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第三部 運命の番(つがい)のお兄様に婚約者の座を譲って破滅フラグを回避します!
【サイドストーリー】護衛騎士候補達とボルボラ諸島逃走の舞台裏(第三部)
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「ジェレミー。いいのかよこっちについて。王太子殿下の護衛を自ら放棄する事になるんだぞ。将来を考えるならお前はオーウェン様やダスティンとともに殿下の護衛を続けた方がいい」
ブライアンの忠告にジェレミーは肩をすくめる。
「今回俺たちは護衛として呼ばれたわけじゃないだろ。エリオット様の友人として呼ばれたんだから、エリオット様と一緒に島を離れても問題ない。職務を放棄した事にはならないさ」
ジェレミーは心にもないことを言ってブライアンの隣に立つと、甲板の手すりにもたれかかる。
ブライアンは手すりに肘をついて遠ざかるボルボラ諸島を眺めていた。
(まあ、俺がエリオット様の友人なわけがないよな)
エリオットは由緒正しき侯爵家の嫡男で、隣国の姫君に求婚し受け入れられ、国家をあげて婚約式が執り行われたばかりだ。
ジェレミーは双子の姉の婚約者一家からのお情けで王立学園に通えているだけの貧乏子爵家の次男で、好きな女からは「婚約はしてあげてもいいけど、武勲をあげて連隊長クラスになって自力で爵位持ちになるまで、結婚してあげない」と宣言されている。
格差がありすぎるジェレミーがエリオットの友人としてボルボラ諸島で行われる婚約式に招待されたのには理由がある。
外交の場だというのに王宮が王太子殿下の為に用意した近衛騎士は間諜ばかりなのは火を見るよりも明らかだった。当の王太子殿下に進言しても「あそこまであからさまであれば暗殺者ではない。間諜を送って牽制したいだけだろう」などと言って気にも止めていない。
イスファーン王国と我が国の友好ムードに水を刺すような事が起きないようにと、エリオットの計らいでブライアンとジェレミーは友人として婚約式に招待されていた。
本来ならブライアンの言うように王太子殿下の護衛としてボルボラ諸島に残るべきだというのは、ジェレミーも理解している。
(こっちについたほうが面白そうだからなんて考えちまったなんて……俺もメアリに感化されすぎたな)
ジェレミーは赤毛をおさげにした双子の姉、メアリの顔を思い浮かべる。
周りの迷惑を顧みず、なんにでも首を突っ込んでいくメアリのことを困ったものだと思っていたのに。
メアリがいれば自分と同じ行動をしただろうと考えてジェレミーはニヤニヤと笑ってしまった。
「それにしても、殿下にあんな一面があったなんて思わなかったな」
「笑いごとじゃないからな」
ジェレミーの呟きにブライアンは嫌な顔をする。メアリを思い出して、つい、にやけてしまった顔が誤解を生んだようだった。
「悪い悪い。ほら、俺はさ、兄と双子の姉しかいないからエリオット様の気持ちは全然わからないし、ブライアンがエリオット様にここまで同調してるのも全然わからないんだけど」
慌てて否定するものの、今度はエリオットとブライアンの怒りの原因を思い出して笑ってしまう。
ブライアンは整った顔を思い切り顰めた。
今回王太子の婚約者であるエレナがボルボラ諸島に訪問するにあたり浜辺で水浴びをする為に『水着』を作ってきていた。
その『水着』という服は腕やふくらはぎなど肌の露出があるものだった。シーワード公爵家の敷地内の人気がない入り江でアイラン王女殿下たちと水着姿で遊んでいたのを王太子殿下とエリオットが偶然見かけたのがこの騒ぎの発端だ。
婚約が決まった当初王太子殿下は婚約者に対して「妹のように思っていた少女」と発言しており、エリオットは妹であるエレナが子供扱いされている事に憂いていた。
それが王太子殿下から今更のように「妹のように大切にしている少女なのだと自分に言い聞かせないと自身を律する事ができない」などと聞かされ烈火の如く怒り狂い、エレナ様を連れて殿下の元から逃亡を図ったのだった。
「俺にしたらむしろ、殿下も好きな女の前では俺たちと同じ男という生き物なんだなって思って親近感わいたけど」
「前提条件が違う。殿下はまわりに対してエレナ様のことを『妹のように思っている』だなんておっしゃっていただろ。『好きな女』だと紹介されていれば俺だってエリオット様より殿下に肩入れするさ。それを妹だなんていいながら実際はそんな目で見てるなんて裏切りだ。俺はもし、うちの可愛いベリンダを小さなお嬢さん扱いしてるくせに内心そんなことを思ってる奴には決闘を申し込む」
ブライアンは名前を伏せたフリをしているが、ブライアンの妹が王立学園に臨時講師としてやってくる騎士団のルーセント少尉に夢中になっているのに、相手が小さなお嬢さんのように扱っているのに腹を立てている。ただの私怨にしか聞こえないが真剣に怒っているブライアンにその指摘はできない。
ジェレミーは再び海の向こうを見つめる。
(殿下。貴方はこないだ、俺が騎士の矜持を持って貴方の護衛を全うしようとした時に「愛する相手が傷ついているのを知って追いかけないのは男の沽券に関わる」そう言って、俺に好きな女を追いかけさせた。貴方も王族の立場なんて枷に縛られずに、好きな女のために追いかけにくると信じていてよろしいでしょうか)
