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一章 女神と花冠の乙女

44 フィリアナと魔女の繋がり

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ーーーアゴルト山脈が出来た理由を知っていますか?

そんな始まりでロウは語り始めた。
遥かな昔、神代の時代。
この中央大陸は最北に世界最高峰の山、バストラ火烏山がある。この山を中心に、神殿のある半島は中央大陸と左右対象の形であったらしい。

今の大神殿のある場所に、神々が住まわれていたと云われていて、それがある時に三界に分かたれた。

天からの光槍が大地に深く刺さり、地からの冥槍が天へと放たれた。
後に、この槍が天へと伸びる賢者の塔、地層階へと伸びるのは隠者の塔と言われるダンジョンとなったらしい。

その時の衝撃で、バストラ火烏山が噴火、アルゴト山脈も大地から隆起して出来上がり、中央大陸側のアルゴト山脈から、バストラ火烏山までの広大な土地が死の大地となって暫くは無人だったと言う。

大神殿側の大陸も地形が変わって今の形に落ち着たんだって。

やがて死の大地も緑が戻り、生き物が増えると人も住まうようになる。
そうして出来上がったのは国で、この国が御伽話に出てくる『なんでもある国』だ。

私はこの御伽話を聞いたことがないけど、このお話には、夜ですら昼間のように明るく、空飛ぶ船に馬のいらない馬車が出てくるんだって。
飛行機と車みたいな物かな。

文明の発達したこの国に、一人の女王が出てくる。絶世の美女で、この世界で一番美しいと評判だったそうな。
なんでも欲しがるこの女王は、数々の求婚を退け、私に相応しいのはこの世で一番美しい男だと言って、あろう事か神々に中で一番美しいと言われている時空神様に求婚したらしい。
当然答えはNO!

では私と結婚すればこの世界の王となれるぞ、って四方八方に戦争を吹っかけたんだって。
この世界の国、全ての女王となる為に、全ての国を手に入れる為に。
自国の文明の発達もあっただろう。自信もあったらしい。

「千年以上も昔の話ですが、この戦争が切っ掛けで、ーーーそれ以外にも理由はありましたがーーー私とラインハルトがフィア様の側近となったのですよ」

あ、この辺は聞いたし読んだし吟遊詩人も歌ってるよねぇ。
で、この二人がこの戦争を終結に導くんだよ。

「ですが、この女王が、諦めなかったんですよ。最も美しい神を手に入れる事を」

そこで女王は、その神が一番可愛がっている末っ子の女神を捕らえて、その神を呼び出す事にしたらしい。

ーーーーーーうん?末っ子の女神?

末っ子女神が一番最初に創り、可愛がっている神獣を捕まえておびき寄せ、女神を捕えた。

女王は魔力も膨大で、しかも魔導国家だけあって、魔術も魔導具も発達していたから出来たみたいだけど、怒り狂った神々に叶う筈もなく。

「お小さかったフィア様には囚われた、と言う意識は無かったようですよ?神獣を探して天界から落ちてしまったご自分を、時空神様がお迎えにいらっしゃったと思っていたと聞きます」

ーーーーーーさようで御座いましたか。お手数をお掛け致しました。

「兄君に、『このおばさまは、にいさまのおしりあい?』って言っちゃってあの女王を激怒させたんだよねー。フィーってば」

おかしい、今話しているのは、私の黒い歴史暴露では無かった筈!

「ーーーコホン。女王は時空神様に恋をしていた、のは確かでしょう。幼いフィア様を害し、そのお力を手に入れて自らを神にしようとする程、そう、狂っていました。そうすれば時空神様に愛情を向けて頂けると」

要するに、私と入れ替わりたいって言うことかな。ーーーなんか似てるなぁ。

「当然、兄君はそんな事許さないよ。勿論俺達も」

女王は煉獄より呼び出された業火に焼かれ、生命潰えてなお、国を滅ぼすまで叫び続けていたというから恐ろしい。

そうして時空神により、魂に刻まれた【許されざる者】の刻印。
大地母神の元へ還る事も叶わずに、彷徨い続ける。魂が消滅するまで。

ーーー魂の消滅が神にとっての死。

「己が滅ぼした国で、大地で、魂が消滅するその時まで、彷徨う。それが魔女に下された罰だ」

今は神に見捨てられた地。
ロストテクノロジーや、アーティーファクトを求めて、生命知らずの冒険者達が行っては廃人になって帰ってくる。たった一人の魔女によって、穢れや瘴気に満ちた場所。





「その魔女の刻印が、どうして村長の孫娘にあるのかな?」

私は疑問をそのまま口にした。繋がりそうで繋がらないもどかしさが募る。


「報告書を読む限りでは同調性は高そうだがな。だが、あの魔女にはその娘に干渉出来る力など残っていなかった筈だ。自我も保てぬ、それだけの時間は経った」

ラインハルトの人差し指がテーブルをコツんと叩く。
フロースが肩を竦めた。

「さぁ?でもあの魔女のおばさん、俺にだってさ『もう少し成長したら愛人くらいにはしてやる』って夢見るように言ってたからなぁ。焼かれながら嗤ってだよ?信じられる?なんか怨念だけでも動きそうだよね」

フロースのその言葉に、ふと、ロウが顔を上げて、「ーーー夢?」って呟いた。

「フィア様と、フィアリス。そして奪われた力と、亡くなった孫娘、フィリアナ、魔女の刻印ーーー夢」

「夢、ね。夢は寝てる時に見て欲しいね!あの魔女は、時空神に愛を囁かれたっておかしな事を言ってたしさ、夢でも見たのかもね」

「死の谷は崩落で、忌み地であるあの場所と一部繋がっています。その崩落が死の谷を作った原因ではあるのですが。魔女が死の谷でも彷徨っていたとして。フィアリスを助けに行ったフィア様があの魔女に力を盗まれたとしたらーーー」

「いくらなんでも、幼いフィーじゃあるまいし、それはーーーーあー、あるかもしれない」

私の方へと、皆が一斉に顔を向けてきた。う、頷かれてる?
えと、駄目っ子設定なんでしょうかね、私。

「力を失くしても、一番欲しかったものがーーーそこにある。例え自我を失ってしまったとしても、あの執着心から想像するに、充分有り得ることだと思います」

「そして、夢、か?自我も失く夢が見られると?」

「あの執着心ーーーいえ、妄執ならば、あるいは。夢を介してその娘にフィア様の力と、魂の欠片程度は。手元にフィア様の欠片があったのなら、不可能ではありますまい。同調性が高いのならば尚更です。おまけに、乙女ゲームとやらのシナリオを知っている前世持ち。お誂え向きではないですか」

「そして、その孫娘がギフトを使って入れ替わったと?ーーーフィリアナと」

ーーーしかも、フィリアナと入れ替わった娘は魔女と同じ、夢を抱いている。時空神に愛されるという夢を。

ゲームのシナリオ通りに。

フィリアナにとっては、私が、ゲームのラスボス、【悪しきもの】厄災の魔女なんだよね。
目の前が暗く感じちゃうな。

「ーーーあ、れ?」

私は目眩をおぼえてよろめいた。そう言えば、力を出しっぱなしだったような。
ぽすん、と受け止めてくれる腕に安心して、私は意識を手放した。

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