「服を脱いでください!」 服好きの月聖女はスキル【お着換え】を使い、魔王に汚染された世界でジョブチェンジしながら世界を浄化する

えくせる。

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1章

第18話 ブルマxスパッツ=??(後編)

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 ミーちゃんとベルちゃんは眉間にしわを寄せてなにやら険悪な雰囲気だ。
 と、水晶玉でレース展開を追っていた実況の声が拡声器を通して響いた。

『なんと! 先頭をゆくシャニルが唯一の通り道である橋を落としてしまいましたー!これでは後続も為すすべがありません。これでペナルティがないのはルール策定ミスではないですか町長?』
『はて? ここはどこ? ワシは誰?』

「……やっぱり、道はここしかないんだ」

 あらためて向こうの崖を見る。
 なんとか『お着換え』して飛び越えられるといいんだけど……。

「お姉さま、ここはわたくしが」

 ベルちゃんがわたしに向き直った。

「さ、わたくしのブルマをお脱がしください」
「いや、ここはスパッツでいこう」

 ミーちゃんもわたしに向き直った。

「スパッツの方が機動性は高いし、きっと跳躍力だって高まるよ」
「いいえミミさん、体操服といえばブルマと古来より決まっているのですわ。お姉さまには絶対にブルマを履いていただきますの」
「ダメだって。ブルマはもう廃れたんだから、そんなんじゃ『お着換え』しても力を発揮できないよ」
「そんなことありませんわ! ブルマこそが唯一にして至高の組み合わせですのよ!」
「だから時代は代わったんだって! 今はスパッツなの!」
「いいえブルマですわ!」
「スパッツ!」
「ブルマ!」
「スパッツ!」

「あわ……あわわわわわわわ……」

 ふたりはにらみ合い、今にも掴みかかってしまいそうだ。
 わたしのせいでケンカになっちゃうなんて……。
 そんなの……そんなの……。

「そんなの、わたしイヤだよ!」

 たまらず自分のハーフパンツを下ろした。

「「……えっ!?」」

 ふたりは目を白黒させている。
 下着姿なのもかまわず、ミーちゃんのスパッツとベルちゃんのブルマを脱がしてしまう。

「ちょわーっ!? な、なにするのクーちゃん!?」
「お、お姉さま!? あっ、ダメですわこんなところで!」
「いいから手を離して!」

 いやがるふたりをむりやり脱がしてパンツ姿にしてしまった。

「うぅ……」
「お、お姉さま……こういうことはふたりきりのときに……」

 ふたりは目をうるませてもじもじしている。
 これでわたしたち三人、上は体操着、下はパンツ姿だ。

「わ、わたしだって恥ずかしいよ! 恥ずかしいけど……! でもそれ以上にふたりにケンカしてほしくなかったの!」

「クーちゃん……」
「お姉さま……」
「だから……、こうします!」
 パンツの上にまずスパッツを履き、そのまた上にブルマを履く。

「じゃじゃ~ん! これでどう!? 名付けてブルッツ!」

「……ブルッツ?」

 ミーちゃんは上着を伸ばしてパンツを隠しながらきょとんとしている。
 ベルちゃんも同じ格好で苦笑いを浮かべている。

「お、お姉さま、重ねて履けばよいというものでは……」

『ブ、ブルッツじゃと!?』

 と、拡声器から声が響いた。

『町長、突然どうしましたか?』
『こ、これこそまさに温故知新! 古きを訪ね新しきを知る、夢にまで見た伝説の着こなしじゃあ! ああ……あの子は新しい時代を見せてくれた……ワシは……ワシは満足じゃあ…………』

「――むん!」

 助走の距離を取って向こう側にいるシャニルちゃんを見据える。
 シャニルちゃんはニヤニヤしている。
 飛べっこないと思ってるんだ。
 たしかにさっきまでのわたしなら飛べなかったけど、でも、今のブルッツを履いたわたしなら……!
 
「いきます! でやああああああっ!」

 全力で駆け出し

「とうっ!」

 走り幅跳びの要領でジャンプ!
 空中で手を上げ胸を張り、最後には脚を前に出してダン! と着地。

「――ふぅ!」

 額の汗をぬぐう。
 よかった、やっぱりできた!

「なっ、なっ!?」

 目の前でシャニルちゃんが驚愕に目を剥いていた。
 でもすぐに立ち直って。

「くっ!」

 ゴール目指して駆けていった。
 わたしも追いかけなくっちゃ!

「クーちゃん! 崖飛び越えたんだからスパッツ返して!」
「あ」

 振り返るとふたりはしゃがんで必死にパンツを隠していた。
 レースは中継されているし、恥ずかしいんだ。
 でも、今はそれどころじゃない。

「ごめん! あとで返すから!」

 きびすを返して駆け出した。
 ふたりの声が聞こえた気がしたけど致し方なし。
 せっかく飛び越えたのに、このままじゃ追いつけなくなっちゃう!

   *

 ボカーン! ボカボカーン!

