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4章 「RU⭐︎KA」
1月4日
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【1/4
今日の学校は決して居心地のいいものではなかった。午前中で学校が終わることの幸せを実感した。多分これが人間の本質であって、誰が悪いとか、誰が正しいとか言うものではないと思う。】
その日の学校は落ち着いた雰囲気を失っていた。授業中がその体を成してはいるものの、朝から異常なざわつきを見せていた。入学後、数えるほどしか姿を表さなかった月摘栞凪が登校している。しかも、殺人で騒がれたアイドルが。誰もが目をやり、噂せざるを得なかった。その視線の中、顔を落とすことなく廊下を歩く栞凪の姿は凛々しいものがあった。
俺の教室でも、栞凪の噂話が聞こえた。
「よく学校これたよね。」
「居場所ないんでしょ。アイドルはもうやれないし。家族もいないんじゃない?」
「もうあの乳でも仕事もらえないか。キャハハハ」
「揉んでもらう相手もいなくなって、学校に探しにきたんでしょ。」
耳を塞ぎたくなるが、止めることもできなかった。
(今やめさせても、この手の噂は絶えない。簡単な注意ではなく、意識をひっくり返すくらいの出来事を起こさないと…。)
「傷心の今、俺が優しくしたら付き合えるか?」
「やめとけって、刺されるぞ。」
「刺されてもルカの胸とヤレるって思えば良くね?」
「バーカ。どれだけ傷心しててもお前は相手にされねえよ。」
クラスメイトにうんざりしながら机に突っ伏した。
(あと1時間の辛抱だ。)
最後の新城先生の数学の授業を受け、帰りの準備をする。涼香と真季が廊下に見えた。一緒に帰るつもりだろうか、と考えていると優太が準備を急かしに来た。
「遥希、早く行くぞ。」
「何焦ってんだよ。」
「早く出ないと、手が出そうで…。」
「出していいんじゃねぇの。」
優太は実はクラス人気がそこそこ高い。優太にフラれた女の子の話も聞いたことがあった。優太が誰かを殴って、悪口をやめさせるのも手段の一つかもしれない。
「いいから早くしろよ。栞凪も連れて、作戦会議だ。」
「わかったよ。ルカと一緒に帰ってるとことか見られたら、お前も何噂されるかわかったもんじゃないぞ。」
「付き合ってるって噂されるのか?それは望むところだ。」
「そういやお前はそんな奴だったよ…。涼香と真季も連れてくぞ。カモフラージュになるだろうし、涼香も事件見てるから。」
「え、何?俺に黙って正月からハーレムしてたの?」
「涼香と2人で行ったんだよ。」
「はぁああーーー。やることやってんなぁ。付き合ってもない美少女と。」
「誤解があるし、語弊があることを言うボリュームじゃない。ほら、帰るぞ。」
優太、栞凪、涼香、真季を連れて下校した。
「あぁ。こんな美少女3人に囲まれて下校なんて、青春だなぁ。」
「遥希くん、心込めて言って?しかもそれいつも言ってるの?」
「遥希、ファミレスで飯食うか。」
「いいけど、目立つんじゃないのか?」
「ねぇ、遥希はいつの間にルカと一緒に帰る仲になったの?」
「あぁと、昨日かな。てか、まだほとんど喋ってないぞ。優太が無理に俺をお供にするんだ。2人は幼馴染らしい。」
「よかった…。栞凪ちゃんじゃ、勝ち目ないし…。」
「でも涼香の良さは形だよ。手に吸い付くし、いr…。」
「真季!」
涼香と真季の小さな喧嘩を聴きながら、栞凪を観察していた。先頭を優太と歩く。特に談笑する事もなく。幼馴染の雰囲気をところどころに感じてきたが、特別仲がいいという感じもなかった。すると、栞凪はカバンからメガネを取り出し、ファミレスに入っていく。
「見事に気づかれてないな。」
「ファミレスに入ってくる客に、みんなあまり興味持たないのよ。ちょっと姿変えればバレないの。」
