上 下
107 / 245
第三部 運命の番(つがい)のお兄様に婚約者の座を譲って破滅フラグを回避します!

100 久しぶりの学園生活

しおりを挟む
「やだっ、メアリさんったら! 違うわ!」

 ばっちーん!
 可愛らしいベリンダさんが思い切り振りかぶってメアリさんの背中を叩く。
 すごい音……

「いててっ……だって、ほら、エリオット様を狙ってたご令嬢達が、エリオット様がイスファーンのお姫様に求婚したって聞いた途端、臨時講師をされているルーセント少尉に鞍替えして、お近づきになろうと口実を作るのに必死よ。女騎士になりたいなんてうそぶいて稽古に参加してる人まで出始めたんですって」

 メアリさんが顔を顰め背中をさすりながら、教えてくれた。

「ルーセント少尉?」
「ええ、中央騎士団のキリアン・ルーセント少尉が王立学園アカデミーの生徒達に稽古をつけに来てくださってるんです。ブライアン達も王立学園アカデミーにいる時はルーセント少尉の稽古に参加していますけど、最前線にいる方に鍛えてもらえるのは貴重な機会だと言ってました」

 キリッとした美人のミンディさんがわたしに説明すると、メアリさんが人差し指をチッチッチッと左右に振る。

「実力もですけど、やっぱり顔ですよ顔! エレナ様はルーセント少尉のことご存じないんですか? 強面の騎士団の中で涼やかな美貌のルーセント少尉は市井でも女性人気が高いんですよ!」
「そうなのね。知らなかったわ。王立学園アカデミーのご令嬢の皆さんや市井の女性が夢中になるほど素敵な方ってどんな方なのかしら」

 そんな人気のイケメンが王立学園アカデミーに来ているなら見てみたい。
 スピカさんがいま参加してる稽古をそのルーセント少尉が受け持ってるってことよね。
 あとでスピカさんに聞いてみよう。

「まあ、でも、エレナ様は麗しの王太子様やエリオット様を見慣れてらっしゃるから、ご覧になっても感動はないかもしれませんけど」
「王太子様達はそりゃ素敵ですけど、キリアン様はまた別の魅力だわ! キリアン様は幼い頃に隣国リズモンドでクーデターが起きて、ご家族と一緒に亡命する際にご両親を亡くされてるの。幼いキリアン様を受け入れてくれたこの国に身を尽くして恩を返そうとされている立派な方だもの!」

 メアリさんがおどけているのをベリンダさんはムキになって反論する。
 おっと、この反応は……

「もしかして、ベリンダさんは、ルーセント少尉をお慕いしていらっしゃるの?」
「えっ!」
「ベリンダの初恋の方だものね」
「ミンディったら!」

 ばっちーん!
 わたしに聞かれて真っ赤になったベリンダさんは、今度はミンディさんに揶揄われて思い切り背中を叩く。
 かなり痛そう……
 わたしも発言には気をつけよう。

「わたしが子供の頃に、騎士見習いになったばかりのキリアン様をその頃近衛騎士団で騎士団長をしていたお父様が我が家によくお連れになっていたから、久しぶりにお会いできるならご挨拶したいと思っただけよ」
「ブライアンがいなくてもご挨拶にいったらいいのよ」
「わたしのことなんて覚えてないわ」

 ミンディさんとブライアン様は幼馴染ということは、ミンディさんとベリンダさんも幼馴染って事よね。
 二人とも気安く話している。

「こないだブライアンが稽古に参加した時、ルーセント少尉が懐かしそうに声をかけてくださったっていっていたもの。ベリンダのことだって覚えているわよ」
「きっと覚えていらっしゃっても、わたしなんてキリアン様にとってはおチビちゃんのままよ」

 わかる!
 ベリンダさんの気持ちが手に取るようにわかる!

 自分だけが一方的に恋焦がれて、相手に子供扱いされるのなんて切ないもんね。

「あの、ベリンダさんさえよければ明日の稽古、わたしと一緒に見学にいきませんか? 友達が稽古に参加しているので差し入れしにいこうと思ってるんです。見学に付き添ってもらえたら心強いわ」
「いいんですか?」

 ベリンダさんはわたしの手を取って握る。
 ぎゅうううう。

 痛い……

 わたしは痛みでひきつりながら微笑む。

「明日でしたら、わたくしも予定が空いておりますから、付き添いして差し上げてもよろしいですわよ」

 食事をしながら静観されていたコーデリア様が、ナプキンで口を拭いて、明日の稽古見学に参戦の表明をする。
 それを聞いたメアリさんが「順番的に、明日ダスティン様が王立学園アカデミーにいらっしゃるんです」とわたしに小声で教えてくれた。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。

順番を待たなくなった側室と、順番を待つようになった皇帝のお話 〜陛下!どうか私のことは思い出さないで〜

白猫
恋愛
主人公のレーナマリアは、西の小国エルトネイル王国の第1王女。エルトネイル王国の国王であるレーナマリアの父は、アヴァンジェル帝国との争いを避けるため、皇帝ルクスフィードの元へ娘を側室として差し出すことにした。「側室なら食べるに困るわけでもないし、痛ぶられるわけでもないわ!」と特別な悲観もせず帝国へ渡ったレーナマリアだが、到着してすぐに己の甘さに気付かされることになる。皇帝ルクスフィードには、既に49人もの側室がいたのだ。自分が50番目の側室であると知ったレーナマリアは呆然としたが、「自分で変えられる状況でもないのだから、悩んでも仕方ないわ!」と今度は割り切る。明るい性格で毎日を楽しくぐうたらに過ごしていくが、ある日…側室たちが期待する皇帝との「閨の儀」の話を聞いてしまう。レーナマリアは、すっかり忘れていた皇帝の存在と、その皇帝と男女として交わることへの想像以上の拒絶感に苛まれ…そんな「望んでもいない順番待ちの列」に加わる気はない!と宣言すると、すぐに自分の人生のために生きる道を模索し始める。そして月日が流れ…いつの日か、逆に皇帝が彼女の列に並ぶことになってしまったのだ。立場逆転の恋愛劇、はたして二人は結ばれるのか? ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を

川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」  とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。  これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。  だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。  これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。 完結まで執筆済み、毎日更新 もう少しだけお付き合いください 第22回書き出し祭り参加作品 2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

処理中です...