幸せの日記

Yuki

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2章 「小川 真季」

12月24日②

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「見つけた。」
 遺体に絡んでいる糸をたどり、犯人を見つけた。リュックをからった青年。同い年くらいだろうか。
「真季、あのリュックの男の感情は?」
「え、?あの人も喜ぶになってる。」
「涼香、あの人が遺体を見る視線は?」
「え、えぇと、軽蔑…?みたいな色。遥希くんに見えるようになったこと言ったっけ?」
「ファミレスの時ちょっと言ってた。何か見えるようになったのかなって思ってた。涼香のその能力の話はまた聞かせてくれ。それより、」
 現場を去ろうとしている青年を目で追う。
(犯人は現場に戻るってやつか?首から出た血の量は少ないし、胴体が無いということは、殺して時間が経ってる上に現場はここじゃない。証拠を持ってる可能性は低いな。)
「あんな目立つ置き方をして、半日も首があったとは考えにくい。あの遺体は人目がつくこの公園のど真ん中に白昼堂々置かれたことになる。」
「警察がそろそろくると思うんだけど、遥希、犯人ってあの人なの?」
「わかんねぇ。ただ、捜査みたいに言うなら重要参考人だ。それでも疑問が多すぎる。なぜ首だけなのか、なぜ深夜じゃなくこの時間に置いたのか。」
「ねぇ、なんで人が死んでるのにみんな喜んでるの…?」
 真季が身を縮こまらせて聞いてくる。
「近所の迷惑野郎だったんじゃないか?騒音とかひどいマナー違反とかあったんだろ。まぁ、それでも死んで喜ばれてもいい人間なんて認めないけど。」
「この空気感、気持ち悪い…。」
「俺らはこの人たちがどれほど迷惑したかを知らない。ひょっとしたら、この人たちの知り合いを殺したようなやつかもしれない。そんな奴が死んでいるのを見てホッとするくらい普通の人間の心理だよ。胸糞は悪いけど…。」
 言いながら気づいた。警察が来る気配がない。
「近くに交番あったよな。警官の1人くらい来て現場保存するのが自然じゃないのか。」
「まさか、誰も警察を…。」
「それはないよ。さっき、第一発見者の人が連絡するって言ってたから。」
 近くで話が聞こえたのだろう、サラリーマン風の男性が教えてくれる。
「それはどの人ですか?」
 失礼と思いつつ、食い気味に聞いてしまった。
「あ、あぁ、あの人だよ。」
 男性が指さしたのはリュックの男だった。
「待ってください!!」
 大声でリュックの男を呼び止める。
「携帯の通話履歴見せてもらってもよろしいですか?どの署に通報されました?」
「どのって、110だよ。」
「何分くらい経ちました?」
「10分くらいかな?」
「この近くの交番まで歩いて15分くらいですよね。パトカーならすぐ着く。警察も来てないのになんで帰ろうとしてるんですか?」
「用事があるんだ。通報者は残る義務があるけど、急用くらい行ってもいいだろ?」
「急用?証拠隠滅とか?」
「は?」
 リュックの男の表情が変わる。
「この事件は快楽殺人じゃない。そこまでわかれば、首1つだけ置いたことも意味がある。目立つところに目立つ時間に死体を置くのは大勢の人間に知らせることくらいしか意味がない。この遺体の人物が亡くなったことを知らせるため、とか。連続殺人なら、死体を見て反応が変わる人間を見つけてそいつをターゲットにする、みたいな手段だ。」
「お前、探偵気取りか?」
「探偵とは程遠いですよ。証拠を集める力もなければ、知識も足りない。でも犯人の見当はつくんです。犯人が分かれば、必要な情報は限られてくる。首ひとつになっている謎から犯人に迫ろうとすれば手間はかかるが、犯人が分かれば、首ひとつになっている理由も見当がつく。」
「勘で人を犯人呼ばわりするのか。」
「勘よりは当たると思いますよ。例えば…。義賊のつもりですか?」
 リュック男の眉が動く。
「差し当たり、近所でも有名な迷惑野郎を排除し、晒し首にして地域の英雄気取りってところ?多分捕まることも恐れていない。ただ、もう1人くらい殺したい人間がいるから通報を遅らせて、今夜実行しようとしているとかですかね。」
 リュック男の目が見開かれていく。図星なのは明らかだった。
「義賊のつもりでした犯行だし、捕まることも前提だ。証拠も多分いくらでもある。ターゲットの2人が殺せさえすれば本望なんだろ。」
「チッ…。」
 男は舌打ちをし、ポケットに手を入れる。ナイフでも取り出すのかと身構えた時、後ろから男の声がした。
「あららぁ~。それは良くないなぁ。」
 先程の通報者を教えてくれたサラリーマンだった。次の瞬間、視界が闇に包まれた。
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