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一章 女神と花冠の乙女
13 それぞれの思惑
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ボスっと鈍い音を立てクッションが壁に叩き付けられる。
羽毛が飛び散るが、片付けるのは自分じゃ無いので気にする事は無い。
忌々しい。ギリッと親指の爪を噛む。
アルブレフトもトリスタンも、この私が声を掛けてあげてると言うのに、靡く様子が微塵もが無い。
何よりも、あの女、レイティティア。
何故あんなにも妖精が集まるの?!悪役令嬢の癖に!
私が舞えばわんさかと妖精が集まる。私にはその力がある。
だけど力を使い過ぎると反動で衰えるのだ。
調子に乗って使い過ぎた時に手が老婆の如くーーー皺だらけになったことがあった。
幸い一晩で戻ったが。
こんな事、聞いて無い!と文句を言えば、女神の力なのだから、人の身に耐えられるのは極僅かだと、あっさりと返された。
だから力を使うのは群舞の時。集団での練習の方が集めやすい。
一人で踊って妖精や精霊を集めるよりも、より多くの子が集まるもの。そうやって、他の子に寄ってきた子が私の舞に引かれるのは仕方がないわよね。
なのに、あの女に惹かれた聖霊は私に靡かない。
加えて、私よりも多くの子に好かれるなんて!
特に、下級でも精霊が多くて許せなかった。
ギリッと親指の爪を噛む。
侍女に注意されるが、あの侍女も煩くて嫌。もう首にしてもらおうかしら。役に立たないし。
眠っている妖精を見の内に取り込む。
そうすると肌や髪に艶が増すのだ。それに力を増して使っても衰え難くなるみたい。
最初からこうすれば良かったのよ。
妖精なんて沢山いるんだし。
最近は寿命じゃ無くても取り込んでいる。
別に駄目とは言われなかったし。
寿命だろうとなかろうと、女神の中で眠るのだから彼らも幸せよね。
鏡を見て自分の美しさがあきらかに増しているのが分かる。
あの女よりも私の方が断然綺麗よ!
舞だって負けてないわ。
いつもいつも私の邪魔ばかりして、きっと陰で笑っているに違いない。
悪役令嬢のレイティティアだもの。
まぁいいわ。王子に言ったら婚約破棄の後は追放だって。
アルブレフトもあんな冴えない下級女官と楽しげに夜の散歩なんて、どうかしてる。
イライラするから王子に泣き付いてあの女官も追い出してしまえばいいわ。
ああ、でもその前にたっぷりと泣き叫んでくれなきゃ。見られないのは残念だけど。
だって明後日ーーーいえ、もう明日は断罪のイベントがあるんだもの。楽しみで今から眠れないくらいよ。
お陰で女官と楽しげなアルブレフトを見ちゃったけれど、あの女官も最後にアルブレフトと散歩が出来たのだから、もういいわよね。
ああ、楽しみだわ。
それに、私の評判を聞いて花神様がいらっしゃったのですって。
一度戻られたらしいけど、他の神様を呼ぶためだとか言っていた。
それなら仕方がないわね。
あの御方だったらどうしましょう。
いえ、まだお会いするには早い。
だって、大神殿で私を選んでくれるのが、あの方だもの。
ずっと探していたと、その腕が抱き締めてくれるの。
ああ、その時が待ち遠しい。
会いたいのだと、フィリアナからの伝言を、魔力で練られた言伝の蝶に伝えられ、直ぐ様部屋を訪れればフィリアナが細い肩を震わせて泣いていた。
青い顔をして、こんな夜も更けきった、冷たい王宮での真夜中、俺を頼りに震えていた。
女神をその身に宿したと言われても頷ける美貌に翳りが指す。
痛々しくてそっと抱き締めればフィリアナの熱い吐息が首に掛かる。
優しく髪を撫でて、何があったかを聞いてやれば、力無く首を横に振る。
「優しい其方をこの様に悲しませるのは何だ?レイティティアか?」
ビクっとレイティティアの名に反応するが、違うとまた首を振る。
あのお高く止まった嫌味な女はーーー明日で終わりだしな。
「では誰だ?トリスタンに心無い事でも言われたか?アルブレフトにーーーそうか、あいつか!」
「いいえ、いいえ!アルブレフト様ではありません!あの方ではありません。ただ、私を睨むあの目が恐ろしかったのです」
それは誰だ?
心清いフィリアナは誰かを悪く言うのが苦手だ。だから辛抱強く、聞き出してやらねばならない。
「なるほどな。フィリアナ、大丈夫だ。もう何も怖いことはおきない。夜も更けだ。さぁ、もうお眠り」
最後にもう一度抱きしめるとフィリアナは花が開く様に微笑んだ。
流石、神を怒らせただけの事はある女だ。
慈悲深い神があそこまで怒気を顕にしても、平然としていたのだから。
その女官、牢へ入れろと指示したはずが何故アルブレフトと歩いている?
西宮殿の南側は騎士団の寮がある。
ーーーチッ。
あいつらは女とみれば甘い顔をする。将来国を動かす地位に付く自覚が足りないのではないか?
側近として厳しく躾けてきた積りだったが、俺もまだまだ甘いようだ。
「ーーー親衛隊を呼べ」
近衛も最近は何かと口答えをするようになってきたし、奴らをこれ以上増長させない為にも俺が新設した部隊だ。
数時間後には全て解決しているだろう。
改めて神々をお招きするのに、清々しくあるのは当然の事。
フィリアナの清き舞は神々もきっとお気に召す。
突然の神託には驚いたが、花神様が直々に御降臨為さるとは。
フィリアナの評判ゆえの事と思うと、我が事のように胸が熱くなる。
「ーーー殿下、御前に」
さて、煤は払ってしまわねばな。
羽毛が飛び散るが、片付けるのは自分じゃ無いので気にする事は無い。
忌々しい。ギリッと親指の爪を噛む。
アルブレフトもトリスタンも、この私が声を掛けてあげてると言うのに、靡く様子が微塵もが無い。
何よりも、あの女、レイティティア。
何故あんなにも妖精が集まるの?!悪役令嬢の癖に!
