にじニーズ

ふじもり ひろゆき

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はじまったばかりの夏休み

ゆめのコハク

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 空には、飛行機雲のような、まっすぐでほそ長い、2本のにじがぴったりとならんでのびている。
 線路のようにもみえるその2本は、飛行機のように空を飛ぶ10才の魔法使いの少年と、そのパートナーのトンビが体じゅうからだしている。

 いきよいよく、にじ色の光がとびちっている。

「ぴゅーひょろろろ~」

と、トンビが気持ちよさそうにないた。
 体全体、羽もひとみも、右半分と左半分で色がまるでちがう。
 まんなかから、きれいにきっぱりと色がわかれている。
 右は青くて、左は紫。
 左右で色がちがうから、横から見た人は、それぞれちがったことをいうかもしれない。
 たとえば、こっちの人は、あのトンビ青いね、といったかとおもえば、むこうの人は、ちがうよ、紫だよ、というかもしれない。
 もめるかもしれない。
 左右で色がちがうから、そんなおかしなことがおきるかもしれない。
 
 少年の背なかには、トンビのとそっくりのツバサがついている。
 このツバサも、おなじように左右で色がちがっている。
 右のツバサは青くて、左のツバサは紫だ。

 ツバサは夏の海の波のように、リズムよくバサバサとはばたいて、少年を前へ前へとはこんでいく。
 少年をまだみたこともない、ゆめいっぱいの場所へはこんでいくように。
 
 耳をすっぽりかくす長さの、少年のボリュームいっぱいのかみの毛も、ひとみも、右が青くて、左が紫。

 つやつやしたかみは、風にさらさらとゆれている。
 長いかみだったから、ときどき女の子にまちがわれたりもした。
 
 左手には、野球ボールほどの大きさの、地球のように青くてまるい〈ゆめのコハク玉〉という宝石をもっている。
 樹液から生まれた、このコハクの宝石は、ゆめにあふれたひとみのようだ。
 それに、ちいさな地球のようだ。


 夕方がちかづいている。
 太陽は山のむこうに、しずんでいこうとしている。
 けれど、海にいきたくなるようなひかりで、ホプヒという町をてらしつづけている。


 ここは、そっくりだけれど、どこかちがう。
 そんな、ガラス玉のなかをのぞきこんだときに、ひろがっているような、もうひとつの世界。

 魔法の力があふれた、もうひとつの宇宙と地球。
 
 ここは、パラレルワールド。

 妖精たちなどが、ひっそりとかくれることもなく、人といっしょに生きている。
 
 むこうのかれらは、妖精たちのことをシェアルとよぶ。

 シェアルは、なかよくなった人に魔力をシェアする(シェアとは、自分のものをだれかにかしたり、いっしょに使ったりすること)。
 人と話すことだってできる。
 
 動物や魚や虫たちのなかにもシェアルはいる。
 
 たとえばネコ。

 みた目はふつうのネコだけれど、人と話ができるし、魔法を使える。
 そんなネコがときどきいるのだ。

 シェアルとなかよくなれば、魔法使いになれる。
 そんな世界がとおくにあった。
 
 
 宝石のしんじゅのようなホワイトパール色をした、お札ほどのおおきさの長方形のタイルが、びっしりとはられた6階だてのマンションが、白くまぶしく光っている。
 夏の強力な太陽にてらされたマンションは、宝石のしんじゅのように光っている。
 
 まわりは、低い建物ばかりなので、このマンションはひときわめだっていた。
 車がいきかう大きな道路にめんした、この細長い長方形のマンションは、空にむかってそびえたっている。
 
 向かいには畑があった。
 たてが100メートル、よこが200メートルほどのおおきさだ。
 家族経営の農家が所有している畑で、この家族は500メートルほどはなれたところにある丘のしゃめんにも畑をもっていた。
 60代後半の夫婦とその息子夫婦で野菜をつくっていた。
 息子夫婦のところには、ちかぢか赤ちゃんが生まれる。
 畑の向かいにあるマンションの3階の301号室にマサはすんでいた。

 マサはこの畑の入り口にある野菜の自動販売機でときどき野菜を買っている。
 おばあちゃんが遊びにきたときに野菜をプレゼントすると、おばあちゃんが大喜びしてくれるからだ。
 おばあちゃんの喜ぶ姿が見たいから野菜をここで買うのが楽しみだった。
 
 マサのおばちゃんは、となりの駅から電車に乗って、2週間に1回くらい遊びにやってくる。
 マサよりちょうど50歳上の60歳だった。
 歩くことが好きで、ほぼ毎日、夕食のあとに近所の友達5、6人と集まって、楽しくおしゃべりしながら健康のために夜の町を歩いている。

「いってくるねー」

と、玄関をあわててでていくマサは、けい光色の4色――青、むらさき、ピンク、緑――の目がチカチカするリュックを背おっている(もようは、大きな四角をいくつもちりばめたもの)。
 
 母によって荷物をぎっしりつめこまれたリュックは、大きいうえに重いので、マサはフラフラっとバランスをくずして、ひっくりかえってしまいそうだ。

 母親は、むすこのことを、あれやこれやと心配して、リュックがパンパンになるまで、荷物をつめこんでしまったのだった。

 マサのかみの毛はボリュームがあったので、ヘルメットをかぶっているようにもみえた。

 小学4年生のマサは、おさななじみのトージとエータといっしょに、3泊4日のキャンプにむかうところだった。

 ――魔法使いになるために。
 ――そして、いつの日か、ヒーローになるために。

 ヒーロー。
 ヒーローになることは、この世界の子どもたちのあこがれだった。
 世界をよくすることを仕事にしている者たち。
 町を守ること、町を住みやすいところにしていく仕事。
 ヒーローは、
 
 

 マンションの下の空き地では、トージとエータが、まだかな、まだかなとマサのことを待っている。
 かれらも同じマンションにすんでいる。

 3階の廊下からひょいと顔をだしたマサは、ちらっとふたりをみたあと、空をみあげた。
 
「にじがでてるね!しかも2本!」
「マーちゃん!早くきて!なにしてるの?」

 エータは3階にいるマサをにらんだあと、クツの先でアスファルトの道をかるくけっとばした。
 頭から、いかりのケムリがポッポーとでてきそうなエータの両ほほには、猫にひっかかれたキズが、きえずにのこっている。
 猫をおいかけて、車の下にもぐりこんだときにつけられてしまったのだ。

 きったばかりのエータのかみは、しばふのように短くて、なでるとシャリシャリといい音がする。
 エータの体はほっそりしていて、身長はマサより少し低い。

「マーちゃん、また、ゆめみたいなこと考えてた?」
 
 そういったトージのからだは、つきたてのおもちのようで、すこしふっくらとしている。
 前がみがすこし長めの、キノコのようなヘアスタイルだった。
 身長はマサよりすこし大きい。
 はなは、まるっこくて、つぶらなひとみをしている。
 顔にやさしさがにじみでている。

「2本のにじがでてるじゃん?あれ、線路みたいだよね?あのうえを汽車が走ってるんだ!にじ色のケムリをモクモク、ポッポーとだしながら」

 マサは、顔をぐいっとだして、もっとよく空をみようとした。

「せーんろは、つづくーよ、どーこまーでーもー。おれをつれていってくれー。すてきな未来へー」

 マサは空にむけた手をおもいきりひろげた。
 心のなかで、にじ色のゆめがはじけとんだ。

 そして、マサの頭のなかに、イメージがひろがった。
 
 花がさくようにひろげた手のひらから、にじ色のひかりが花粉のように、そこらじゅうに飛びちっていく、そんなイメージが。
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