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二章 ムーダン王国編
1 消えた天秤と逃げる王弟
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ほう、とムーダン王国の国王ラウゼン二世は温い茶で喉を潤す。
身体に良いと取り寄せたジンライ帝国の茶葉は、冷めても香りが損なわれていなかった。
病を患い、衰えた体力と、張りを失った皮膚に包まれた指が、茶器を乱暴に置かせる。
ムーダン王統譜から抹消された息子、サジルの名前にラウゼン二世王の口元が自嘲で歪む。
今思えば、こうなる前に引き返せる道はあった。それは、幾度も。
複雑に枝分かれするーーーー無数の分岐には、防ぐ道筋が用意されていたにも関わらず、予言じみた父の言葉を信じたくない一心で目を瞑って来た。
その選択の罪を、ツケをこの身で贖う。
ーーーーーそれだけで済むのか?
いいや、それだけでは済むまい。
王位の継承権を持つ、気の弱い、歳の離れた末の弟を思い、ラウゼンは息を吐く。静まりかえった王の執務室には吐息の音さえも大きく響いた。
譜王と呼ばれた、亡き父王以外では唯一、天秤の声を聞ける者。
ラウゼンは辛うじて天秤の傾きが解るだけで、そこまでの力は無かった。
他の兄弟などは、天秤がミリも動かず、まだ幼い末弟が力を発揮した時、年老いた父王は安心したように、間もなく息を引き取った。
王位の継承権は末弟のシャークにあったが、その幼さもあって、暫定的にラウゼンが即位し、然るべき時期を鑑みて、王位を譲る筈が、シャークの気の弱さと、ラウゼンの政治的手腕の的確さも相俟って、ズルズルと延ばされていた。
兄弟の中には、このままシャークに譲位するのではなく、サジルに継承させてはと言う者もいた。
所詮は天秤、物似過ぎない。街角のカード占いと何が違うのか。
そんな占いで何故、ラウゼンが愛した侯爵令嬢との婚姻を反対したのかが解らない、とも。
結局ラウゼンは父王亡き後に、反対されていた侯爵令嬢と婚姻を結んだ。王妃となった妻との間に産まれたサジルは人当たりも良く、頭の良さは教師も驚く程で、神童とも言われ、ラウゼンは親として鼻が高かったくらいに出来が良かったのだ。
ーーーーが。
ラウゼンの脳裏に亡き父の言葉が蘇る。
秘密裏に、だが、しっかりと言われた。
『ならぬ。お前と、あの令嬢との間に産まれてくる赤子は、破滅を呼ぶ』
表情の一切が削ぎ落とされて言われた言葉が、今ラウゼンに、とてつもなく、重くのし掛かる。
サジルの姿を見掛けなくなった時の、妙な胸騒ぎを何故無視したのか。
もう何度目になるのか分からない後悔。
「嗚呼ーーーーなぜだ、サジル」
神殿からの尋常で無い知らせを聞いて、ラウゼンはガクガクと震え、その場でへたりこんだ。
ひんやりとした神官の眼差しに息を飲むことしか出来なかった。
その場にいた、宰相のムスリに叱咤され、王としてラウゼンは、漸く動き出せたのだ。
もう一度、譜系図に目をおとす。
体裁だけは無関係になったが、各国からの視線は冷たいだろう。
ラウゼンは今まで滅多に使うことの無かった、代々より神器と伝えられるーーーー国宝の天秤を取り出そうと隠し扉をみる。
今は無償に神に縋りたい気分だった。
一歩とは言わず、半歩、いや爪先分だけでもいいから、今よりも状況がマシになれば良いと思った。
何かに導かれるように、なんの変哲も無い壁に現れたカラクリを、迷いなく動かす。
埃臭さとカビ臭さが同時に鼻孔を擽る。
大人では屈まなければ入れない小さな隙間を潜り、暗い部屋のランプに明かりを灯すと、ラウゼンはピタリと動けず、呼吸すら忘れた。
ラウゼンの毛穴から一気に冷や汗が吹き出る。
「ーーーーなっ!?」
何かの間違いかも知れないと、目凝らす。
だが、ラウゼンの目の前には、天秤が置いてあった、台座の敷布にその跡が残るばかりだ。
「ーーーー無い!?天秤が•••••消えている」
深い赤色をした天鵞絨が血の色に見えた。
ラウゼンは急いで廊下へ出ると、シャークを呼べと、扉の前で控えていた近衛騎士に伝える。
何を隠そう、ラウゼンに国宝の在り処を教えたのがシャークだ。
荒々しく扉を締めると、クラリ、と視界が揺れて滲む。
コポリ、と生温くて濃い血が口から垂れ、噎せ返る。