私が舞えばわんさかと妖精が集まる。私にはその力がある。
だけど力を使い過ぎると反動で衰えるのだ。
調子に乗って使い過ぎた時に手が老婆の如くーーー皺だらけになったことがあった。
幸い一晩で戻ったが。
こんな事、聞いて無い!と文句を言えば、女神の力なのだから、人の身に耐えられるのは極僅かだと、あっさりと返された。
だから力を使うのは群舞の時。集団での練習の方が集めやすい。
一人で踊って妖精や精霊を集めるよりも、より多くの子が集まるもの。そうやって、他の子に寄ってきた子が私の舞に引かれるのは仕方がないわよね。
なのに、あの女に惹かれた聖霊は私に靡かない。
加えて、私よりも多くの子に好かれるなんて!
特に、下級でも精霊が多くて許せなかった。
ギリッと親指の爪を噛む。
侍女に注意されるが、あの侍女も煩くて嫌。もう首にしてもらおうかしら。役に立たないし。
眠っている妖精を見の内に取り込む。
そうすると肌や髪に艶が増すのだ。それに力を増して使っても衰え難くなるみたい。
最初からこうすれば良かったのよ。
妖精なんて沢山いるんだし。
最近は寿命じゃ無くても取り込んでいる。
別に駄目とは言われなかったし。
寿命だろうとなかろうと、女神の中で眠るのだから彼らも幸せよね。
鏡を見て自分の美しさがあきらかに増しているのが分かる。
あの女よりも私の方が断然綺麗よ!
舞だって負けてないわ。
いつもいつも私の邪魔ばかりして、きっと陰で笑っているに違いない。
悪役令嬢のレイティティアだもの。
まぁいいわ。王子に言ったら婚約破棄の後は追放だって。
アルブレフトもあんな冴えない下級女官と楽しげに夜の散歩なんて、どうかしてる。
イライラするから王子に泣き付いてあの女官も追い出してしまえばいいわ。
ああ、でもその前にたっぷりと泣き叫んでくれなきゃ。見られないのは残念だけど。
だって明後日ーーーいえ、もう明日は断罪のイベントがあるんだもの。楽しみで今から眠れないくらいよ。
お陰で女官と楽しげなアルブレフトを見ちゃったけれど、あの女官も最後にアルブレフトと散歩が出来たのだから、もういいわよね。
ああ、楽しみだわ。
それに、私の評判を聞いて花神様がいらっしゃったのですって。
一度戻られたらしいけど、他の神様を呼ぶためだとか言っていた。
それなら仕方がないわね。
あの御方だったらどうしましょう。
いえ、まだお会いするには早い。
だって、大神殿で私を選んでくれるのが、あの方だもの。
ずっと探していたと、その腕が抱き締めてくれるの。
ああ、その時が待ち遠しい。
会いたいのだと、フィリアナからの伝言を、魔力で練られた言伝の蝶に伝えられ、直ぐ様部屋を訪れればフィリアナが細い肩を震わせて泣いていた。
青い顔をして、こんな夜も更けきった、冷たい王宮での真夜中、俺を頼りに震えていた。
女神をその身に宿したと言われても頷ける美貌に翳りが指す。
痛々しくてそっと抱き締めればフィリアナの熱い吐息が首に掛かる。
優しく髪を撫でて、何があったかを聞いてやれば、力無く首を横に振る。
「優しい其方をこの様に悲しませるのは何だ?レイティティアか?」
ビクっとレイティティアの名に反応するが、違うとまた首を振る。
あのお高く止まった嫌味な女はーーー明日で終わりだしな。
「では誰だ?トリスタンに心無い事でも言われたか?アルブレフトにーーーそうか、あいつか!」
「いいえ、いいえ!アルブレフト様ではありません!あの方ではありません。ただ、私を睨むあの目が恐ろしかったのです」
それは誰だ?
心清いフィリアナは誰かを悪く言うのが苦手だ。だから辛抱強く、聞き出してやらねばならない。
「なるほどな。フィリアナ、大丈夫だ。もう何も怖いことはおきない。夜も更けだ。さぁ、もうお眠り」
最後にもう一度抱きしめるとフィリアナは花が開く様に微笑んだ。
流石、神を怒らせただけの事はある女だ。
慈悲深い神があそこまで怒気を顕にしても、平然としていたのだから。
その女官、牢へ入れろと指示したはずが何故アルブレフトと歩いている?
西宮殿の南側は騎士団の寮がある。
ーーーチッ。
あいつらは女とみれば甘い顔をする。将来国を動かす地位に付く自覚が足りないのではないか?
側近として厳しく躾けてきた積りだったが、俺もまだまだ甘いようだ。
「ーーー親衛隊を呼べ」
近衛も最近は何かと口答えをするようになってきたし、奴らをこれ以上増長させない為にも俺が新設した部隊だ。
数時間後には全て解決しているだろう。
改めて神々をお招きするのに、清々しくあるのは当然の事。
フィリアナの清き舞は神々もきっとお気に召す。
突然の神託には驚いたが、花神様が直々に御降臨為さるとは。
フィリアナの評判ゆえの事と思うと、我が事のように胸が熱くなる。
「ーーー殿下、御前に」
さて、煤は払ってしまわねばな。
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