 体操服に『お着換え』したことで強化された肉体を駆使して障害物を破壊しながら進む。
 シャニルちゃんは破壊せずいちいちクリアしているのにまだわたしは追いつくことができない。

「……シャニルちゃん」

 さすがだなぁと思う反面、すごくつらそうにも見えて心配になる。

「シャニルちゃん、それ以上がんばると……」
「うるさい! うるさいうるさいうるさい!」

 そして森を抜け、遂にレースは最後の直線へ。
 ゴールの向こうには実況さんと町長さんの姿も見える。

『さあ最終コーナーを曲がって最後の直線! 現在一番手はシャニル、だが少し疲れが見えるか!?』

「だ、誰が、疲れてるもんか……! アタイは……アタイは負けるわけにはいかないんだぁっ!」

 ドンッ!

 シャニルちゃんのスピードが増した。
 恐ろしい末脚だ。

『速い速い! 突き放すシャニル! リードを開いていくシャニル! このまま一気にちぎってしまうのか!?』

「勝つ! 勝つ勝つ勝つ勝つっ!」

「……シャニルちゃん」

 涙を流し、よだれを垂らしながら走っている。
 悲壮感すら漂う走り……なにがシャニルちゃんをそうさせるの?

「……でも」

 わたしだって、負けるわけにはいかない……。
 ムーンライトスティックがないと浄化ができない……。

 世直し旅だって、続けられない!

「ごめんシャニルちゃん! スキル【後方倒立回転跳び】!」

 ゴールに対して背を向ける。
 立ったまま後ろにジャンプして両手で手をつき両足で着地、それを繰り返して進んでいく!

「やああああああっ!」

 バッ! バッ! バッ! バッ!

「う、嘘だろ!?」

 追いついたシャニルちゃんは目を剥いた。

「ど、どうしてバク転で進んでそんなに速いんだよ!」
「わたしだって負けられない!」
「クソッ! クソクソクソッ!」

『最後に来た来た来た来た! 期待の新星ククリル! だがこの村の直線は短いぞ! どうですか町長!?』
『ブルッツ! ブルッツ! ブルッツ! ブルッツ!』

「はぁっ! はぁっ!」
「むうううううううっ……!」

 必死にスキル【後方倒立回転跳び】でゴールを目指す。
 熾烈なデッドヒートだ。

 そして――

『ゴール! 見事町長カップ、略してCカップを制したのはブルッツのククリルです! なんと最後にはバク転で加速するという離れ技をやってのけました!』
『よくやったぞいブルッツ! これは賞品じゃあ!』

「やったぁ!」

 涙と鼻水にまみれた町長さんからムーンライトスティックを渡されてピョンピョン跳ねる。

「ま、負けた……」

 シャニルちゃんは膝をついてがっくりとうなだれてしまった。

「シャニルちゃん……」

 わたしはそっと肩に手を置いた。

「そんなに落ち込まないで、わたしにもこの杖は必要なの……」
「いや、アタイはもうこんな大会に出るつもりはない……」
「どうしてそんなにムーンライトスティックが欲しかったの?」
「……母さんが、ヤミーに汚染されちまってさ、噂に聞く月の金色棒こんじきぼうならどうにかできるかもしれないと思って……」
「お母さんが、ヤミーに?」
「ああ……母さんが言うには吸血鬼みたいな女に出くわして、それで……」
「そっか、それであんなに必死になって……」
「だけど、アタイは負けた」

 ドサ、と仰向けに倒れ込むシャニルちゃん。

「脚には自信があったし、橋まで落として負けたんじゃ笑うしかない……。安心しな、もう盗みゃあしないよ」

 そう言うシャニルちゃんだったけど、次第に瞳がうるみ始めた。

「う……ううっ……!」

 腕で目を隠してシャニルちゃんは泣いている。

「…………」

 なら、わたしのやることはひとつだ。

「シャニルちゃん!」
「……え?」

 ドン、と胸を叩いた。

「このククリルに、お任せあれ!」

   *

 町外れにあるシャニルちゃんのおうちへと赴く。
 お母さんは苦しげに咳をして寝込んでいた。

「や、やっぱりいいよ……ヤミーを浄化するなんてできるわけないんだから……危ないし、やるならアタイがやるから……」
「ううん、大丈夫。見てて」

 ぜい、ぜい、と苦しげに息をしているお母さんの額にスティックを当てる。
 そして精神を集中し、スティックの先端に力を集めて……

「ムーンライト・セレナーデ!」

 パアアアアアアアッ……!

 まばゆい金色の光がお母さんを包み込んだ。

「……ん、んん……?」

 お母さんが目を覚ました。
 よかった、成功だ。

「か、母さん!?」
「……シャニル?」
「ああ! 母さん! 母さん!」

 ひし、と抱き合うふたり。

「よかった! もう目を覚まさないんじゃないかと思ってたんだ!」
「シャニル……」
「母さん! 母さん!」

 シャニルちゃんはお母さんの胸に顔をうずめて泣きじゃくっている。
 お母さんはやさしい笑みを浮かべてそんなシャニルちゃんの頭を撫でてあげている。

「…………」

 わたしはお母さんの顔も知らないから、ちょっとうらやましい。

「……あれ? でも、なにか忘れてるような……」

 ――一方その頃、崖向こうに取り残されたミミとベルンミルフィユは……

「ク、クーちゃあああん……」
「お、お姉さまぁあああ……」

 体操服とパンツという格好で、まだククリルの帰りを待っているのだった。

(つづく)
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