。
だから敢えて私は、サジルにありのままを答える。
「んー、嫌じゃないよ?何で、嫌になるの前提?貴方だって結局は死んでないし。それと、揺さぶるの癖なの?そうやって、シャークの兄様も追い詰めたの?」
最後のはポロっと出てしまっただけで、意図した訳じゃない。
でも、会話の中で、心の綻びを見つけては、穴を大きくしていたんだろうな。
《退屈で暇だったんだ。僕って何でも出来てしまうから。いつからか、そんな遊びを覚えたけど、皆んな予想を裏切ってくれないんだ。でもーーーー》
お姫様は神のクセして懸命だったね。
うっとりと、呟くサジルは一体どんな表情をしているんだろう。
これ程、言葉と気配と感情がチグハグな人間も珍しい。
《今回は、今までとは違う気がするんだ。痛い思いをしてまで、退屈を凌ごうなんて思わないだろう?》
拗らせちゃってるね、とはカリンだ。
ラインハルトとは別の意味でね、と言ったのはフロースで。
《所で、いい加減に返事が欲しいな》
「許可する訳がないだろう」
何の話に飛んだのかと思えば、通信紙を貰っていた事をすっかり忘れいました。
「ラインハルト、なんて?」
ふり仰げばしぶしぶと見せてくれた。
流麗で、以外に女性的な文字だと思う。
ふむ。山間の村まで私に一人で来いと、書いてある。案内は付けるとも。
一人で来たら、青い花を返してくれるらしい。
案内が付くのかならば、と暫し考える。
「良いよ?一人で行っても。案内役がいるようだし、記憶と力を返してもらえるし」
フィア、フィーと、三人がそれぞれ非難を込めて私を呼ぶけど、意志は変わらない。
「神に対する約束は誓約になる。そうでしょ?」
ヘッポコですが、一応は女神様ですしね。
思えば随分と遠くに来ちゃった感があるけれど。女官時代が懐かしい。
どこ行った私のスローライフ。
《ふふふ、流石お姫様。っと、やだな、そんなに殺気を出さないで欲しいな。お姫様の事はちゃんと案内するし、安全は保証するよ。じゃぁ明後日、今度は小鳥がいいかな、朝食後に迎えに来るから》
ーーーー待っていて、お姫様。
サジルが言い終えると、バサっと翼を広げた梟が夜空に舞う。
「フィー、何であんな事言ったのさ。一人でなんて!」
「え、だって返してくれるって言うし。それに、ラインハルト達は、絶対に付いて来るでしょ?目的地が同じならば来ちゃうのはしょうがないし。【私は】一人で行くけど」
条件は、私が一人で村へ行くこと。
でも皆に来るなとは、書かれて無い。
なんだか、物凄く長い溜息を付かれてしまったけど、なんでさ。
こうして、私はサジルが乗り移った小鳥に案内されて、山間の名前の無い村を目指す事になった。
#####
読んでいただきありがとうございました(*´꒳`*)
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
83
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる