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第三部 運命の番(つがい)のお兄様に婚約者の座を譲って破滅フラグを回避します!
110 ボルボラ諸島での婚約式
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「──ボルボラ諸島はいま、過去と決別し、観光の島に生まれ変わろうとしております!」
腕を広げ説明する役人の声に、熱がこもる。
彼が示す先は目と鼻の先にある対岸の小さな島だ。
養殖真珠の不正取引の舞台になった小さな島はシーワード公爵家から国に接収され、競売にかけられた。
高額な落札額は養殖真珠の詐欺で騙された人々の救済に充てられた。
ボルボラ諸島の本島を含めた他の島々はもちろんシーワード公爵領のままだし、もしシーワード子爵がのさばり権力を欲しいままに悪事を働き続けたりしていたら、近い未来にシーワード公爵家自体が取り壊しの憂き目にあっていたかもしれない。
それと比べれば小さな島の一つ無くなるくらいシーワード公爵家にとっては大した痛手ではない。
むしろ小さな島一つ手放すことで禊を済ませた印象になり都合がよい。
そしていまは落札者の手によってホテル建設事業が進んでいる。
大陸の港と本島との往復便しかなかったフェリーは増便され、ボルボラ諸島を周遊するルートも新設されるという。
このままいけば、公爵領の持つ港や島々も観光客が押し寄せ、今まで以上に潤う。
今後はイスファーン王国からも観光客を誘致するために、イスファーンの港からボルボラ諸島へのフェリーの運行も検討されている。
フェリーが就航すればボルボラ諸島を経由して両国の行き来は活発になる。
いつまでも後ろを向いている場合ではない。
わたしは役人の芝居じみた説明を聞きながら集団の先陣に視線を送る。
陽の光を浴びた淡い金色がキラキラと光る。
深い湖のような青い瞳は穏やかな微笑みを崩さない。
フェリーから降りてすぐ殿下にご挨拶に向かうと、殿下は役人達からボルボラ諸島の現状について現地視察をしながら説明を受けにいくところだった。
改めて挨拶に伺うことを伝えて退こうとしたわたしを引きとめて、同行を勧めてくださった。
殿下の隣で一緒に視察しながらあわよくばお話をして……
なんて考えたのは甘かった。
イスファーン王国の要人も交え、視察団ばりの大人数で説明を受けているから、殿下の姿は遥か彼方。
これなら、お母様とメリーと領主館でのんびり過ごせばよかった。
「トワイン侯爵令嬢様は、ボルボラ諸島の養殖真珠をご覧になりましたか?」
「いいえ。まだ見ていないわ」
熱弁をふるっていた役人に尋ねられ、わたしは首を横に振る。
「真珠というのは、蝶貝が偶然取り込んだ異物を核にして真珠の層が重なり、貝の成長にともない大きくなるそうです。そもそも偶発的なことなので全ての蝶貝に真珠ができるわけではないですし、取り込んだ異物の形によっては丸ではなく歪なかたちの真珠になります。今までは真珠採取というのは博打のような産業でした」
「大変だったのね」
「ええ。そして、養殖真珠というのは偶発に頼るのではなく、白蝶貝に丸い核を埋め込み育てるのだそうです。天然真珠よりも大粒ながら、歪なものができにくいそうです。大粒で形の良い真珠が並ぶアクセサリーは一目見ただけで、目が奪われますよ」
この役人は、ホテル建設だけでなく真珠養殖にも詳しいらしい。
「そろそろ社交界の初舞台を迎える、トワイン侯爵令嬢様にぴったりのアクセサリーをご紹介できますが、いかがですか?」
「え?」
わたしは驚いて見上げる。
「以前シーワード公爵家で行われたイスファーン王国との茶会でトワイン侯爵令嬢様が通訳を買ってでられていたのを拝見しました。今回イスファーン王国とまとまった商談の多くは、トワイン侯爵令嬢様があの茶会で売り込んで下さったものばかりです」
「わたしはアイラン王女殿下の通訳をしていただけだわ」
