にじニーズ

ふじもり ひろゆき

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はじまったばかりの夏休み

ケアイケ自然公園

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 マサはマイペースでおっちょこちょい、それにものすごくマヌケだ。
 エータはせっかちで、おしゃべりすぎるし、ドジで、お調子者。
 トージは3人のなかでは、しっかりしているほうだったけれど、カメのように、おっとりしすぎている。

 これは、ドジでマヌケでおっとりものの3人の、おはなし。

 2段飛ばしでドタバタと階段をおりていくマサは、バランスをくずしてコンクリートの地べたに両手をついてしまったが、すぐに顔をあげた。
 そして、マンションの北側にある自転車おきばにかけていった。
 すりむいた手のひらには、じんわりと血がにじんでいる。

 小学4年生になれば、魔法使いになるためのキャンプに参加できる。
 かれらは、この日をずっと待っていた。
 近所のケアイケ自然公園でひらかれる4泊5日のキャンプに参加する、この日を。

 ケアイケ自然公園は、町の何倍もおおきくて、自然があふれている。
 たくさんのシェアルたちがここでくらしている。


 にじをだしながら空を飛んでいる少年は、ケアイケ自然公園の上空でピタリととまると、公園をみまわした。

「でっかい、公園だなあ。どこだよ、あの子たち」

 自然公園のなかには、シェアルたちの村がいくつもある。
 あの子たち――ハニワたち――の村もここにある。

 ――はやく、はやく。あっち、あっち。
 
 にじのコハク玉は、テレパシーで少年に語りかけた。

「はい、はい、わかったよ。あっちねー」

 少年は、めんどくさそうにこたえると、森のなかにふらふら飛んでいった。

 青かった夢のコハクは、いつのまにかピンク色になっている。

 ――はあ、楽しみ。ハニワたち、元気にしてるかな?みんなでエンジョイしよっと。

 このハニワたち、というのは、ぼくらがくらしている、地球の、日本のやよい時代のいせきからでてくる、ハニワとそっくりそのままのすがたをしている。
 わたしたちの世界で知られているハニワは、土からつくられた人形みたいなものだが、こちらの世界のハニワたちは、シェアルとして、生きていた。
 のびのびと、たのしく、にんげんたちと、せいかつしていた。


 アンバランスなほどおおきなリュックをせおったマサたちは、あついのをがまんしながら、自転車で町なかをすすんでいった。

 10分ほどでついたケアイケ自然公園の入口には、町ではみかけることのないおおきな木がならび、ゆらゆらと葉をゆらしている。

 ――ようこそ。よくきたね。

 木が語りかけてくる気がした。

 木々は、マサたちが生まれるずっとずっと前から(両親が生まれるずっと前から)、昼も夜も、ここにたっている。
数えきれないほどの時間をここですごして、人やシェアルたちをむかえてきた。

 200台ほどの車がとめられる駐車場には、ちらほらと車がとまっていた(平日なので車はすくない)。
 駐車場を自転車で走りぬけていくと、アスファルトだった道が、土のでこぼこ道に変化した。
 太陽の光をいっぱいにあびた木の葉が、シャインマスカットのような、すきとおった黄緑色にかがやいている。
 木にかこまれたその道をすすむと、のぼり坂がみえてきた。
 
 ハァハァ。

 いきをきらせた3人が、自転車をたちこぎして坂をのぼり終えると、2階だてのコテージが目にとびこんできた。

 ――ここだ。

とマサたちはおもった。

 キャンプ場の門をはいったすぐ横に、コテージがたっていた。
 このキャンプ場を管理しているたてものだ。
 べっそうのようにもみえる。
 かべいち面にひろがるおおきな窓にはカーテンがない。
 子どもたちが広間でにぎやかにしているようすや、テーブルにならんだおかしやジュースが、よくみえる。

 3人は、おりた自転車を手でおしながら、キャンプ場のひらいたままの門のなかへはいっていった。

 コテージの玄関をあけると、チェルリンという名前のシェアルがむかえにでてきた。
 チェルリンの頭からは、シカのツノのような形の2本の木がはえている。
 そのツノには、まるでクリスマスツリーのように、いろいろなかざりがついていた(歩くたびにリンリンとすずの音がする)。

「ようこそ。どうぞどうぞ。」

 チェルリンは、シャインマスカットのような、うるうるした黄緑色の目でいった。

「よろしくお願いします」

 エータはまっさきに元気よくこたえた。

 チェルリンの背の高さはマサたちのひざくらいで、チョコレート色のふわふわした毛でからだがおおわれている。
 すこしおおきめのウサギのようにもみえる。
 そんなチェルリンがマサたちを広間へ案内した。

「こんにちは。名前の横にマルをつけてくれる?」

 テーブルにいるエリールはそういって、1まいの紙を差しだした。
 そこにはキャンプに参加する子どもたち24人の名前がずらりとならんでいる。
 26歳のエリールはキャンプの指導員。
 はつらつとしていて、ぐいぐいとひっぱっていくタイプの人だ。
 おてんばむすめ、のふんいきもある。
 かみはベリーショートでパーマをかけている。ヒトミは茶色で、ガラス玉のように、かがやいている。

「部屋のカギだよ。にもつ、おいてきちゃいなよ。すっごくおもそう」

と、ほほえんだエリールはエータにカギをわたして、チェルリンをみた。

「202、案内よろしくね、チェルリンちゃん」

 そういわれてウインクしたチェルリンは、ツノのすずをリンリンならした。

「オッケー。こっちだよー。ついてきてー」

 コテージのすぐ近くに、バンガローとよばれている、10とうのたてものがたっていた。
 それぞれのバンガローのまんなかは、ウッドデッキになっていて、テーブルと4つのイスがおかれている。
 みんなであつまっておしゃべりしたり、わいわい遊んだりできるようになっている。
 そのウッドデッキをはさみこむように、玄関が横に3つ、そのむかいにもう3つならんで、1とうに6つの部屋があった。
 木のにおいがあふれる部屋は、2段ベットが2つと、そのほかには、エアコンとテーブルがある。
 とてもシンプルなつくりだ。

 エータはベットにひっくりかえると、ふぁー、とおもいきり、のびをした。

 きんちょうがほどけた、かれらは、ちょっとひとやすみした。
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