156 / 241
第四部
147 エレナ、王宮で働く
しおりを挟む
お兄様は自分から私たちのことを食堂に誘ったくせに、食堂の利用方法と席を案内してくれたら、知り合いを見つけたらしくそちらに行ってしまった。
ひどい。
「メアリさん、うちのお兄様が自由すぎてごめんなさいね」
目の前でパンをちぎるメアリさんにお詫びする。
「いえいえ。謝る必要なんて全くないので気にしないでください。むしろ近くで拝めて眼福でしたわ。王立学園で女生徒人気がトップクラスなのも納得の振る舞いですよね」
お兄様が触れた手をわきわきとさせて嬉しそうなメアリさんにホッとする。
「それにしても、わたしが王立学園をお休みしている間に、メアリさんがジェームズ商会の若奥様になってるなんて想像もしていなかったわ」
「本当に噂をご存じなかったんですね」
「ええ。それに、メアリさんのご婚約者様はわたしと同い年でしょう。結婚されるなんて今でも信じられなくて」
「そうなんです。だから、わたしも結婚はまだ二年は先だって油断してたんですけどね……」
新婚ほやほやなはずのメアリさんは、嬉しそうと言うよりもゲンナリしている。
もしかして、息子と結婚すると思ってたら父親の妾だったとか⁈
「わたしは一応子爵家の娘だから、十八歳にならないと結婚できないんですけど、アイザック……あ、相手はアイザック・ジェームズっていうんですけど」
「もちろん知ってるわ。同じクラスですし、お世話になりましたもの」
よかった。わたしの認識通り結婚相手は息子のままだった。
ジェイムズ商会のご子息であるアイザックさんには以前カフスボタンの依頼でお世話になった。
その上お兄様がカフスボタンのオーダーを受ける時にわたしが殿下に贈ったのを売り文句にするならマージン寄越せなんて言って恥ずかしい思いもしてる。
忘れられるはずがない。
「ありがとうございます。知ってるって聞いたら喜びますよ。で、こないだわたしが十八歳になった途端アイザックのやつが『僕は平民だから結婚年齢の縛りはないし、メアリは十八歳になったんだから結婚できるはずだ』って言い出して、貴族院に『婚姻によるストーン子爵家からの離籍』を申請しにいっちゃったんです。こちらはまだ二年後だと思ってるから、嫁入りの準備なんてろくにしてないんですよ? 嫁に行っただけで結婚式もあげてないんですから」
確かに、結婚の年齢制限があるのは貴族だけだけど……
でもだからって勝手に申請はできないはず。
「申請するにも、子爵家当主であるストーン子爵の同意がないと無理でしょう?」
「我が家はジェイムズ家にかなりの金額を援助してもらってるので、父は断れないんです。跡継ぎでもないわたしが王立学園に通えてるのだって、ジェイムズ家のお義父様がお金で教養とコネが手に入るなら安いもんだって払ってくれてるからなんです。しかも護衛のためになんて言って双子の弟の分まで払ってくれてるので、うちの父はジェイムズ家に頭があがらないんですよ」
「そうだったのね。貴族院ではすぐに受け付けてもらえたの?」
「貴族院も最初は突っぱねてくれたんですよ」
メアリさんはちぎったパンをスープに投入すると一気にかき込み、ドンと机を叩く。
熱がこもっている。
そうよね。貴族院は貴族のプライドを守ることに躍起だもの。
言い方は悪いけど、いくら国内最大級の商会であるジェイムズ商会子息の結婚だからって平民の言い分を貴族院が飲むとは思えない。
「ほら、男女逆だとまあまあある話じゃないですか。ロリコンのお貴族様が趣味を隠しもせずに平民の少女娶ったりとかで十歳になるかならないかの貴族夫人とか」
「……そうね。聞いたことあるわ」
わたしはメアリさんの嫌そうな顔に頷きながら、違和感を覚える。
あれ? ロリコンって、この世界でも通じる言葉だっけ?
確か小説の題名が由来じゃなかった? この世界の小説じゃないよね?
わたしの違和感にメアリさんは気を止めることもなく喋り続ける。
「貴族であれば認められない年齢にも関わらず、結婚年齢の決まりのない平民の少女であれば、妻として貴族籍に入れるのは認められて、貴族として結婚が認められる年齢の令嬢が結婚年齢の決まりのない十六歳の平民と結婚するために貴族籍を離脱するのが認められないのはおかしいだろって大騒ぎしたんです。だからアイザックのせいでわたしは一気に有名人になっちゃって……わたしはモブでいたかったのに」
モブ? モブも通じる? みんな普段使う言葉?
ううん。お兄様たちが使うのを聞いたことない。
「そもそも、激重執着系の腹黒糸目男子はアニキャラで十分っていうか、リアルででっかい矢印向けられると困るっていうか……」
アニキャラ⁈ 兄キャラじゃないよね? あのアニメのことだよね?
なんでメアリさんはアニキャラなんて言葉知ってるの?