「さぁ、それじゃ作戦会議を始めるぞ。」
「え、私とりあえず付いてきたけど、何が始まるの?」
「栞凪のイメージ戦略。真犯人を見つけて、栞凪のイメージを上げて、またアイドルで活躍できるようにする。」
「優太はこう言ってるけど、そもそも月摘さんはアイドルを続けたいのか?これからは今日みたいな言葉にさらされる日々の積み重ねだと思う。元アイドルの女子高生に戻るチャンスでもあると、自分は思ってるけど。」
「それは私もそう思う。でも、私はまだアイドルを続けたい。まだ胸を張れるアイドルになってない。嫌われても、石を投げられても、私の姿が人の生きる意味になる限り、私は前を向く。」
目を真っ直ぐに見つめてきて、栞凪は思いの丈を口にした。その言葉に、4人は顔を見合わせ、会議に入る意思を確認した。栞凪に絡む糸の端緒が見えた。
「じゃあまず真犯人だが、RU⭐︎KAのファンで、匂いを扱う催眠術師が今の所最有力だ。遥希、なんか情報あったか?」
「いや、俺からは何も見つかっていない。それっぽい催眠術師のサイトを見ても、この前のやつと顔が一致しない。」
「じゃあ、私はRU⭐︎KAのファンをSNSで探してみればいい?」
「真季、助かる。そっちに疎い奴しかいないからな。」
「私のSNSからじゃ見つからなかったから、私をフォローしていないアカウントから探してみて。」
「え、栞凪ちゃん、自分のSNS見たんですか…?」
「私のことだから。夏目さん、何か意外?」
「いや、今SNSを見たら多分、ひどい言葉が溢れてると思ったから。見るだけでもしんどいのに、探すまでしたんだ…って。」
「辛かったけど、立ち直るための手段だよ。私にしかできないことだし。」
(この人、どんな精神力してるんだ。ん…?)
「月摘さん、涼香の苗字知ってたのか?」
「ええ。同じクラスだし。」
(数えるほどしか学校に来てないのに、クラスメイトの名前を覚えてるもんなのか?天才か。)
「じゃあ、真犯人を見つけた後のイメージ戦略だな。」
「優太は何か案があるのか?」
「ないから会議を開いてるんだ。お、夏目さん。」
「はい。学校のステージでライブはどうですか。」
(涼香が思ったより会議ごっこにノリノリだな。)
「なるほど。先生に相談してみるか。栞凪、どうだ?」
「今のままじゃ、どれくらい見にくるか…。先生の許可が降りそうな雰囲気もないし。」
「そうだな。学校で浮いてるのは先生たちも気づいてるだろう。嫌がらせとかも起こってないから先生は干渉してこなかったが、悪口が出ている現状は察してるだろう。ライブする前に、何か一つ好感度を上げておかないと。」
「文化祭とかあればなぁ。」
「まずはクラスからでしょ。私や涼香と明日、教室で話さない?」
「いいけど、あなた達まで冷たい目で見られるようになるわよ。今日も私と帰ってるし…。何言われるか。」
「やっぱり人気アイドルは優しいな。でも今頼れるのは男じゃなくて女友達の私達だと思うよ?それに、涼香に何かあったら遥希が慰めるから。」
「遥希くん、抱きしめてね。」
「月摘さん、涼香を抱き締めるくらい仲良くしてやってくれ。」
「じゃあ、私のSNSサルベージは進めておくわ。まずは明日、私と涼香で月摘さんと絡んで、クラスでの居場所を広げていく作戦で。」
「栞凪って呼んで。涼香ちゃん、真季ちゃん。」
2人に微笑みかけた栞凪の顔に、少し涙目を見た。しかし、その一瞬後にはもうその雰囲気すらなく、気のせいだと思い、パフェのメニューを開く。その隣で涼香はメモを走らせていた。
(あれ、今から食うのか…)
【しかし、ひとまずルカの復帰に向けた作戦のスタートは決まった。まずはクラスから輪を広げていこう、といういい作戦だと思う。そして3人を支えるのが俺と優太の役目だ。前を向いて一生懸命になっている人間を助けたいと思うのも人間だろう。彼女の真っ直ぐさ、一生懸命さを学校のやつに、世界の人に伝えることができれば、変えられるかもしれない。】
