上 下
42 / 43
1章

第30話 お着換えの旅は終わらない!(前編)

しおりを挟む
 三人で瑠々ちゃんとフルーチェさんを探してお城の中を駆ける。
 赤い絨毯じゅうたんに沿って進んでいくと、やがて行き止まりの部屋にたどり着いた。

「ここは……」

ミーちゃんが息を呑んだ。
 扉の造りが明らかに他とはちがう――玉座の間だ。
 扉は半開きになっている。

「――やっ! はぁっ!」

 中から声が聞こえた。
 瑠々ちゃんの声だ!

「瑠々ちゃん!」

 急いで中に駆け込むと、やっぱり瑠々ちゃんがフルーチェさんと戦っていた。

「せ、聖女様……?」
「な、なんなのその格好は……?」

 ふたりはわたしを見て固まった。

「……へ?」

「クーちゃん、触手触手」
「あ」

 ミーちゃんから言われて気が付いた。
 そうだ、触手さんに『お着換え』してるんだった。

「あのね、これは触手さんなの! ほら、『パラパラ』だって踊れるんだよ!」

 ノリノリの『パラパラ』を披露してみせる。
 もう慣れたもので、これならどこのパリピに見せても恥ずかしくない出来だと思う。
 
「…………」
「…………」

 それなのに、ふたりの顔はひきつっていた。

「……あれぇ?」

 瑠々ちゃんなんか困惑してキツネさんのお耳をぴょこぴょこさせてしまっている。

「…………」

 ……かわいい。

「――きゃあっ!?」

 ニュルンッ! と触手さんが瑠々ちゃんに巻き付いてしまった。

「あ」

 しまった。

「せ、聖女様っ!? ど、どうして瑠々をっ!?」
「あ、あはは……」ポリポリと頬を搔く。「ご、ごめんね、なんでだろ、急に瑠々ちゃんを襲いたくなっちゃって……今ほどくからちょっと待ってね」
「きゃっ!? ちょっ! あっ……んっ……!」

 瑠々ちゃんが身をよじらせる。
 わたしの触手さんは意に反してくすぐったり撫でたりしまくっていた。

「こら触手さん! めっ! でしょ!」

 ニュルンニュルン!

 わたしが怒っても触手さんは止まらない。
 遂に忍者のお洋服の中にまで入り込んでしまった。
 瑠々ちゃんが天をあおぐ。

「ふああっ!!!」
「瑠々ちゃーん!」

「――フン」

 ドン! とフルーチェさんは触手さんをヒールで踏んづけた。

「かわいいあなたにそんな服は似合わないわ、ククリル」
「わっ!?」

 触手さんはみるみる灰色になってボロボロと崩れ落ちてゆく。

「はぁっ……はぁっ……」

 瑠々ちゃんに巻き付いた触手さんも崩れていき、瑠々ちゃんは膝をついて涙をぬぐった。

「はわ……はわわ……!」

 もちろんわたしに巻き付いた触手さんも崩れていく。
 でもそうなるとまたわたしは裸だ。
 あわててお胸とお股を隠す。

「も、もう! なにするのフルーチェさん! お股見えちゃうでしょ!?」
「大丈夫よククリル……今ドレスを着させてあげるから……」
「え?」
「このドレスを着れば、あなたは永遠の美しさを手に入れられるの……」

 フルーチェさんがゆっくりと歩み寄る。
 ズズ……と、その手の中に漆黒のドレスが浮かび上がった。
 温泉の源泉でもらったものとはまたちがう、たくさんの漆黒のバラがあしらわれたウエディングドレスだ。

「カ……カッコかわいい……」
「さあククリル……これを着て永遠を誓いなさい……」
「…………」

 思わずバンザイしてしまう。
 これでは「着させて」と言っているようなものだ。

「……あ、れ?」
「フフ……」

 フルーチェさんは口の端をわずかに上げて、わたしに袖を通させようと――

 ――バシッ!

