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第三部 運命の番(つがい)のお兄様に婚約者の座を譲って破滅フラグを回避します!

109 ボルボラ諸島での婚約式

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 ボルボラ諸島は、パーシェル海に浮かぶ大小五つの島から成り立つ。
 一番大きな本島には、シーワード子爵がボルボラ諸島の管理者として居住していた領主館と、過去の戦争で犠牲になった人々を慰霊するために建立された礼拝堂がある。
 ヴァーデン王国とイスファーン王国との因縁の象徴であったボルボラ諸島と礼拝堂。
 両国の対立の歴史を精算し未来を見据えた交流を誓うため、因縁のあるボルボラ諸島の礼拝堂であえて婚約式が執り行われる。

 お兄様とアイラン様の婚約式は政治利用される。
 
 本来ならいくら侯爵家の嫡男であっても国を跨ぐほどの政略の駒になるはずのないお兄様でも、わたしが殿下の婚約者で、将来王室と縁続きになることが考慮され、イスファーン王国はお兄様を利用に値すると踏んだんだ。

 これでエレナと殿下は簡単に婚約破棄はできなくなった。
 エレナにとって一筋の光になるんだろうか。
 ううん。簡単に破棄できないということは、破棄されるときはエレナの破滅を意味する。
 断罪されるほどの悪事を働くことはないと自分では思うけど、隙があれば捏造される。
 エレナは感情的になると抑えが効かない。
 わたしは、破滅フラグをちゃんと折ることができるかしら。

 わたしはため息をついて馬車の中を見回す。
 見慣れた顔に安堵する。

 お母様とメリーと三人で乗る馬車は穏やかで、つい考え事ばかりしてしまう。
 わたしは隣に座るお母様にギュッと抱きつく。

「どうしたの? わたしの可愛い甘えん坊さん」

 優しく尋ねられる声に、破滅が怖いだなんていうことはできない。

「……お母様と馬車に乗ってお出かけなんて、あとどれくらいできるのかしらと思ったら寂しくなりましたの」
「まあ。まだまだいくらでもお出かけできますよ」

 抱きしめ返してくれたお母様の顔は優しい。

「奥様。エレナお嬢様。もうすぐ港です。これから船に乗りますからご準備をお願いします」

 メリーの声に窓の外を見ると、騎士団の馬の隙間から、真っ青な海が見えた。



***



 まさに船旅日和というべき晴天の下、港街は活気付いている。
 フェリーに乗り旅に出る人々や、貨物船の荷下ろしをする人たち、船乗りを相手に露天の店主達は呼び込みをする。

 賑わう街を尻目に、私たちは乗船するフェリーに乗り込む。
 ボルボラ諸島へ向かうフェリーは、大型の蒸気船だ。

 手続きをメリーに任せて甲板に向かう。
 客室もあるけど二時間程度の船旅なので部屋にこもっているのはもったいない。
 甲板に出ると私たち以外にも、たくさんの乗客が海風に吹かれていた。
 多くはお兄様達の婚約式に参加される貴族達だ。
 以前シーワード公爵家のお屋敷で開かれたイスファーンの歓迎式典に参加されていた人たちばかり。
 どちらともなく挨拶を交わし合う。
 お母様は如才ない態度で領主やその夫人達と会話を交わす。
 元々王妃様付きの女官だったお母様は、キャリアウーマンだったんだろうな。
 いろんな話題にそつなく対応している。わたしは後ろで微笑んでいるだけでよかった。

「エレナ様」
「コーデリア様!」

 我が国の招待客が領主夫婦やご令息が多いのは新郎側だからだろう。
 ご令嬢が少ない中で、見慣れたシルバーブロンドに安心する。

「コーデリア様も同じ船だったんですね」
「ええ。港と本島を往復するフェリーは一日一便ですから、ほとんどの招待客はこのフェリーにおりますでしょうね」
「ダスティン様はご一緒ですか? ダスティン様にもご挨拶しなくちゃ」

 コーデリア様は深い深いため息をつき、眉を顰める。
 あ、これは……

「あの朴念仁は、あの男の護衛のために王室が所有する船に乗り込んでおりますわ。全く将来の公爵ともあろう人間が、喜んで他人に使われるなんて、あってはならないことですのに」
「殿下とご一緒なんですね」

 殿下にお会いできるのは本島に到着したあと。
 ずっとお忙しくてお会いできなかった殿下に久しぶりにお会いする。
 嬉しいよりも緊張が勝る。

 わたしはコーデリア様と港の景色を眺める。
 船は汽笛を三回鳴らして出航した。
 
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