今日の学校は決して居心地のいいものではなかった。午前中で学校が終わることの幸せを実感した。多分これが人間の本質であって、誰が悪いとか、誰が正しいとか言うものではないと思う。】
その日の学校は落ち着いた雰囲気を失っていた。授業中がその体を成してはいるものの、朝から異常なざわつきを見せていた。入学後、数えるほどしか姿を表さなかった月摘栞凪が登校している。しかも、殺人で騒がれたアイドルが。誰もが目をやり、噂せざるを得なかった。その視線の中、顔を落とすことなく廊下を歩く栞凪の姿は凛々しいものがあった。
俺の教室でも、栞凪の噂話が聞こえた。
「よく学校これたよね。」
「居場所ないんでしょ。アイドルはもうやれないし。家族もいないんじゃない?」
「もうあの乳でも仕事もらえないか。キャハハハ」
「揉んでもらう相手もいなくなって、学校に探しにきたんでしょ。」
耳を塞ぎたくなるが、止めることもできなかった。
(今やめさせても、この手の噂は絶えない。簡単な注意ではなく、意識をひっくり返すくらいの出来事を起こさないと…。)
「傷心の今、俺が優しくしたら付き合えるか?」
「やめとけって、刺されるぞ。」
「刺されてもルカの胸とヤレるって思えば良くね?」
「バーカ。どれだけ傷心しててもお前は相手にされねえよ。」
クラスメイトにうんざりしながら机に突っ伏した。
(あと1時間の辛抱だ。)
最後の新城先生の数学の授業を受け、帰りの準備をする。涼香と真季が廊下に見えた。一緒に帰るつもりだろうか、と考えていると優太が準備を急かしに来た。
「遥希、早く行くぞ。」
「何焦ってんだよ。」
「早く出ないと、手が出そうで…。」
「出していいんじゃねぇの。」
優太は実はクラス人気がそこそこ高い。優太にフラれた女の子の話も聞いたことがあった。優太が誰かを殴って、悪口をやめさせるのも手段の一つかもしれない。
「いいから早くしろよ。栞凪も連れて、作戦会議だ。」
「わかったよ。ルカと一緒に帰ってるとことか見られたら、お前も何噂されるかわかったもんじゃないぞ。」
「付き合ってるって噂されるのか?それは望むところだ。」
「そういやお前はそんな奴だったよ…。涼香と真季も連れてくぞ。カモフラージュになるだろうし、涼香も事件見てるから。」
「え、何?俺に黙って正月からハーレムしてたの?」
「涼香と2人で行ったんだよ。」
「はぁああーーー。やることやってんなぁ。付き合ってもない美少女と。」
「誤解があるし、語弊があることを言うボリュームじゃない。ほら、帰るぞ。」
優太、栞凪、涼香、真季を連れて下校した。
「あぁ。こんな美少女3人に囲まれて下校なんて、青春だなぁ。」
「遥希くん、心込めて言って?しかもそれいつも言ってるの?」
「遥希、ファミレスで飯食うか。」
「いいけど、目立つんじゃないのか?」
「ねぇ、遥希はいつの間にルカと一緒に帰る仲になったの?」
「あぁと、昨日かな。てか、まだほとんど喋ってないぞ。優太が無理に俺をお供にするんだ。2人は幼馴染らしい。」
「よかった…。栞凪ちゃんじゃ、勝ち目ないし…。」
「でも涼香の良さは形だよ。手に吸い付くし、いr…。」
「真季!」
涼香と真季の小さな喧嘩を聴きながら、栞凪を観察していた。先頭を優太と歩く。特に談笑する事もなく。幼馴染の雰囲気をところどころに感じてきたが、特別仲がいいという感じもなかった。すると、栞凪はカバンからメガネを取り出し、ファミレスに入っていく。
「見事に気づかれてないな。」
「ファミレスに入ってくる客に、みんなあまり興味持たないのよ。ちょっと姿変えればバレないの。」
「さぁ、それじゃ作戦会議を始めるぞ。」
「え、私とりあえず付いてきたけど、何が始まるの?」
「栞凪のイメージ戦略。真犯人を見つけて、栞凪のイメージを上げて、またアイドルで活躍できるようにする。」
