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第五部
191 エレナ、殿下と王立学園に通う
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午前中の講義は緊張感が漂うものだった。
ときおりわたしに向かって優しい微笑みを向けてくれるものの、基本的に殿下の視線は品定めするように先生や生徒達に向けられていた。
そうよね。
ここにいる男子生徒たちのほとんどは武官や文官として王宮に出仕する。
優秀な人間は政敵に奪われる前に今のうちから囲っておきたい思惑を殿下はお持ちのはず。
この教室にいる中にご自身ののお目にかなう人物がいるのか見極めようとしていて、特に男子生徒たちを見る目は厳しい。
男子生徒達がこちらの様子を窺うような視線を送るたび殿下は睨みを利かせていた。
やっと講義の合間の休憩時間になる。
「私がエレナと共に王立学園で過ごせるのはあと半年ほどだと言うのに、こんなところにエレナを預けなくてはいけないのか。講義の質は悪く、生徒達も講義を集中して聞いていない」
講義の最中ずっと険しい顔で周りを品定めしていた殿下は眉間をもみほぐしながらため息をついた。
冷ややかな声に冷ややかな視線。
生徒達は萎縮している。
残念ながら殿下のお目にかなう人はいなかったみたいだけど……
「殿下。まだ彼らを見限るのは早いわ。深く付き合ってみてからじゃないとわからないことも沢山あると思うのです」
「深く付き合う? 誰と」
殿下はわたしにも冷ややかな視線を向けた。ドクンと心臓が跳ねる。
いくら好きだと言ってくれていても、イケメンの冷たい目は整いすぎて怖い。背中に嫌な汗が流れるのを感じるけれど、怯えちゃいけない。
殿下は噂を覆すとおっしゃっていた。
殿下は市井で「無能で感情がなく、人の気持ちがわからない」なんて酷い噂を立てられている。
本当は有能だし、感情を表に出すのが少し下手なだけで、人の気持ちに配慮を持って接することが出来るってことをわたしもみんなに伝えたい。
このままじゃ殿下が有能なのは伝わったとしても、人の気持ちがわからないと勘違いされちゃうわ。
「殿下の腹心の部下足りうる人物をお探しなのでしょう? たった一回授業中の態度を見ただけで判断されたりしてはいけないわ。殿下が急にいらしたのだものきっと緊張していたのよ? 人の資質を判断するのであればもっと深く付き合ってからではないと何もわからないはずです。だってお兄様は王立学園にいる姿だけだと誰にでも優しい繊細な優等生に見えますけど、本当は神経が図太くて腹黒いでしょう? みんな外に見せる顔と深く付き合ってから見せる中身は違います。もう少し待ってそれで判断されても遅くないはずです」
納得のいってなさそうな殿下の顔に、わたしは納得がいかない。
王立学園で同じ講義を受講する生徒達は最初の頃みたいにエレナを馬鹿にしたような態度をとることはない。
そりゃ相変わらずこのクラスで表立って仲良くしてくれるのはスピカさんくらいだけど。
それは、そもそもわたしがあまり王立学園にきていないのも原因の一つだ。
いまは顔を合わせれば挨拶してくれるし、こちらから話しかければ話をしてくれる。
話せば、しっかりとした礼儀正しい人たちばかりだ。
特に騎士を目指す生徒達は差し入れ効果か、わたしが話しかけると忠誠を誓うかのごとく一言も聞き逃すまいと真剣な眼差しで話を聞いてくれる。
きっと付き合いが深くなれば殿下のお目にかなう人物だって出てくるはず。
「それに講義の質は殿下の指摘を受けて改善するはずですもの。今のように授業を受けていないわたしのようなものでも試験で満点が取れるような内容ではなく、これからはもっと難易度が上がって授業に集中しないと試験に通らないような内容になるはずです。集中力を見るのはそれからでも遅くありません」
「……エレナは私の心配をわかってくれないのだな」
周りの視線を浴びながら、殿下は再びため息をついた。わたしは殿下の手を取る。
「わかっております。殿下の国を思い憂う心は尊きものですが、前途ある若者をもっと信じてあげなくてはいけないわ。次の授業は女子生徒達は作法の授業なのでわたしは移動しますけど、殿下は引き続き王宮の役人として役立ちそうな人物がいるか、皆さんと交流を深めてださいませね」
わたしは殿下の手をギュッと強く握ってから離す。
スピカさんを連れて講堂から出ていく時に殿下が「やっぱり何もわかってない……」と呟くのが聞こえたけれど……
