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第二部 最終章
94 恵玲奈は転生先の物語がわからないまま(第二部最終話)
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殿下はわたしをじっと見つめたまま何も言わない。
わたしから謝る機会を用意してくださっているのね。
わたしは深呼吸する。
「……殿下の仕事を増やしてしまって、ごめんなさい」
殿下はキョトンとした顔でわたしを見つめる。イケメンはキョトン顔でも顔が崩れる事はない。
何をしてても顔がいい。
って、違う。
何もおっしゃらないと言う事は、わたしの説明が足りないに違いない。
謝る時には何に謝っているのかきちんと誠心誠意伝えなくては。
喉は緊張してカラカラに乾いていて、次の言葉がうまく出ないのに、殿下に握られたままの手は緊張で手のひらの汗がすごい。
未だに手掴みしたままの胡桃のケーキに汗が伝う。
「えっと……シーワード子爵が養殖真珠の不正取引を行った事が原因で、イスファーン王国内での我が国の立場に悪影響が出ていてるから、殿下としても何か和平の証が欲しいと思っていらっしゃるはず。とは言っても、過去にイスファーン王室と和平の証として当時の国王陛下の妹君が嫁がれた時に側室扱いだったことに未だに国内に不快感をあらわにする人たちも多い中で、アイラン様が王室に輿入れするなんて出来ない。将来国王陛下の義兄になるお兄様とアイラン様の婚約なら絶妙な落とし所だなって殿下も思ってくださるに違いない……という勝手な思い込みの元、殿下の許可も取らずにわたしがお兄様をけしかけてしまいました」
殿下は見開いていた目を一瞬最大限に開くとパチパチと瞬かせた。
普段のザ・王子様な振る舞いの殿下からは想像がつかない可愛らしい仕草にキュンとする。
いけない。わたしってばイケメンに弱すぎる。
エレナの破滅フラグは早急に手折りたい。
「言い訳に聞こえると思うのですが、わたしはお兄様の事だからたっぷり時間をかけて罠を仕掛けると思って、こんなに性急にことが進むともおもっていなかったのです。落ち着いて考えればお兄様は領地の紡績産業発展のために編み機の実物を手に入れたくて、ずっとアイラン様に罠をしかけていたんです。獲物が編み機からアイラン様に変わったからって、使える罠を放っておくなんてお兄様ならしないっていうのに、わたしの浅慮さから殿下のお仕事を増やしてしまいました。それなのに何もせずに甘えてしまってごめんなさい」
言い切って勢いよく頭を下げる。
フッと小さな殿下の笑い声にわたしは顔をあげる。
「エレナは、ちゃんと真実を見つめているんだね」
「えっ?」
「ねぇ、エレナ。昔一緒に胡桃拾いをしに行っただろ?」
「えっえぇ」
急に殿下から胡桃拾いの話がでるなんて思いもよらず、返事がうわずる。
「あの頃の私はエレナよりも自分の方が多くの物事を知っていて、兄の様な存在として導く立場にあると驕った考えをしていた」
「……今も、殿下は広い見識でわたしを導いてくださる存在だわ」
わたしの返事に殿下はかぶりを振る。
「あの時エレナに教わるまで、自分が日ごろ口にしている胡桃がどのように実っているかなんて知らなかったし、考えようともしなかった」
じっとわたしを見つめる眼差しは、真剣だけどとても優しくて、思い出話を紡ぐ声の響きはいつもよりも甘い。
「上辺ばかり見て分かった気になっている私よりも、エレナの方がしっかりと真実を見ているんだね」
殿下は掴んだわたしの手を持ち上げて、かじりかけの胡桃のケーキを食べる。
「だから、エレナ。私が上辺ばかり見て真実に辿り着けてない時は教えておくれ」
そう言って殿下は優しく笑う。
「甘いだけじゃなくて、ちょっとしょっぱいんだね」
それは……汗が伝って……
ひいぃ。
「やっと約束を果たせた」
そう言ってわたしの手から思い出のケーキを食べ終えた殿下は掴んでいた手を離す。
わたしは真っ赤に顔を染めながら、転生先の物語も役割もわからないまま、まだまだ生きていかなくちゃいけない事は理解した。
~第二部・完~
*********
第三部に続きます。
第三部はお兄様と殿下のいざこざにBLゲームの世界に転生したと勘違いしたエレナが、破滅フラグを回避するために奮闘? します。
そして三部後半くらいからは殿下にも本気を出してもらいます。
三部は短めに終わって、第四部でハッピーエンドになる予定のプロットなのですが、書きだめがほとんどないので話数がどうなるか未知数です。お付き合いいただけると幸いです。