──もしかして……メアリさんは転生者なの⁈
ひどい。
「メアリさん、うちのお兄様が自由すぎてごめんなさいね」
目の前でパンをちぎるメアリさんにお詫びする。
「いえいえ。謝る必要なんて全くないので気にしないでください。むしろ近くで拝めて眼福でしたわ。王立学園で女生徒人気がトップクラスなのも納得の振る舞いですよね」
お兄様が触れた手をわきわきとさせて嬉しそうなメアリさんにホッとする。
「それにしても、わたしが王立学園をお休みしている間に、メアリさんがジェームズ商会の若奥様になってるなんて想像もしていなかったわ」
「本当に噂をご存じなかったんですね」
「ええ。それに、メアリさんのご婚約者様はわたしと同い年でしょう。結婚されるなんて今でも信じられなくて」
「そうなんです。だから、わたしも結婚はまだ二年は先だって油断してたんですけどね……」
新婚ほやほやなはずのメアリさんは、嬉しそうと言うよりもゲンナリしている。
もしかして、息子と結婚すると思ってたら父親の妾だったとか⁈
「わたしは一応子爵家の娘だから、十八歳にならないと結婚できないんですけど、アイザック……あ、相手はアイザック・ジェームズっていうんですけど」
「もちろん知ってるわ。同じクラスですし、お世話になりましたもの」
よかった。わたしの認識通り結婚相手は息子のままだった。
ジェイムズ商会のご子息であるアイザックさんには以前カフスボタンの依頼でお世話になった。
その上お兄様がカフスボタンのオーダーを受ける時にわたしが殿下に贈ったのを売り文句にするならマージン寄越せなんて言って恥ずかしい思いもしてる。
忘れられるはずがない。
「ありがとうございます。知ってるって聞いたら喜びますよ。で、こないだわたしが十八歳になった途端アイザックのやつが『僕は平民だから結婚年齢の縛りはないし、メアリは十八歳になったんだから結婚できるはずだ』って言い出して、貴族院に『婚姻によるストーン子爵家からの離籍』を申請しにいっちゃったんです。こちらはまだ二年後だと思ってるから、嫁入りの準備なんてろくにしてないんですよ? 嫁に行っただけで結婚式もあげてないんですから」
確かに、結婚の年齢制限があるのは貴族だけだけど……
でもだからって勝手に申請はできないはず。
「申請するにも、子爵家当主であるストーン子爵の同意がないと無理でしょう?」
「我が家はジェイムズ家にかなりの金額を援助してもらってるので、父は断れないんです。跡継ぎでもないわたしが王立学園に通えてるのだって、ジェイムズ家のお義父様がお金で教養とコネが手に入るなら安いもんだって払ってくれてるからなんです。しかも護衛のためになんて言って双子の弟の分まで払ってくれてるので、うちの父はジェイムズ家に頭があがらないんですよ」
「そうだったのね。貴族院ではすぐに受け付けてもらえたの?」
「貴族院も最初は突っぱねてくれたんですよ」
メアリさんはちぎったパンをスープに投入すると一気にかき込み、ドンと机を叩く。
熱がこもっている。
そうよね。貴族院は貴族のプライドを守ることに躍起だもの。
言い方は悪いけど、いくら国内最大級の商会であるジェイムズ商会子息の結婚だからって平民の言い分を貴族院が飲むとは思えない。
「ほら、男女逆だとまあまあある話じゃないですか。ロリコンのお貴族様が趣味を隠しもせずに平民の少女娶ったりとかで十歳になるかならないかの貴族夫人とか」
「……そうね。聞いたことあるわ」
わたしはメアリさんの嫌そうな顔に頷きながら、違和感を覚える。
あれ? ロリコンって、この世界でも通じる言葉だっけ?
確か小説の題名が由来じゃなかった? この世界の小説じゃないよね?
わたしの違和感にメアリさんは気を止めることもなく喋り続ける。
「貴族であれば認められない年齢にも関わらず、結婚年齢の決まりのない平民の少女であれば、妻として貴族籍に入れるのは認められて、貴族として結婚が認められる年齢の令嬢が結婚年齢の決まりのない十六歳の平民と結婚するために貴族籍を離脱するのが認められないのはおかしいだろって大騒ぎしたんです。だからアイザックのせいでわたしは一気に有名人になっちゃって……わたしはモブでいたかったのに」
モブ? モブも通じる? みんな普段使う言葉?
ううん。お兄様たちが使うのを聞いたことない。
「そもそも、激重執着系の腹黒糸目男子はアニキャラで十分っていうか、リアルででっかい矢印向けられると困るっていうか……」
アニキャラ⁈ 兄キャラじゃないよね? あのアニメのことだよね?
なんでメアリさんはアニキャラなんて言葉知ってるの?
──もしかして……メアリさんは転生者なの⁈
1
お気に入りに追加
1,099
あなたにおすすめの小説
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
お認めください、あなたは彼に選ばれなかったのです
めぐめぐ
恋愛
騎士である夫アルバートは、幼馴染みであり上官であるレナータにいつも呼び出され、妻であるナディアはあまり夫婦の時間がとれていなかった。
さらにレナータは、王命で結婚したナディアとアルバートを可哀想だと言い、自分と夫がどれだけ一緒にいたか、ナディアの知らない小さい頃の彼を知っているかなどを自慢げに話してくる。
しかしナディアは全く気にしていなかった。
何故なら、どれだけアルバートがレナータに呼び出されても、必ず彼はナディアの元に戻ってくるのだから――
偽物サバサバ女が、ちょっと天然な本物のサバサバ女にやられる話。
※頭からっぽで
※思いつきで書き始めたので、つたない設定等はご容赦ください。
※夫婦仲は良いです
※私がイメージするサバ女子です(笑)
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる