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1章 「夏目涼香」
12月17日
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【12/17
昨日に引き続き生き返った謎に近づいた。にも関わらず謎は増え続けるだけだ。俺にも能力が備わったらしい。なんの能力かはわからない。とにかく、涼香への返事を考えなければならない。】
髙野 遥希は友 明学園に通う高校2年生。SCCコーポレーションの経営する孤児院で育ち、中学卒業から同社の持ち物であるマンションにて一人暮らしをしている。金銭面以外での一人暮らしを経験させる孤児院の方針である。つまり、マンションには同じ孤児院出身の学生で溢れている。
今日もそのマンションから登校し、考え事をしながら授業をやり過ごし、友達と他愛無い話をして下校しようと教室を出るところだった。クラスの前が少し騒がしい。どうやら同じ学年の夏 目 涼 香に注目しているらしい。涼香は緊張した面持ちで呼び止めてきた。
「は、遥希くん、、、」
「え、俺?」
なにが起こるのかは大体予想できていた。普通なら嬉しいところなのだが、この場所、この時間、この空気感である。自分ではないことを願って教室を出るところだった。
(こんなことなら教室で勉強してでも人が減るのを待つべきだったか。)
普段学校で勉強する習慣のないため、先にその発想が出ることはなかった。そんなことを考えてももう遅い。
「そ、その、、、遥希くん気づいてると思うけど…。」
涼香とは幼稚園からの知り合いである。涼香の言動は幼馴染ならではの距離感だと思ったり、もしかしたら好きなのかもと思ったりくらいのものだった。好かれているかなんて言われるまでわからない。
「ずっと…ずっと好きでした。小学生のときから…憧れで、、、」
(思ったより前だな。)
「そ、その…来週クリスマスだし…」
そのとき涼香が後ろ手に持っている手紙が見えた。
(これを書いてるところとかを見つかってこんなにギャラリーがいるのか。そういえば前から俺ら冷やかされてたな…。教室出る前に気づけよ、俺。)
「私と付き合ってください!」
いろいろな考えが浮かんだ。思考がぐるぐるする。
(涼香のことは友達として好きだ。葵と出会ってなければ付き合っていたかもしれない)
(断ったらこの手紙引っ込めるんだろうな。気持ち込めて書いた手紙だぞ。無駄にはできない。)
(この人数の前で断れないだろ。まさか…ここまでが計算…)
(涼香はそんな駆け引きみたいな計算しない。天然でこの状況を作り上げ、人を惹きつけるのが涼香の魅力…)
証明の場合分けのように、様々な分岐を想像する。しかし、その考えを吹き飛ばす光景が視界に映る。
(これは…糸?)
糸が涼香に絡まっているように見えた。ついさっきまで無かったことからも、何かが起こっている。周囲の様子を見ると自分だけに見えているようだった。
(これは…何か関係があるのか。)
「涼香、俺にとっても涼香は大切な存在だ。これからも。落ち着いて考えさせて欲しいんだ。よかったらその手紙も読ませて。明日、涼香の気持ちに答える。」
涼香は不安そうな表情を少し浮かべ、頷いた。手紙を受け取ると涼香は走って廊下から姿を消した。
「おい!やったな遥希!」
クラスメイトの優太が肩を寄せる。涼香は男子人気が高かった。大人しい性格ながらも自分の意見は口にできる。ショートカットで笑う姿からは朗らかさもあった。好きになる理由はいくらでもあった。
「1人で考えたいんだ。今日はもう帰るな。優太、また明日。」
「期待してるぜ。」
その期待に応えられるのかと思いつつ、下校する。目的地は葵のもと。
「遥希、どうしたの?」
「人に絡まる糸が見えるようになったんだ。これが俺の生きる理由か?」
「さすが、勘がいいね。どんな能力なの?」
「な、葵が知ってるんじゃないのか。」
「私は知らないよ。昨日言ったのは、能力に目覚めるだろうからその力で私も含めて人の役に立って欲しいなって。」
「葵にも絡まっていることもわからないのか。」
「私にも?解けそう?」
糸を掴もうとする手が通り抜ける。
「無理だな。触れない。これを解くのが俺の役目ってことか?」
「そうなんじゃない?遥希こういうの好きでしょ。論理パズルみたいな。」
「全然違うだろ…。どうするんだよ。」
「さあ?最初は誰に見えたの?」
「…。友達。」
(しまった。なんの嘘だ。今の間はなんだ。)
「へぇ~。なにその浮気を隠すみたいな反応。」
「告白されたんだよ。幼馴染に」
「へぇ~。返事は?」
「明日するつって。これ尋問?」
「人の気持ちに気付いててそれを言わせるの、悪い癖だよ。」
「俺、女心嫌いだわ…」
「来週クリスマスだしデートでもしてきたら?」
「…胃が痛くなってきた。」
お腹を押さえ、自分の部屋へ入っていく。もう7時。葵が帰るのを待ってる時間が無駄だった。手紙読んだり、晩飯の準備とかしとけばよかった。
涼香からの手紙を読もうとしたとき携帯がなった。メッセージだ。
(涼香からだ。…どうしたんだ?)
