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「王室からの招待状が届いたのだから行くに決まっているでしょう? 私たちは臣下なのよ? ブライアンだって、もし戦争が起きて召集されたら馳せ参じるんでしょ!」

 最初から断る選択肢なんてないけれど、ブライアンに揶揄われるとついムキになってしまう。

「戦争とお茶会を一緒にすんなよ!」
「一緒よ。お茶会は女の戦場よ!」

 ブライアンが頭を掻きむしりながらチッと舌打ちするのが聞こえる。

「じゃじゃ馬のミンディが王室のお茶会なんて行って、恥をかかないか幼馴染として心配してやってんのに!」

「ただの幼馴染なのに心配いただきありがとう!」

 『幼馴染』

 今までお互いに何度も発したその単語は鎖の様に私たちの関係をがんじがらめにする。
 一歩進もうと思ってもその鎖に絡まって動くことができない。

 私は深呼吸をして、ブライアンに向き合う。

「ねぇ、ブライアン。……本当に幼馴染として私の心配をしているの?」
「あぁ」

 即答したブライアンは苦々しい表情を浮かべている。

 ベリンダや周りの友達は、私とブライアンをくっつけようしてくれるけど。
 ……やっぱりブライアンは私に対してそんな気がない様にしか見えない。

「……じゃあ、ブライアンの忠告を聞いてお淑やかに振る舞って、王太子殿下に見染められてくるわ」
「…………っ! 恥をかかないか心配してやってるだけだ。王太子殿下がミンディなんかを見染める事なんてない」
「そんなことわからないじゃない!」

 私はベリンダみたいに可憐でもないし、王太子殿下の元婚約者候補のご令嬢達に比べたらパッとしない。
 そんな事私だってわかっているけれど、ブライアンの『ミンディなんか』という言葉は『誰も私のことを女として見るわけがない』って言っている様に聞こえる。

 誰も……ブライアンも私のことを女として見ていない。

 その事実に胸がズキズキと傷む。

 私の苦しい気持ちには気がついていないブライアンはバカにした様な視線を私に落とすと鼻を鳴らす。

「王太子殿下は『男として不能』だってもっぱらの噂だぜ。王太子妃になりたいなら王太子殿下じゃなくて偉そうな王室のジジイ達に愛想を振りまいておくんだな」
「ちょっと! 何言ってるの王太子殿下に失礼よ! 聞こえたらどうする気? 私だけじゃなくて王太子殿下のことも揶揄うなんて不敬罪に問われるわよ!」
「ふんっ。ムキになって庇って。お前も王子様に憧れてるのか? 見た目にキャーキャー騒いでるお前は知らないだろうけど、信憑性のある噂だよ。残念だったな」

 そりゃ王太子殿下は見目麗しくて、絵本の王子様みたいだから、王立学園アカデミーの廊下ですれ違ったりすれば友達とみんなで騒ぐことはある。でも、それは恋とかそういう気持ちじゃない。

 だって私はずっとブライアンが好きなのだもの……

「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 本当に王太子殿下に見染められても知らないんだから!」

 私の気持ちも知らずに揶揄ってばかりのブライアンについ心にもない事を言うと、私はその場から逃げ出してしまった。
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