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一章 女神と花冠の乙女

幕間 ムーダン王国サジル王子

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ーーーー時は少し遡る。


「イタタタ。ああ、全く容赦の無い」

乙女の選定が終わった後、控えに戻る事もせずに、即座に逃げた。

全ては手筈通りにーーーーとまではいかなかったが、大神殿から、祖国ムーダン王国へ戻る予定は端から無かった。

影に潜み、暗闇から暗闇へ。影を伝って西大陸へと続く大森林へと入る。
鬱蒼とした深い森はどこもかしこも影だらけで、影を操れる自分は移動が容易になる。

必要な荷物は予め影に仕舞っておいた。
西大陸に着いて最初の街で宿を取り、痛む鳩尾を確認すれば、赤黒く痣が出来ていた。薄く血も滲んでいる。

フィリアナを回収し、女神を諦め、ギリギリのタイミングで『切った』筈が、余波だけでこれとは。

「護符もボロボロだね。特級なんだけどな、コレ」

衣服の下に忍ばせた護符は、取り出した瞬間に、黒く焦げた様を見せ、少し力を入れればボロッと崩れた。

「これで手加減をしてるなんてね、あの側近はなんて化物なんだろう」

今頃、大神殿は大忙しだろう。

ムーダン王国側からしてみれば、欠席と神殿へ返答したにも関わらず、大神殿には出席との返事がなされ、あまつさえ王子が出席していたのだ。従者も連れて、堂々と。

しかも、その王子が忌み地に封じられた邪神と通じて混乱を齎したのだ。

「本気で逃げた鬼ごっこは、案外面白かったかな?」

子供の頃に付き合いで参加させられ、何処が面白いのか理解不能な遊びだったが。

なるほど、今になって漸く分かった気がする。
聖騎士達のあの気迫は凄まじかった。
殺す勢いで放たれた攻撃魔法も、包囲せんと追い掛けてくる捕縛魔法も。
あれは漁師に追われる魚になった気分だった。

熱いシャワを浴びてスッキリすると、簡素ながらも、そこそこ寝心地の良いベットに横になる。

普段なら眠らずともコンタクトを取れるが、今日は魔力体力の双方が限界だ。

「たまには僕の夢の中で合うのも良いだろう?」

ーーーー父上は、永遠の夢の中へ行ったかな。それとも回避しただろうか。
誰が罠を踏むだろうか。
踏むなら王弟の叔父か、はたまた宰相か。

ムーダンの現国王の一人息子、サジルは目を閉じると、夢の中へ旅立った。





#####



「やぁ、さっきぶり、とでも言おうか」

いつもの空間に丸いテーブルとチェス盤。

違うのは幼い少年ではなく青年の所だろう。それと、血の様な赤いワインがグラスで二つ。

「失敗しちゃったね。でも、あの子ならきっと僕を追いかけてくる。これがあるしね」

サジルが取り出した青く輝く花は、花弁が一枚欠けている。
フィリアナとか言う小娘から取り出したようだ。
というよりも、花が、もう小娘の中には入らないのだろう。

「まずは顔を変えないといけないね。僕も、あのフィリアナって子も。ああ、名前はどうしようか」

《小娘のギフトを使えば難しくないだろうに》

「ああーそうかな?そうだね、うん。そうそう、名前と言えばーーーー貴方に名前を付けたいと思うんだ」

無理だろうと告げる。どれ程の力を必要とするのか、とてもじゃないが、サジルの力だけでは足りない。

エルフリンデの国が丸ごと潰れても、足りなかったのだから。
東と西とで終結に導かれ、邪魔をされたがーーーー封印は解けなかった。

その事を聞いて、サジルはカララと笑う。

「だからアプローチを変える。ねぇ、信仰は貴方の力にはならない?外から開けられないなら、内側は?力を奪われたなら、僕が貴方にあげる」

名を、力をーーーー信仰の力で我に与えると言うのか。

「実験してみる価値はあると思わないかい?今は小規模だけどね。それでも貴方に僅かでも力が宿るのかは、試せるんじゃないかな?」


小娘を聖女として祭り上げるのか。馬鹿だぞ、この娘は。


「貴方の妹、としても面白いと思わないかい?少し覗いただけでも、とっても愉快な夢を見ていたよ。この子」

何もない空間に小娘のストロベリーブロンドが広がる。
まだ意識は戻っていない。

《ーーーー断る》

「一刀両断だね。冗談だよ。半分は本気だったけど。馬鹿なのはーーーー躾ればだいぶマシにはなる。飽きたら捨てれば良いだけだ。いつものように」


馬鹿な娘の事はともかく、信仰の力とやらを試すのは面白そうだった。


「面白そうだろう?その為に種を蒔いておいたんだから。朝になったら移動しよう。この宿は悪くないけど、僕の趣味に合わないからね」

遊び場にそれぞれ別邸があるようだ。見物用の。

《朝は待たない方が良いだろう。お前の力を観察しているかもしれない》

「ああ、もしかして『逃がしてくれた』のかな?東の君は。これで『返した』とか有り得そうだね」

ある程度分析したら、ここも踏み込まれるだろう事は、この男は言わずとも解るだろうに。わざとらしい。

「東の君って性格悪いんだ。聖騎士は本気だったんだけどねぇ」

お前には言われたく無いだろうよ。

「疑似餌もばら撒いて置いたんだけど、神様にはお見通しって訳かな?まぁ、簡易的な物になってしまったし、仕方がないね。あぁ、もう少し休みたかったけど、移動しようか。ーーーーとても、慎重にね」




翌朝、聖騎士が踏み込んだ部屋には、痕跡一つ残らない空間しか無かった。







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お読みいただきありがとうございました!

お気に入り登録もありがとうございます(♡´∀`)

次回から二章ムーダン王国編です。
よろしければお付き合い下さいまし( * ॑꒳ ॑*)

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