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第四部
147 エレナ、王宮で働く
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お兄様は自分から私たちのことを食堂に誘ったくせに、食堂の利用方法と席を案内してくれたら、知り合いを見つけたらしくそちらに行ってしまった。
ひどい。
「メアリさん、うちのお兄様が自由すぎてごめんなさいね」
目の前でパンをちぎるメアリさんにお詫びする。
「いえいえ。謝る必要なんて全くないので気にしないでください。むしろ近くで拝めて眼福でしたわ。王立学園で女生徒人気がトップクラスなのも納得の振る舞いですよね」
お兄様が触れた手をわきわきとさせて嬉しそうなメアリさんにホッとする。
「それにしても、わたしが王立学園をお休みしている間に、メアリさんがジェームズ商会の若奥様になってるなんて想像もしていなかったわ」
「本当に噂をご存じなかったんですね」
「ええ。それに、メアリさんのご婚約者様はわたしと同い年でしょう。結婚されるなんて今でも信じられなくて」
「そうなんです。だから、わたしも結婚はまだ二年は先だって油断してたんですけどね……」
新婚ほやほやなはずのメアリさんは、嬉しそうと言うよりもゲンナリしている。
もしかして、息子と結婚すると思ってたら父親の妾だったとか⁈
「わたしは一応子爵家の娘だから、十八歳にならないと結婚できないんですけど、アイザック……あ、相手はアイザック・ジェームズっていうんですけど」
「もちろん知ってるわ。同じクラスですし、お世話になりましたもの」
よかった。わたしの認識通り結婚相手は息子のままだった。
ジェイムズ商会のご子息であるアイザックさんには以前カフスボタンの依頼でお世話になった。
その上お兄様がカフスボタンのオーダーを受ける時にわたしが殿下に贈ったのを売り文句にするならマージン寄越せなんて言って恥ずかしい思いもしてる。
忘れられるはずがない。
「ありがとうございます。知ってるって聞いたら喜びますよ。で、こないだわたしが十八歳になった途端アイザックのやつが『僕は平民だから結婚年齢の縛りはないし、メアリは十八歳になったんだから結婚できるはずだ』って言い出して、貴族院に『婚姻によるストーン子爵家からの離籍』を申請しにいっちゃったんです。こちらはまだ二年後だと思ってるから、嫁入りの準備なんてろくにしてないんですよ? 嫁に行っただけで結婚式もあげてないんですから」
確かに、結婚の年齢制限があるのは貴族だけだけど……
でもだからって勝手に申請はできないはず。
「申請するにも、子爵家当主であるストーン子爵の同意がないと無理でしょう?」
「我が家はジェイムズ家にかなりの金額を援助してもらってるので、父は断れないんです。跡継ぎでもないわたしが王立学園に通えてるのだって、ジェイムズ家のお義父様がお金で教養とコネが手に入るなら安いもんだって払ってくれてるからなんです。しかも護衛のためになんて言って双子の弟の分まで払ってくれてるので、うちの父はジェイムズ家に頭があがらないんですよ」
「そうだったのね。貴族院ではすぐに受け付けてもらえたの?」
「貴族院も最初は突っぱねてくれたんですよ」
メアリさんはちぎったパンをスープに投入すると一気にかき込み、ドンと机を叩く。
熱がこもっている。
そうよね。貴族院は貴族のプライドを守ることに躍起だもの。
言い方は悪いけど、いくら国内最大級の商会であるジェイムズ商会子息の結婚だからって平民の言い分を貴族院が飲むとは思えない。
「ほら、男女逆だとまあまあある話じゃないですか。ロリコンのお貴族様が趣味を隠しもせずに平民の少女娶ったりとかで十歳になるかならないかの貴族夫人とか」
「……そうね。聞いたことあるわ」
わたしはメアリさんの嫌そうな顔に頷きながら、違和感を覚える。
あれ? ロリコンって、この世界でも通じる言葉だっけ?
確か小説の題名が由来じゃなかった? この世界の小説じゃないよね?
わたしの違和感にメアリさんは気を止めることもなく喋り続ける。
「貴族であれば認められない年齢にも関わらず、結婚年齢の決まりのない平民の少女であれば、妻として貴族籍に入れるのは認められて、貴族として結婚が認められる年齢の令嬢が結婚年齢の決まりのない十六歳の平民と結婚するために貴族籍を離脱するのが認められないのはおかしいだろって大騒ぎしたんです。だからアイザックのせいでわたしは一気に有名人になっちゃって……わたしはモブでいたかったのに」
モブ? モブも通じる? みんな普段使う言葉?
ううん。お兄様たちが使うのを聞いたことない。
「そもそも、激重執着系の腹黒糸目男子はアニキャラで十分っていうか、リアルででっかい矢印向けられると困るっていうか……」
アニキャラ⁈ 兄キャラじゃないよね? あのアニメのことだよね?