どくどく鳴る心の臓に、真逆ーーーーと思う。浮かぶのは息子のサジルだった。
シャークをこの場に呼んだはラウゼンの失態だ。きっと毒殺を、冤罪をかけられてしまう。
せめて、呼んだのがムスリと一緒であればーーーー。
間違う余地無く、毒を盛られたのだろう。
いつだ、どこでだ?と自問するが、解せぬ。
息子、サジルの笑い声が過る。
信じたいーーーーなぜ、どうしてという感情と、ああ、やはり、という感情が同時に鬩ぎ合う。
(天秤ならば、どちらがより深く抱いている感情なのか、教えてくれたであろうか)
よろめき、ガシャンと茶の入ったままのポットが割れた。勢いで隣の水差しもテーブルから落ちたのだろう、派手に硝子の砕ける音が響く。
もう視界が怪しい。
頼む、もう少し、待ってくれ。
耳鳴りが酷くなる。
ーーーー早く、早く、シャークに
「兄上!?」
シャークに抱き抱えられた気がして、何とか指輪を外す。
「天秤が、盗まれたーーーーシャーク、この、国をーーーーを、止めーーーー」
しっかりと指輪を掌に押し当て、シャークに託す。
頬に当たる暖かい雫らしき物は、シャークの涙だろうか。
相変わらずの泣き虫だ。
今は、逃げろ。ムスリと連絡を取れ。
後、二言三言シャークに伝える。
もう耳も聞こえない。
父の言うとおり、破滅が来るのか。
だが、妻を愛した事に後悔は無かった。
こんな事になっても。
王たる地位にあった者が、なんと罪深きことか。
どうしようもない自分が、愚かな選択をした所為で。
せめて、神より下される罪は、全て自分が冥府へ持っていこう。
喉が焼け付く。
許しも乞うことは赦されないのだろう。
ーーだが。
「ーーーー兄上、あにうえ!」
嗚呼、そうか。
それでもシャークをこの世に送り出して下さった。
ーーーー願わくば•••••神よ。
この日から三日後、ラウゼン二世の病死がムーダン王国より発表された。
王弟シャークは、極秘裏に国王殺害の容疑で城を追われ、10日たった今も行方が分かっていない。
#####
読んでいただきありがとうございました!
第二章の始まりです。
次回からポンコツ女神とその仲間たちが出てきます。
か、活躍できるとイイナァーーーー。
身体に良いと取り寄せたジンライ帝国の茶葉は、冷めても香りが損なわれていなかった。
病を患い、衰えた体力と、張りを失った皮膚に包まれた指が、茶器を乱暴に置かせる。
ムーダン王統譜から抹消された息子、サジルの名前にラウゼン二世王の口元が自嘲で歪む。
今思えば、こうなる前に引き返せる道はあった。それは、幾度も。
複雑に枝分かれするーーーー無数の分岐には、防ぐ道筋が用意されていたにも関わらず、予言じみた父の言葉を信じたくない一心で目を瞑って来た。
その選択の罪を、ツケをこの身で贖う。
ーーーーーそれだけで済むのか?
いいや、それだけでは済むまい。
王位の継承権を持つ、気の弱い、歳の離れた末の弟を思い、ラウゼンは息を吐く。静まりかえった王の執務室には吐息の音さえも大きく響いた。
譜王と呼ばれた、亡き父王以外では唯一、天秤の声を聞ける者。
ラウゼンは辛うじて天秤の傾きが解るだけで、そこまでの力は無かった。
他の兄弟などは、天秤がミリも動かず、まだ幼い末弟が力を発揮した時、年老いた父王は安心したように、間もなく息を引き取った。
王位の継承権は末弟のシャークにあったが、その幼さもあって、暫定的にラウゼンが即位し、然るべき時期を鑑みて、王位を譲る筈が、シャークの気の弱さと、ラウゼンの政治的手腕の的確さも相俟って、ズルズルと延ばされていた。
兄弟の中には、このままシャークに譲位するのではなく、サジルに継承させてはと言う者もいた。
所詮は天秤、物似過ぎない。街角のカード占いと何が違うのか。
そんな占いで何故、ラウゼンが愛した侯爵令嬢との婚姻を反対したのかが解らない、とも。
結局ラウゼンは父王亡き後に、反対されていた侯爵令嬢と婚姻を結んだ。王妃となった妻との間に産まれたサジルは人当たりも良く、頭の良さは教師も驚く程で、神童とも言われ、ラウゼンは親として鼻が高かったくらいに出来が良かったのだ。
ーーーーが。
ラウゼンの脳裏に亡き父の言葉が蘇る。
秘密裏に、だが、しっかりと言われた。
『ならぬ。お前と、あの令嬢との間に産まれてくる赤子は、破滅を呼ぶ』
