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第二部 第三章
83 エレナとロマンス小説の王女様
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王都にある屋敷の階段から落ちた弾みに恵玲奈の記憶を思い出したけど、逆にエレナの……特に殿下との婚約が決まってからの記憶が曖昧になった。
わたしは今までそう思っていた。
だって小さい頃の事は思い出せるようになってきても、婚約したこの一年くらいの殿下と過ごしただろう記憶がどうも思い出せなかったから。
婚約が決まったあと殿下の事で思い出せるのは、去年の殿下の誕生日に開かれたお茶会でオーウェン様が殿下に向かってわたしと殿下の婚約は『おままごと』だって言って、それを聞いた周りの参加者達が嘲笑ってエレナを見下していた事くらい。
そのお茶会もカッとなって何か言い返した気はするけれど、何を言ったかは覚えてないし、その時に殿下がエレナを庇ってくれたのかどうかすらも覚えていない。
わたしは、殿下が定期的に会いに来てくださったとか、手紙を送ってきてくださったとか、婚約者らしい何かがあったはずで、でも事故の後遺症が原因で、去年の記憶が曖昧だから婚約してからの殿下との思い出がなにひとつ思い出せないだけなんだと思っていたけれど……
そもそも思い出すような思い出がなかったのか。
婚約する前の事で、わたしが思い出せているエレナの殿下との思い出を振り返る。
小さい頃に殿下に妹みたいに可愛がってもらった事、毎年誕生日に本を贈ってくださって、それを楽しみにしていた事、去年のエレナの誕生日にお兄様が殿下を招待してくれて、その時に『エレナの夢を叶えたい』って言ってもらえた事。
そのあと王室から婚約の話を打診されて嬉しくってエレナは承諾したけれど、直接殿下からプロポーズされたわけじゃない……
あくまで『エレナの夢を叶えたい』と言われただけ。
結婚して欲しいなんて言われてない。
そりゃ王室を通して婚約の打診があって承諾してるわけで、殿下はエレナに対してお伽話の王子様のように振る舞おうとしてくれる。
そりゃ本物の、しかも誰もが認める絶世のイケメンの王太子殿下がお伽話の王子様みたいに振る舞えばドキドキする。
でも、振る舞ってるだけ。
だって素でエスコートを忘れられたりとかするし、やらなきゃいけないからやっている感じがひしひしとする。
小さな頃にエレナを妹の様に可愛がってくださっていた時は、もっと殿下の振る舞いは自然だった。
怪我した時に背負ってくれただけじゃない。
手を繋いで散歩したり、抱っこしてお勉強を教えてくれたり……おでこや頬に口づけされた記憶だってある。
そりゃ子供だったから兄妹のじゃれ合いのようなものだったけど……
でも、殿下から初めてお誕生日プレゼントでもらったのは、小さい頃の殿下が寝かしつけの時に王妃様に読んでもらっていた神話の本だ。
だから、特別に可愛がってもらえてると思ってた。
婚約が決まった時に『あの本を子供が産まれたら読んであげたい』なんていってたエレナを見つめる家族の目が悲しそうだったのを鮮明に思い出す。
きっと、お父様もお母様もお兄様も、殿下がエレナのことをかりそめの婚約者にしようとしていることは、最初から知っていたのね……
こうやって考えると、殿下と婚約できる事に浮かれて返事したエレナが不憫だ。
エレナは、自分はかりそめの婚約者で、本当は結婚なんてしてもらえないって理解してたのかな。
理解して納得して振る舞えていたのかな。
それでも、もしかしたらって夢見てたのかしら……
相手にされてなくて、可哀想なエレナ。
わたしがそんな事を考えている間に、ユーゴはいれ直したお茶を配膳する。
「ねぇユーゴ。ここに父上やノヴァがいなかったから聞かない事にしてあげるけど、エレナと駆け落ちするとか正気の沙汰じゃないからね。ユーゴがエレナを領地に留めさせたいのはわかるけど、二度とそんなこと言ったらだめだよ」