わかってないのは殿下だわ。
わたしは行儀が悪いと思いながら、唇を尖らせた。
ときおりわたしに向かって優しい微笑みを向けてくれるものの、基本的に殿下の視線は品定めするように先生や生徒達に向けられていた。
そうよね。
ここにいる男子生徒たちのほとんどは武官や文官として王宮に出仕する。
優秀な人間は政敵に奪われる前に今のうちから囲っておきたい思惑を殿下はお持ちのはず。
この教室にいる中にご自身ののお目にかなう人物がいるのか見極めようとしていて、特に男子生徒たちを見る目は厳しい。
男子生徒達がこちらの様子を窺うような視線を送るたび殿下は睨みを利かせていた。
やっと講義の合間の休憩時間になる。
「私がエレナと共に王立学園で過ごせるのはあと半年ほどだと言うのに、こんなところにエレナを預けなくてはいけないのか。講義の質は悪く、生徒達も講義を集中して聞いていない」
講義の最中ずっと険しい顔で周りを品定めしていた殿下は眉間をもみほぐしながらため息をついた。
冷ややかな声に冷ややかな視線。
生徒達は萎縮している。
残念ながら殿下のお目にかなう人はいなかったみたいだけど……
「殿下。まだ彼らを見限るのは早いわ。深く付き合ってみてからじゃないとわからないことも沢山あると思うのです」
「深く付き合う? 誰と」
殿下はわたしにも冷ややかな視線を向けた。ドクンと心臓が跳ねる。
いくら好きだと言ってくれていても、イケメンの冷たい目は整いすぎて怖い。背中に嫌な汗が流れるのを感じるけれど、怯えちゃいけない。
殿下は噂を覆すとおっしゃっていた。
殿下は市井で「無能で感情がなく、人の気持ちがわからない」なんて酷い噂を立てられている。
本当は有能だし、感情を表に出すのが少し下手なだけで、人の気持ちに配慮を持って接することが出来るってことをわたしもみんなに伝えたい。
このままじゃ殿下が有能なのは伝わったとしても、人の気持ちがわからないと勘違いされちゃうわ。
「殿下の腹心の部下足りうる人物をお探しなのでしょう? たった一回授業中の態度を見ただけで判断されたりしてはいけないわ。殿下が急にいらしたのだものきっと緊張していたのよ? 人の資質を判断するのであればもっと深く付き合ってからではないと何もわからないはずです。だってお兄様は王立学園にいる姿だけだと誰にでも優しい繊細な優等生に見えますけど、本当は神経が図太くて腹黒いでしょう? みんな外に見せる顔と深く付き合ってから見せる中身は違います。もう少し待ってそれで判断されても遅くないはずです」
納得のいってなさそうな殿下の顔に、わたしは納得がいかない。
王立学園で同じ講義を受講する生徒達は最初の頃みたいにエレナを馬鹿にしたような態度をとることはない。
そりゃ相変わらずこのクラスで表立って仲良くしてくれるのはスピカさんくらいだけど。
それは、そもそもわたしがあまり王立学園にきていないのも原因の一つだ。
いまは顔を合わせれば挨拶してくれるし、こちらから話しかければ話をしてくれる。
話せば、しっかりとした礼儀正しい人たちばかりだ。
特に騎士を目指す生徒達は差し入れ効果か、わたしが話しかけると忠誠を誓うかのごとく一言も聞き逃すまいと真剣な眼差しで話を聞いてくれる。
きっと付き合いが深くなれば殿下のお目にかなう人物だって出てくるはず。
「それに講義の質は殿下の指摘を受けて改善するはずですもの。今のように授業を受けていないわたしのようなものでも試験で満点が取れるような内容ではなく、これからはもっと難易度が上がって授業に集中しないと試験に通らないような内容になるはずです。集中力を見るのはそれからでも遅くありません」
「……エレナは私の心配をわかってくれないのだな」
周りの視線を浴びながら、殿下は再びため息をついた。わたしは殿下の手を取る。
「わかっております。殿下の国を思い憂う心は尊きものですが、前途ある若者をもっと信じてあげなくてはいけないわ。次の授業は女子生徒達は作法の授業なのでわたしは移動しますけど、殿下は引き続き王宮の役人として役立ちそうな人物がいるか、皆さんと交流を深めてださいませね」
わたしは殿下の手をギュッと強く握ってから離す。
スピカさんを連れて講堂から出ていく時に殿下が「やっぱり何もわかってない……」と呟くのが聞こえたけれど……
わかってないのは殿下だわ。
わたしは行儀が悪いと思いながら、唇を尖らせた。
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