そんなことを心の中で問いかけながら、ジェレミーは遠ざかるボルボラ諸島に別れを告げた。
──ブライアンがルーセント少尉に決闘を申し込むのも、ジェレミーが好きな女の兄がなかなか強敵なことを思い知るのもまだ先の別の話だ。
ブライアンの忠告にジェレミーは肩をすくめる。
「今回俺たちは護衛として呼ばれたわけじゃないだろ。エリオット様の友人として呼ばれたんだから、エリオット様と一緒に島を離れても問題ない。職務を放棄した事にはならないさ」
ジェレミーは心にもないことを言ってブライアンの隣に立つと、甲板の手すりにもたれかかる。
ブライアンは手すりに肘をついて遠ざかるボルボラ諸島を眺めていた。
(まあ、俺がエリオット様の友人なわけがないよな)
エリオットは由緒正しき侯爵家の嫡男で、隣国の姫君に求婚し受け入れられ、国家をあげて婚約式が執り行われたばかりだ。
ジェレミーは双子の姉の婚約者一家からのお情けで王立学園に通えているだけの貧乏子爵家の次男で、好きな女からは「婚約はしてあげてもいいけど、武勲をあげて連隊長クラスになって自力で爵位持ちになるまで、結婚してあげない」と宣言されている。
格差がありすぎるジェレミーがエリオットの友人としてボルボラ諸島で行われる婚約式に招待されたのには理由がある。
外交の場だというのに王宮が王太子殿下の為に用意した近衛騎士は間諜ばかりなのは火を見るよりも明らかだった。当の王太子殿下に進言しても「あそこまであからさまであれば暗殺者ではない。間諜を送って牽制したいだけだろう」などと言って気にも止めていない。
イスファーン王国と我が国の友好ムードに水を刺すような事が起きないようにと、エリオットの計らいでブライアンとジェレミーは友人として婚約式に招待されていた。
本来ならブライアンの言うように王太子殿下の護衛としてボルボラ諸島に残るべきだというのは、ジェレミーも理解している。
(こっちについたほうが面白そうだからなんて考えちまったなんて……俺もメアリに感化されすぎたな)
ジェレミーは赤毛をおさげにした双子の姉、メアリの顔を思い浮かべる。
周りの迷惑を顧みず、なんにでも首を突っ込んでいくメアリのことを困ったものだと思っていたのに。
メアリがいれば自分と同じ行動をしただろうと考えてジェレミーはニヤニヤと笑ってしまった。
「それにしても、殿下にあんな一面があったなんて思わなかったな」
「笑いごとじゃないからな」
ジェレミーの呟きにブライアンは嫌な顔をする。メアリを思い出して、つい、にやけてしまった顔が誤解を生んだようだった。
「悪い悪い。ほら、俺はさ、兄と双子の姉しかいないからエリオット様の気持ちは全然わからないし、ブライアンがエリオット様にここまで同調してるのも全然わからないんだけど」
慌てて否定するものの、今度はエリオットとブライアンの怒りの原因を思い出して笑ってしまう。
ブライアンは整った顔を思い切り顰めた。
今回王太子の婚約者であるエレナがボルボラ諸島に訪問するにあたり浜辺で水浴びをする為に『水着』を作ってきていた。
その『水着』という服は腕やふくらはぎなど肌の露出があるものだった。シーワード公爵家の敷地内の人気がない入り江でアイラン王女殿下たちと水着姿で遊んでいたのを王太子殿下とエリオットが偶然見かけたのがこの騒ぎの発端だ。
婚約が決まった当初王太子殿下は婚約者に対して「妹のように思っていた少女」と発言しており、エリオットは妹であるエレナが子供扱いされている事に憂いていた。
それが王太子殿下から今更のように「妹のように大切にしている少女なのだと自分に言い聞かせないと自身を律する事ができない」などと聞かされ烈火の如く怒り狂い、エレナ様を連れて殿下の元から逃亡を図ったのだった。
「俺にしたらむしろ、殿下も好きな女の前では俺たちと同じ男という生き物なんだなって思って親近感わいたけど」
「前提条件が違う。殿下はまわりに対してエレナ様のことを『妹のように思っている』だなんておっしゃっていただろ。『好きな女』だと紹介されていれば俺だってエリオット様より殿下に肩入れするさ。それを妹だなんていいながら実際はそんな目で見てるなんて裏切りだ。俺はもし、うちの可愛いベリンダを小さなお嬢さん扱いしてるくせに内心そんなことを思ってる奴には決闘を申し込む」
ブライアンは名前を伏せたフリをしているが、ブライアンの妹が王立学園に臨時講師としてやってくる騎士団のルーセント少尉に夢中になっているのに、相手が小さなお嬢さんのように扱っているのに腹を立てている。ただの私怨にしか聞こえないが真剣に怒っているブライアンにその指摘はできない。
ジェレミーは再び海の向こうを見つめる。
(殿下。貴方はこないだ、俺が騎士の矜持を持って貴方の護衛を全うしようとした時に「愛する相手が傷ついているのを知って追いかけないのは男の沽券に関わる」そう言って、俺に好きな女を追いかけさせた。貴方も王族の立場なんて枷に縛られずに、好きな女のために追いかけにくると信じていてよろしいでしょうか)
そんなことを心の中で問いかけながら、ジェレミーは遠ざかるボルボラ諸島に別れを告げた。
──ブライアンがルーセント少尉に決闘を申し込むのも、ジェレミーが好きな女の兄がなかなか強敵なことを思い知るのもまだ先の別の話だ。
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