「あ」

 漆黒のウエディングドレスは床に落ち、闇に消えてしまった。
 それと同時にわたしの体は自由を取り戻す。

「…………」

 フルーチェさんはゆっくりと振り返り、ベルちゃんをにらみつけた。
 ベルちゃんが魔法でドレスを弾き飛ばしたのだ。

「惑わされてはいけませんわお姉さま! もう一撃、喰らいなさいな!」

 ベルちゃんが魔法を放った。
 見たことがないくらいの凝縮した魔力だ。

「フン」

 それなのにフルーチェさんは軽く魔法を弾き飛ばしてしまった。
 天井に直撃し、大きな穴が空く。

「くっ!」

 ベルちゃんが歯噛みする。
 天井に空いた穴からは日の光が差し込んだ。

「やっぱり、あなたたちから始末しないとダメなようね」

 コツ……コツ……コツ……コツ……。
 まるでモデルさんみたいに優雅に歩きだした。

「…………」
「…………」

 ミーちゃんとベルちゃんは緊張した面持ちで武器を構える。
 瑠々ちゃんもまた少し離れたところでお団子を構えた。

「さあ、ショータイムの始まりよ。私の・・ククリルに手を出す泥棒猫ども……永遠の闇に葬ってあげるわ!」

 ギン! と瞳が真紅に輝いた。

「うっ!?」
「なっ!?」

 ガラン、と音が響く。
 ミーちゃんとベルちゃんは握りしめていた武器を落としてしまった。
 まるで金縛りにあったみたいに不自然な姿勢で固まっている。

「動けないでしょおん? 動けないわよねぇ。どうせなら私の『人形』にしてあげてもいいんだけど……ククリルが目移りしても困るし……」

 一歩一歩、ゆっくりとふたりに近づく。

「はわ……はわわわわわ……!」

 わたしはといえば錯乱していた。

 みんなはピンチだしわたしはすっぽんぽんだ。
 すっぽんぽんはダメだ。
 またご家庭の健全な性教育を乱してしまう。
 もう、あんな恥ずかしい思いはしたくない……!

「なにか……なにか体を隠せるものは……!

「それじゃあさよなら」
「あっ!?」

 フルーチェさんはいつのまにかふたりの前に立って爪を振りかぶっていた。
 ふたりはやはり動けず、身をすくめる。

「ダメ! ダメダメダメッ!」

 こちらを見てニヤリと笑い、
 そして――

「だめええええええええっ!!!!!」

 ピカッ!

「…………は?」

フルーチェさんが目を丸くした。

「あ、あれ……?」

 わたしも目を丸くする。
 わたしはいつのまにか、フルーチェさんの腕をつかんでいた。

「なっ、なっ」

フルーチェさんは手を振りほどいて後ずさる。

「い、いったいなんなの!? そんなに速く動けるはずが――」

「え、あれ……?」
「クーちゃん、体! 体光ってるよ!」
「……え?」

 言われて自分の体を見る。
 一糸まとわぬわたしの体は、なぜか光り輝いていた。

(つづく)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子さま、側室さまがご懐妊です

家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。 愛する彼女を妃としたい王太子。 本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。 そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。 あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。

もういらないと言われたので隣国で聖女やります。

ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。 しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。 しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。

古書と滅びのヒストリア~史徒エル、禁書『大罪の黙示録』と出会う~

刹那いと
ファンタジー
 聖ヨハネウス十字教国の文書館――10歳になった主人公・エルは、国中の書物を正典、禁書認定する『検閲』任務に従事する、新米史徒(ヒストリア)だ。  そんなエルの初任務――エルは国を滅ぼす強大な魔力を秘めた禁書『大罪の黙示録』と出会う。 『大罪の黙示録』全編は、建国時に各編ごとに裁断され、国中に数多ある何処かの教会、修道院に隠されていた。  これはエルが、仲間と共に禁書『大罪の黙示録』をさがし集める冒険、禁書の魔力を狙う反十字教結社『ハコブネ』との戦いのなかで、成長していく物語である―― ※初連載です。ご感想等いただき、今後の作品に活かしてまいります(ᵕ̤ᴗᵕ̤) ※恋愛要素はありません。 ※ダークファンタジーですが、シリアスではありません。

兄のお嫁さんに嫌がらせをされるので、全てを暴露しようと思います

きんもくせい
恋愛
リルベール侯爵家に嫁いできた子爵令嬢、ナタリーは、最初は純朴そうな少女だった。積極的に雑事をこなし、兄と仲睦まじく話す彼女は、徐々に家族に受け入れられ、気に入られていく。しかし、主人公のソフィアに対しては冷たく、嫌がらせばかりをしてくる。初めは些細なものだったが、それらのいじめは日々悪化していき、痺れを切らしたソフィアは、両家の食事会で…… 10/1追記 ※本作品が中途半端な状態で完結表記になっているのは、本編自体が完結しているためです。 ありがたいことに、ソフィアのその後を見たいと言うお声をいただいたので、番外編という形で作品完結後も連載を続けさせて頂いております。紛らわしいことになってしまい申し訳ございません。 また、日々の感想や応援などの反応をくださったり、この作品に目を通してくれる皆様方、本当にありがとうございます。これからも作品を宜しくお願い致します。 きんもくせい

聖女にしろなんて誰が言った。もはや我慢の限界!私、逃げます!

猿喰 森繁
ファンタジー
幼いころから我慢を強いられてきた主人公。 異世界に連れてこられても我慢をしてきたが、ついに限界が来てしまった。 数年前から、国から出ていく算段をつけ、ついに国外逃亡。 国の未来と、主人公の未来は、どうなるのか!?

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

処理中です...