「今日はいきなりごめんね。でも、もう居てもたってもいられなくて…。遥希くんがどっちを選んでも、前みたいに仲良しでいれたらいいな。」
手紙を読んだ後と思ってメールしたのかもしれない。そう思うと罪悪感が芽生えた。生き返った謎や能力のことばかりで涼香の気持ちを後回しにしていたことに。
しかしこの後、遥希を襲う罪悪感は増す。居ても立っても居られないのは俺の方だと思いながら日記を綴り、晩ごはんを流し込む。寝れるか不安だった。早く明日になって欲しかった。無事に明日を迎えられるか心配だった。
【涼香に告白されることは心の底で予期していたのかもしれない。しかし、その返事の重みはメッセージの後にきた涼香の自撮りによって跳ね上がった。この違和感はたぶん間違いない。これじゃ付き合うことも断ることも簡単じゃない。涼香は大切な友達だ。俺が助けなきゃいけない。明日を無事に迎えることができますように。】
昨日に引き続き生き返った謎に近づいた。にも関わらず謎は増え続けるだけだ。俺にも能力が備わったらしい。なんの能力かはわからない。とにかく、涼香への返事を考えなければならない。】
髙野 遥希は友 明学園に通う高校2年生。SCCコーポレーションの経営する孤児院で育ち、中学卒業から同社の持ち物であるマンションにて一人暮らしをしている。金銭面以外での一人暮らしを経験させる孤児院の方針である。つまり、マンションには同じ孤児院出身の学生で溢れている。
今日もそのマンションから登校し、考え事をしながら授業をやり過ごし、友達と他愛無い話をして下校しようと教室を出るところだった。クラスの前が少し騒がしい。どうやら同じ学年の夏 目 涼 香に注目しているらしい。涼香は緊張した面持ちで呼び止めてきた。
「は、遥希くん、、、」
「え、俺?」
なにが起こるのかは大体予想できていた。普通なら嬉しいところなのだが、この場所、この時間、この空気感である。自分ではないことを願って教室を出るところだった。
(こんなことなら教室で勉強してでも人が減るのを待つべきだったか。)
普段学校で勉強する習慣のないため、先にその発想が出ることはなかった。そんなことを考えてももう遅い。
「そ、その、、、遥希くん気づいてると思うけど…。」
涼香とは幼稚園からの知り合いである。涼香の言動は幼馴染ならではの距離感だと思ったり、もしかしたら好きなのかもと思ったりくらいのものだった。好かれているかなんて言われるまでわからない。
「ずっと…ずっと好きでした。小学生のときから…憧れで、、、」
(思ったより前だな。)
「そ、その…来週クリスマスだし…」
そのとき涼香が後ろ手に持っている手紙が見えた。
(これを書いてるところとかを見つかってこんなにギャラリーがいるのか。そういえば前から俺ら冷やかされてたな…。教室出る前に気づけよ、俺。)
「私と付き合ってください!」
いろいろな考えが浮かんだ。思考がぐるぐるする。
(涼香のことは友達として好きだ。葵と出会ってなければ付き合っていたかもしれない)
(断ったらこの手紙引っ込めるんだろうな。気持ち込めて書いた手紙だぞ。無駄にはできない。)
(この人数の前で断れないだろ。まさか…ここまでが計算…)
(涼香はそんな駆け引きみたいな計算しない。天然でこの状況を作り上げ、人を惹きつけるのが涼香の魅力…)
証明の場合分けのように、様々な分岐を想像する。しかし、その考えを吹き飛ばす光景が視界に映る。
(これは…糸?)