「承知しました」
そう言ったユーゴの口が尖っているのを見たお兄様は手で顔を覆って天を見上げた。
わたしは今までそう思っていた。
だって小さい頃の事は思い出せるようになってきても、婚約したこの一年くらいの殿下と過ごしただろう記憶がどうも思い出せなかったから。
婚約が決まったあと殿下の事で思い出せるのは、去年の殿下の誕生日に開かれたお茶会でオーウェン様が殿下に向かってわたしと殿下の婚約は『おままごと』だって言って、それを聞いた周りの参加者達が嘲笑ってエレナを見下していた事くらい。
そのお茶会もカッとなって何か言い返した気はするけれど、何を言ったかは覚えてないし、その時に殿下がエレナを庇ってくれたのかどうかすらも覚えていない。
わたしは、殿下が定期的に会いに来てくださったとか、手紙を送ってきてくださったとか、婚約者らしい何かがあったはずで、でも事故の後遺症が原因で、去年の記憶が曖昧だから婚約してからの殿下との思い出がなにひとつ思い出せないだけなんだと思っていたけれど……
そもそも思い出すような思い出がなかったのか。
婚約する前の事で、わたしが思い出せているエレナの殿下との思い出を振り返る。
小さい頃に殿下に妹みたいに可愛がってもらった事、毎年誕生日に本を贈ってくださって、それを楽しみにしていた事、去年のエレナの誕生日にお兄様が殿下を招待してくれて、その時に『エレナの夢を叶えたい』って言ってもらえた事。
そのあと王室から婚約の話を打診されて嬉しくってエレナは承諾したけれど、直接殿下からプロポーズされたわけじゃない……
あくまで『エレナの夢を叶えたい』と言われただけ。
結婚して欲しいなんて言われてない。
そりゃ王室を通して婚約の打診があって承諾してるわけで、殿下はエレナに対してお伽話の王子様のように振る舞おうとしてくれる。
そりゃ本物の、しかも誰もが認める絶世のイケメンの王太子殿下がお伽話の王子様みたいに振る舞えばドキドキする。
でも、振る舞ってるだけ。
だって素でエスコートを忘れられたりとかするし、やらなきゃいけないからやっている感じがひしひしとする。
小さな頃にエレナを妹の様に可愛がってくださっていた時は、もっと殿下の振る舞いは自然だった。
怪我した時に背負ってくれただけじゃない。
手を繋いで散歩したり、抱っこしてお勉強を教えてくれたり……おでこや頬に口づけされた記憶だってある。
そりゃ子供だったから兄妹のじゃれ合いのようなものだったけど……
でも、殿下から初めてお誕生日プレゼントでもらったのは、小さい頃の殿下が寝かしつけの時に王妃様に読んでもらっていた神話の本だ。
だから、特別に可愛がってもらえてると思ってた。
婚約が決まった時に『あの本を子供が産まれたら読んであげたい』なんていってたエレナを見つめる家族の目が悲しそうだったのを鮮明に思い出す。
きっと、お父様もお母様もお兄様も、殿下がエレナのことをかりそめの婚約者にしようとしていることは、最初から知っていたのね……
こうやって考えると、殿下と婚約できる事に浮かれて返事したエレナが不憫だ。
エレナは、自分はかりそめの婚約者で、本当は結婚なんてしてもらえないって理解してたのかな。
理解して納得して振る舞えていたのかな。
それでも、もしかしたらって夢見てたのかしら……
相手にされてなくて、可哀想なエレナ。
わたしがそんな事を考えている間に、ユーゴはいれ直したお茶を配膳する。
「ねぇユーゴ。ここに父上やノヴァがいなかったから聞かない事にしてあげるけど、エレナと駆け落ちするとか正気の沙汰じゃないからね。ユーゴがエレナを領地に留めさせたいのはわかるけど、二度とそんなこと言ったらだめだよ」
「承知しました」
そう言ったユーゴの口が尖っているのを見たお兄様は手で顔を覆って天を見上げた。
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