表情の一切が削ぎ落とされて言われた言葉が、今ラウゼンに、とてつもなく、重くのし掛かる。
サジルの姿を見掛けなくなった時の、妙な胸騒ぎを何故無視したのか。
もう何度目になるのか分からない後悔。
「嗚呼ーーーーなぜだ、サジル」
神殿からの尋常で無い知らせを聞いて、ラウゼンはガクガクと震え、その場でへたりこんだ。
ひんやりとした神官の眼差しに息を飲むことしか出来なかった。
その場にいた、宰相のムスリに叱咤され、王としてラウゼンは、漸く動き出せたのだ。
もう一度、譜系図に目をおとす。
体裁だけは無関係になったが、各国からの視線は冷たいだろう。
ラウゼンは今まで滅多に使うことの無かった、代々より神器と伝えられるーーーー国宝の天秤を取り出そうと隠し扉をみる。
今は無償に神に縋りたい気分だった。
一歩とは言わず、半歩、いや爪先分だけでもいいから、今よりも状況がマシになれば良いと思った。
何かに導かれるように、なんの変哲も無い壁に現れたカラクリを、迷いなく動かす。
埃臭さとカビ臭さが同時に鼻孔を擽る。
大人では屈まなければ入れない小さな隙間を潜り、暗い部屋のランプに明かりを灯すと、ラウゼンはピタリと動けず、呼吸すら忘れた。
ラウゼンの毛穴から一気に冷や汗が吹き出る。
「ーーーーなっ!?」
何かの間違いかも知れないと、目凝らす。
だが、ラウゼンの目の前には、天秤が置いてあった、台座の敷布にその跡が残るばかりだ。
「ーーーー無い!?天秤が•••••消えている」
深い赤色をした天鵞絨が血の色に見えた。
ラウゼンは急いで廊下へ出ると、シャークを呼べと、扉の前で控えていた近衛騎士に伝える。
何を隠そう、ラウゼンに国宝の在り処を教えたのがシャークだ。
荒々しく扉を締めると、クラリ、と視界が揺れて滲む。
コポリ、と生温くて濃い血が口から垂れ、噎せ返る。
どくどく鳴る心の臓に、真逆ーーーーと思う。浮かぶのは息子のサジルだった。
シャークをこの場に呼んだはラウゼンの失態だ。きっと毒殺を、冤罪をかけられてしまう。
せめて、呼んだのがムスリと一緒であればーーーー。
間違う余地無く、毒を盛られたのだろう。
いつだ、どこでだ?と自問するが、解せぬ。
息子、サジルの笑い声が過る。
信じたいーーーーなぜ、どうしてという感情と、ああ、やはり、という感情が同時に鬩ぎ合う。
(天秤ならば、どちらがより深く抱いている感情なのか、教えてくれたであろうか)
よろめき、ガシャンと茶の入ったままのポットが割れた。勢いで隣の水差しもテーブルから落ちたのだろう、派手に硝子の砕ける音が響く。
もう視界が怪しい。
頼む、もう少し、待ってくれ。
耳鳴りが酷くなる。
ーーーー早く、早く、シャークに
「兄上!?」
シャークに抱き抱えられた気がして、何とか指輪を外す。
「天秤が、盗まれたーーーーシャーク、この、国をーーーーを、止めーーーー」
しっかりと指輪を掌に押し当て、シャークに託す。
頬に当たる暖かい雫らしき物は、シャークの涙だろうか。
相変わらずの泣き虫だ。
今は、逃げろ。ムスリと連絡を取れ。
後、二言三言シャークに伝える。
もう耳も聞こえない。
父の言うとおり、破滅が来るのか。
だが、妻を愛した事に後悔は無かった。
こんな事になっても。
王たる地位にあった者が、なんと罪深きことか。
どうしようもない自分が、愚かな選択をした所為で。
せめて、神より下される罪は、全て自分が冥府へ持っていこう。
喉が焼け付く。
許しも乞うことは赦されないのだろう。
ーーだが。
「ーーーー兄上、あにうえ!」
嗚呼、そうか。
それでもシャークをこの世に送り出して下さった。
ーーーー願わくば•••••神よ。
この日から三日後、ラウゼン二世の病死がムーダン王国より発表された。
王弟シャークは、極秘裏に国王殺害の容疑で城を追われ、10日たった今も行方が分かっていない。
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読んでいただきありがとうございました!
第二章の始まりです。
次回からポンコツ女神とその仲間たちが出てきます。
か、活躍できるとイイナァーーーー。
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