糸が涼香に絡まっているように見えた。ついさっきまで無かったことからも、何かが起こっている。周囲の様子を見ると自分だけに見えているようだった。
(これは…何か関係があるのか。)
「涼香、俺にとっても涼香は大切な存在だ。これからも。落ち着いて考えさせて欲しいんだ。よかったらその手紙も読ませて。明日、涼香の気持ちに答える。」
涼香は不安そうな表情を少し浮かべ、頷いた。手紙を受け取ると涼香は走って廊下から姿を消した。
「おい!やったな遥希!」
クラスメイトの優太が肩を寄せる。涼香は男子人気が高かった。大人しい性格ながらも自分の意見は口にできる。ショートカットで笑う姿からは朗らかさもあった。好きになる理由はいくらでもあった。
「1人で考えたいんだ。今日はもう帰るな。優太、また明日。」
「期待してるぜ。」
その期待に応えられるのかと思いつつ、下校する。目的地は葵のもと。
「遥希、どうしたの?」
「人に絡まる糸が見えるようになったんだ。これが俺の生きる理由か?」
「さすが、勘がいいね。どんな能力なの?」
「な、葵が知ってるんじゃないのか。」
「私は知らないよ。昨日言ったのは、能力に目覚めるだろうからその力で私も含めて人の役に立って欲しいなって。」
「葵にも絡まっていることもわからないのか。」
「私にも?解けそう?」
糸を掴もうとする手が通り抜ける。
「無理だな。触れない。これを解くのが俺の役目ってことか?」
「そうなんじゃない?遥希こういうの好きでしょ。論理パズルみたいな。」
「全然違うだろ…。どうするんだよ。」
「さあ?最初は誰に見えたの?」
「…。友達。」
(しまった。なんの嘘だ。今の間はなんだ。)
「へぇ~。なにその浮気を隠すみたいな反応。」
「告白されたんだよ。幼馴染に」
「へぇ~。返事は?」
「明日するつって。これ尋問?」
「人の気持ちに気付いててそれを言わせるの、悪い癖だよ。」
「俺、女心嫌いだわ…」
「来週クリスマスだしデートでもしてきたら?」
「…胃が痛くなってきた。」
お腹を押さえ、自分の部屋へ入っていく。もう7時。葵が帰るのを待ってる時間が無駄だった。手紙読んだり、晩飯の準備とかしとけばよかった。
涼香からの手紙を読もうとしたとき携帯がなった。メッセージだ。
(涼香からだ。…どうしたんだ?)
「今日はいきなりごめんね。でも、もう居てもたってもいられなくて…。遥希くんがどっちを選んでも、前みたいに仲良しでいれたらいいな。」
手紙を読んだ後と思ってメールしたのかもしれない。そう思うと罪悪感が芽生えた。生き返った謎や能力のことばかりで涼香の気持ちを後回しにしていたことに。
しかしこの後、遥希を襲う罪悪感は増す。居ても立っても居られないのは俺の方だと思いながら日記を綴り、晩ごはんを流し込む。寝れるか不安だった。早く明日になって欲しかった。無事に明日を迎えられるか心配だった。
【涼香に告白されることは心の底で予期していたのかもしれない。しかし、その返事の重みはメッセージの後にきた涼香の自撮りによって跳ね上がった。この違和感はたぶん間違いない。これじゃ付き合うことも断ることも簡単じゃない。涼香は大切な友達だ。俺が助けなきゃいけない。明日を無事に迎えることができますように。】
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