クロスオーバーとか、ハイパーリンクとかスピンオフとかカメオ出演とか好きなので、同じ舞台設定を流用した作品ばかり書いています。
もしよければ他のお話も楽しんでくれると嬉しいです。
わたしから謝る機会を用意してくださっているのね。
わたしは深呼吸する。
「……殿下の仕事を増やしてしまって、ごめんなさい」
殿下はキョトンとした顔でわたしを見つめる。イケメンはキョトン顔でも顔が崩れる事はない。
何をしてても顔がいい。
って、違う。
何もおっしゃらないと言う事は、わたしの説明が足りないに違いない。
謝る時には何に謝っているのかきちんと誠心誠意伝えなくては。
喉は緊張してカラカラに乾いていて、次の言葉がうまく出ないのに、殿下に握られたままの手は緊張で手のひらの汗がすごい。
未だに手掴みしたままの胡桃のケーキに汗が伝う。
「えっと……シーワード子爵が養殖真珠の不正取引を行った事が原因で、イスファーン王国内での我が国の立場に悪影響が出ていてるから、殿下としても何か和平の証が欲しいと思っていらっしゃるはず。とは言っても、過去にイスファーン王室と和平の証として当時の国王陛下の妹君が嫁がれた時に側室扱いだったことに未だに国内に不快感をあらわにする人たちも多い中で、アイラン様が王室に輿入れするなんて出来ない。将来国王陛下の義兄になるお兄様とアイラン様の婚約なら絶妙な落とし所だなって殿下も思ってくださるに違いない……という勝手な思い込みの元、殿下の許可も取らずにわたしがお兄様をけしかけてしまいました」
殿下は見開いていた目を一瞬最大限に開くとパチパチと瞬かせた。
普段のザ・王子様な振る舞いの殿下からは想像がつかない可愛らしい仕草にキュンとする。
いけない。わたしってばイケメンに弱すぎる。
エレナの破滅フラグは早急に手折りたい。
「言い訳に聞こえると思うのですが、わたしはお兄様の事だからたっぷり時間をかけて罠を仕掛けると思って、こんなに性急にことが進むともおもっていなかったのです。落ち着いて考えればお兄様は領地の紡績産業発展のために編み機の実物を手に入れたくて、ずっとアイラン様に罠をしかけていたんです。獲物が編み機からアイラン様に変わったからって、使える罠を放っておくなんてお兄様ならしないっていうのに、わたしの浅慮さから殿下のお仕事を増やしてしまいました。それなのに何もせずに甘えてしまってごめんなさい」
言い切って勢いよく頭を下げる。
フッと小さな殿下の笑い声にわたしは顔をあげる。
「エレナは、ちゃんと真実を見つめているんだね」
「えっ?」
「ねぇ、エレナ。昔一緒に胡桃拾いをしに行っただろ?」
「えっえぇ」
急に殿下から胡桃拾いの話がでるなんて思いもよらず、返事がうわずる。
「あの頃の私はエレナよりも自分の方が多くの物事を知っていて、兄の様な存在として導く立場にあると驕った考えをしていた」
「……今も、殿下は広い見識でわたしを導いてくださる存在だわ」
わたしの返事に殿下はかぶりを振る。
「あの時エレナに教わるまで、自分が日ごろ口にしている胡桃がどのように実っているかなんて知らなかったし、考えようともしなかった」
じっとわたしを見つめる眼差しは、真剣だけどとても優しくて、思い出話を紡ぐ声の響きはいつもよりも甘い。
「上辺ばかり見て分かった気になっている私よりも、エレナの方がしっかりと真実を見ているんだね」
殿下は掴んだわたしの手を持ち上げて、かじりかけの胡桃のケーキを食べる。
「だから、エレナ。私が上辺ばかり見て真実に辿り着けてない時は教えておくれ」
そう言って殿下は優しく笑う。
「甘いだけじゃなくて、ちょっとしょっぱいんだね」
それは……汗が伝って……
ひいぃ。
「やっと約束を果たせた」
そう言ってわたしの手から思い出のケーキを食べ終えた殿下は掴んでいた手を離す。
わたしは真っ赤に顔を染めながら、転生先の物語も役割もわからないまま、まだまだ生きていかなくちゃいけない事は理解した。
~第二部・完~
*********
第三部に続きます。
第三部はお兄様と殿下のいざこざにBLゲームの世界に転生したと勘違いしたエレナが、破滅フラグを回避するために奮闘? します。
そして三部後半くらいからは殿下にも本気を出してもらいます。
三部は短めに終わって、第四部でハッピーエンドになる予定のプロットなのですが、書きだめがほとんどないので話数がどうなるか未知数です。お付き合いいただけると幸いです。
クロスオーバーとか、ハイパーリンクとかスピンオフとかカメオ出演とか好きなので、同じ舞台設定を流用した作品ばかり書いています。
もしよければ他のお話も楽しんでくれると嬉しいです。
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