上 下
158 / 231
第四部 

149 エレナ、王宮で働く

しおりを挟む
「ええっ! エレナ様が転生者なんですか⁈ えっと、エレナ様はどこから? わたしは二十一世紀の日本からです」
「……わたしの前世も日本人だったわ」
「本当⁈」

 わたしはメアリさんに人差し指を立てて小さな声で話すようにとジェスチャーをする。

「あっ……失礼しました。それにしても、全然気がつかなかったです。いやぁ。エリオット様があまりにパワーバランスぶち壊して人生謳歌してらっしゃるし、キャラ強すぎたから盲点でした。言われてみればエレナ様はこの世界の貴族と比べると異質ですもんね。妹のエレナ様が転生者だからエリオット様に影響が及んでるんですね」

 わたしよりも明らかに異質なメアリさんから異質と言われると、ちょっと釈然としない気持ちになる。
 じっと見つめていると気まずそうにメアリさんは肩をすくめた。

「まあ、うちの双子の弟ジェレミーは平凡で間抜けな男なので、転生者が兄弟にいたくらいじゃそんな影響もないって先入観があったのかも」
「そういえば双子なのよね? ジェレミー様も日本からの転生者なの?」

 わたしの疑問にメアリさんは腕を組んで考え込む。

「……うーん。ジェレミーの前世は日本人ではないと思います。かまをかけても通じないんで。ただ個人的にはジェレミーの前世は犬か、犬の獣人だと思ってますけど」
「獣人がいるの⁈」

 大ヒントだわ! 獣人もいる世界に異世界転生したのなら、少しは転生先の作品が絞れる気がする!

「あ、いや、その、わたしが日本で死んでこの世界に転生したくらいだから、ジェレミーが獣人のいる世界からこの世界に転生してもおかしくないかなって思ってるってだけです。獣人は聞いたことないですね。ジェレミーは平凡で間抜けだけど、異様なまでに鼻が効いて、馬鹿みたいに力が強いんです」

 なんだ。この世界に獣人はいないのか。
 それに、異様なまでに鼻が効いて馬鹿みたいに力が強いなら、もはやそれは平凡ではないんじゃない?
 期待が外れたわたしは、ツッコミたいのを我慢する。

「しかもお気に入りへの執着は強いし、ああ見えて上下関係しっかり守って忠誠心強いし。あいつの前世は赤毛の犬なんです。エレナ様もそう思わないですか?」

 メアリさんはわたしが同じ日本人の転生者だと知ったからか、今まで以上にいたずらっ子みたいに親しげに話しかける。
 周りから見ればわたしたちは、仲の良い女官見習いの同僚にしか見えないはず。

「エレナ様はいつ転生者だって気がつかれたんですか?」
「今年の春よ」
「今年の春って……もしかしてあの事件がきっかけで……」

 そう言って顔を曇らせたメアリさんを見て、エレナが階段から落ちた事はわたしが思っている以上に噂になっていることを理解する。
 それに事故ではなく事件として扱われているってことも。

 わたしはもう気がついている。
 エレナと殿下の婚約は周りから批判されていて、市井ではネガティブな噂ばかりされていたことを。
 ただあの時の記憶はやっぱり思い出せないままだから、その噂で精神的に追い詰められて階段から落ちてしまったのか、ただ不注意で階段から落ちてしまっただけなのか、それはわからない。

「確かに階段から落ちた弾みで色々なことを思い出したけど、あれは事故でしかないわ」

 わたしの断言に、メアリさんが「それでエレナ様には、どうしようもない噂話が耳に入らないようになってるんですね」と呟く。

「メアリさんはいつ自分が転生者だと気がつかれたの?」

 重たい雰囲気に耐えきれずに、笑顔でメアリさんに話しかける。

「赤ちゃんの頃です。死んだって思って目が覚めたら赤ちゃんでした」
「そんな前から……ねえ、メアリさんはこの世界がなんの物語の世界かわかっているの?」
「なんのことですか?」

 わたしよりも前からこの世界が異世界だってわかってるメアリさんは、きっとこの世界の真実に気がついているはず。
 物語の題名も、内容も、登場人物も。そして話がどれくらい進んでいるかも。

 メアリさんはわざとらしく小首を傾げたままだ。
 そりゃそうよね。面と向かって破滅する悪役令嬢ですとは言いづらいものね。

「いいの。わたしに気を遣わないで。わたしは殿下の婚約者だもの、悪役令嬢なんでしょう? 子供みたいな見た目の名ばかり侯爵家の娘なんて役不足のくせに、小さな頃から兄のように振る舞ってくださる殿下のことが大好きで、妹みたいに可愛がってもらえるだけじゃ満足もせずに婚約者の座に執着しているのよ。本物のヒロインが現れて捨てられるのはわかっているわ。せめて穏便に捨てられたいじゃない。なんの物語かわかれば破滅フラグを回避することは可能だと思うの」
「えっと……」
「もしかして、もう手遅れなの?」

 わたしの質問にメアリさんは忙しなく瞬きをする。

「あの、この世界は物語の中なんですか?」
「え?」

 今度はわたしが忙しなく瞬きをする番だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう二度とあなたの妃にはならない

葉菜子
恋愛
 8歳の時に出会った婚約者である第一王子に一目惚れしたミーア。それからミーアの中心は常に彼だった。  しかし、王子は学園で男爵令嬢を好きになり、相思相愛に。  男爵令嬢を正妃に置けないため、ミーアを正妃にし、男爵令嬢を側妃とした。  ミーアの元を王子が訪れることもなく、妃として仕事をこなすミーアの横で、王子と側妃は愛を育み、妊娠した。その側妃が襲われ、犯人はミーアだと疑われてしまい、自害する。  ふと目が覚めるとなんとミーアは8歳に戻っていた。  なぜか分からないけど、せっかくのチャンス。次は幸せになってやると意気込むミーアは気づく。 あれ……、彼女と立場が入れ替わってる!?  公爵令嬢が男爵令嬢になり、人生をやり直します。  ざまぁは無いとは言い切れないですが、無いと思って頂ければと思います。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが

藍生蕗
恋愛
 子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。  しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。  いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。 ※ 本編は4万字くらいのお話です ※ 他のサイトでも公開してます ※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。 ※ ご都合主義 ※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!) ※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。  →同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

処理中です...