「ご謙遜なさらずに。ぜひ養殖真珠のアクセサリーも、イスファーン王国と我が国の貴族達に売り込んでください」
役人の男はそう言って破顔した。
腕を広げ説明する役人の声に、熱がこもる。
彼が示す先は目と鼻の先にある対岸の小さな島だ。
養殖真珠の不正取引の舞台になった小さな島はシーワード公爵家から国に接収され、競売にかけられた。
高額な落札額は養殖真珠の詐欺で騙された人々の救済に充てられた。
ボルボラ諸島の本島を含めた他の島々はもちろんシーワード公爵領のままだし、もしシーワード子爵がのさばり権力を欲しいままに悪事を働き続けたりしていたら、近い未来にシーワード公爵家自体が取り壊しの憂き目にあっていたかもしれない。
それと比べれば小さな島の一つ無くなるくらいシーワード公爵家にとっては大した痛手ではない。
むしろ小さな島一つ手放すことで禊を済ませた印象になり都合がよい。
そしていまは落札者の手によってホテル建設事業が進んでいる。
大陸の港と本島との往復便しかなかったフェリーは増便され、ボルボラ諸島を周遊するルートも新設されるという。
このままいけば、公爵領の持つ港や島々も観光客が押し寄せ、今まで以上に潤う。
今後はイスファーン王国からも観光客を誘致するために、イスファーンの港からボルボラ諸島へのフェリーの運行も検討されている。
フェリーが就航すればボルボラ諸島を経由して両国の行き来は活発になる。
いつまでも後ろを向いている場合ではない。
わたしは役人の芝居じみた説明を聞きながら集団の先陣に視線を送る。
陽の光を浴びた淡い金色がキラキラと光る。
深い湖のような青い瞳は穏やかな微笑みを崩さない。
フェリーから降りてすぐ殿下にご挨拶に向かうと、殿下は役人達からボルボラ諸島の現状について現地視察をしながら説明を受けにいくところだった。
改めて挨拶に伺うことを伝えて退こうとしたわたしを引きとめて、同行を勧めてくださった。
殿下の隣で一緒に視察しながらあわよくばお話をして……
なんて考えたのは甘かった。
イスファーン王国の要人も交え、視察団ばりの大人数で説明を受けているから、殿下の姿は遥か彼方。
これなら、お母様とメリーと領主館でのんびり過ごせばよかった。
「トワイン侯爵令嬢様は、ボルボラ諸島の養殖真珠をご覧になりましたか?」
「いいえ。まだ見ていないわ」
熱弁をふるっていた役人に尋ねられ、わたしは首を横に振る。
「真珠というのは、蝶貝が偶然取り込んだ異物を核にして真珠の層が重なり、貝の成長にともない大きくなるそうです。そもそも偶発的なことなので全ての蝶貝に真珠ができるわけではないですし、取り込んだ異物の形によっては丸ではなく歪なかたちの真珠になります。今までは真珠採取というのは博打のような産業でした」
「大変だったのね」
「ええ。そして、養殖真珠というのは偶発に頼るのではなく、白蝶貝に丸い核を埋め込み育てるのだそうです。天然真珠よりも大粒ながら、歪なものができにくいそうです。大粒で形の良い真珠が並ぶアクセサリーは一目見ただけで、目が奪われますよ」
この役人は、ホテル建設だけでなく真珠養殖にも詳しいらしい。
「そろそろ社交界の初舞台を迎える、トワイン侯爵令嬢様にぴったりのアクセサリーをご紹介できますが、いかがですか?」
「え?」
わたしは驚いて見上げる。
「以前シーワード公爵家で行われたイスファーン王国との茶会でトワイン侯爵令嬢様が通訳を買ってでられていたのを拝見しました。今回イスファーン王国とまとまった商談の多くは、トワイン侯爵令嬢様があの茶会で売り込んで下さったものばかりです」
「わたしはアイラン王女殿下の通訳をしていただけだわ」
「ご謙遜なさらずに。ぜひ養殖真珠のアクセサリーも、イスファーン王国と我が国の貴族達に売り込んでください」
役人の男はそう言って破顔した。
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