なんでメアリさんはアニキャラなんて言葉知ってるの?
──もしかして……メアリさんは転生者なの⁈
ひどい。
「メアリさん、うちのお兄様が自由すぎてごめんなさいね」
目の前でパンをちぎるメアリさんにお詫びする。
「いえいえ。謝る必要なんて全くないので気にしないでください。むしろ近くで拝めて眼福でしたわ。王立学園で女生徒人気がトップクラスなのも納得の振る舞いですよね」
お兄様が触れた手をわきわきとさせて嬉しそうなメアリさんにホッとする。
「それにしても、わたしが王立学園をお休みしている間に、メアリさんがジェームズ商会の若奥様になってるなんて想像もしていなかったわ」
「本当に噂をご存じなかったんですね」
「ええ。それに、メアリさんのご婚約者様はわたしと同い年でしょう。結婚されるなんて今でも信じられなくて」
「そうなんです。だから、わたしも結婚はまだ二年は先だって油断してたんですけどね……」
新婚ほやほやなはずのメアリさんは、嬉しそうと言うよりもゲンナリしている。
もしかして、息子と結婚すると思ってたら父親の妾だったとか⁈
「わたしは一応子爵家の娘だから、十八歳にならないと結婚できないんですけど、アイザック……あ、相手はアイザック・ジェームズっていうんですけど」
「もちろん知ってるわ。同じクラスですし、お世話になりましたもの」
よかった。わたしの認識通り結婚相手は息子のままだった。
ジェイムズ商会のご子息であるアイザックさんには以前カフスボタンの依頼でお世話になった。
その上お兄様がカフスボタンのオーダーを受ける時にわたしが殿下に贈ったのを売り文句にするならマージン寄越せなんて言って恥ずかしい思いもしてる。
忘れられるはずがない。
「ありがとうございます。知ってるって聞いたら喜びますよ。で、こないだわたしが十八歳になった途端アイザックのやつが『僕は平民だから結婚年齢の縛りはないし、メアリは十八歳になったんだから結婚できるはずだ』って言い出して、貴族院に『婚姻によるストーン子爵家からの離籍』を申請しにいっちゃったんです。こちらはまだ二年後だと思ってるから、嫁入りの準備なんてろくにしてないんですよ? 嫁に行っただけで結婚式もあげてないんですから」
確かに、結婚の年齢制限があるのは貴族だけだけど……
でもだからって勝手に申請はできないはず。
「申請するにも、子爵家当主であるストーン子爵の同意がないと無理でしょう?」
「我が家はジェイムズ家にかなりの金額を援助してもらってるので、父は断れないんです。跡継ぎでもないわたしが王立学園に通えてるのだって、ジェイムズ家のお義父様がお金で教養とコネが手に入るなら安いもんだって払ってくれてるからなんです。しかも護衛のためになんて言って双子の弟の分まで払ってくれてるので、うちの父はジェイムズ家に頭があがらないんですよ」
「そうだったのね。貴族院ではすぐに受け付けてもらえたの?」
「貴族院も最初は突っぱねてくれたんですよ」
メアリさんはちぎったパンをスープに投入すると一気にかき込み、ドンと机を叩く。
熱がこもっている。
そうよね。貴族院は貴族のプライドを守ることに躍起だもの。
言い方は悪いけど、いくら国内最大級の商会であるジェイムズ商会子息の結婚だからって平民の言い分を貴族院が飲むとは思えない。
「ほら、男女逆だとまあまあある話じゃないですか。ロリコンのお貴族様が趣味を隠しもせずに平民の少女娶ったりとかで十歳になるかならないかの貴族夫人とか」
「……そうね。聞いたことあるわ」
わたしはメアリさんの嫌そうな顔に頷きながら、違和感を覚える。
あれ? ロリコンって、この世界でも通じる言葉だっけ?
確か小説の題名が由来じゃなかった? この世界の小説じゃないよね?
わたしの違和感にメアリさんは気を止めることもなく喋り続ける。
「貴族であれば認められない年齢にも関わらず、結婚年齢の決まりのない平民の少女であれば、妻として貴族籍に入れるのは認められて、貴族として結婚が認められる年齢の令嬢が結婚年齢の決まりのない十六歳の平民と結婚するために貴族籍を離脱するのが認められないのはおかしいだろって大騒ぎしたんです。だからアイザックのせいでわたしは一気に有名人になっちゃって……わたしはモブでいたかったのに」
モブ? モブも通じる? みんな普段使う言葉?
ううん。お兄様たちが使うのを聞いたことない。
「そもそも、激重執着系の腹黒糸目男子はアニキャラで十分っていうか、リアルででっかい矢印向けられると困るっていうか……」
アニキャラ⁈ 兄キャラじゃないよね? あのアニメのことだよね?
なんでメアリさんはアニキャラなんて言葉知ってるの?
──もしかして……メアリさんは転生者なの⁈
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