「優太はこう言ってるけど、そもそも月摘さんはアイドルを続けたいのか?これからは今日みたいな言葉にさらされる日々の積み重ねだと思う。元アイドルの女子高生に戻るチャンスでもあると、自分は思ってるけど。」
「それは私もそう思う。でも、私はまだアイドルを続けたい。まだ胸を張れるアイドルになってない。嫌われても、石を投げられても、私の姿が人の生きる意味になる限り、私は前を向く。」
目を真っ直ぐに見つめてきて、栞凪は思いの丈を口にした。その言葉に、4人は顔を見合わせ、会議に入る意思を確認した。栞凪に絡む糸の端緒が見えた。
「じゃあまず真犯人だが、RU⭐︎KAのファンで、匂いを扱う催眠術師が今の所最有力だ。遥希、なんか情報あったか?」
「いや、俺からは何も見つかっていない。それっぽい催眠術師のサイトを見ても、この前のやつと顔が一致しない。」
「じゃあ、私はRU⭐︎KAのファンをSNSで探してみればいい?」
「真季、助かる。そっちに疎い奴しかいないからな。」
「私のSNSからじゃ見つからなかったから、私をフォローしていないアカウントから探してみて。」
「え、栞凪ちゃん、自分のSNS見たんですか…?」
「私のことだから。夏目さん、何か意外?」
「いや、今SNSを見たら多分、ひどい言葉が溢れてると思ったから。見るだけでもしんどいのに、探すまでしたんだ…って。」
「辛かったけど、立ち直るための手段だよ。私にしかできないことだし。」
(この人、どんな精神力してるんだ。ん…?)
「月摘さん、涼香の苗字知ってたのか?」
「ええ。同じクラスだし。」
(数えるほどしか学校に来てないのに、クラスメイトの名前を覚えてるもんなのか?天才か。)
「じゃあ、真犯人を見つけた後のイメージ戦略だな。」
「優太は何か案があるのか?」
「ないから会議を開いてるんだ。お、夏目さん。」
「はい。学校のステージでライブはどうですか。」
(涼香が思ったより会議ごっこにノリノリだな。)
「なるほど。先生に相談してみるか。栞凪、どうだ?」
「今のままじゃ、どれくらい見にくるか…。先生の許可が降りそうな雰囲気もないし。」
「そうだな。学校で浮いてるのは先生たちも気づいてるだろう。嫌がらせとかも起こってないから先生は干渉してこなかったが、悪口が出ている現状は察してるだろう。ライブする前に、何か一つ好感度を上げておかないと。」
「文化祭とかあればなぁ。」
「まずはクラスからでしょ。私や涼香と明日、教室で話さない?」
「いいけど、あなた達まで冷たい目で見られるようになるわよ。今日も私と帰ってるし…。何言われるか。」
「やっぱり人気アイドルは優しいな。でも今頼れるのは男じゃなくて女友達の私達だと思うよ?それに、涼香に何かあったら遥希が慰めるから。」
「遥希くん、抱きしめてね。」
「月摘さん、涼香を抱き締めるくらい仲良くしてやってくれ。」
「じゃあ、私のSNSサルベージは進めておくわ。まずは明日、私と涼香で月摘さんと絡んで、クラスでの居場所を広げていく作戦で。」
「栞凪って呼んで。涼香ちゃん、真季ちゃん。」
2人に微笑みかけた栞凪の顔に、少し涙目を見た。しかし、その一瞬後にはもうその雰囲気すらなく、気のせいだと思い、パフェのメニューを開く。その隣で涼香はメモを走らせていた。
(あれ、今から食うのか…)
【しかし、ひとまずルカの復帰に向けた作戦のスタートは決まった。まずはクラスから輪を広げていこう、といういい作戦だと思う。そして3人を支えるのが俺と優太の役目だ。前を向いて一生懸命になっている人間を助けたいと思うのも人間だろう。彼女の真っ直ぐさ、一生懸命さを学校のやつに、世界の人に伝えることができれば、変えられるかもしれない。】
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