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第二部 第二章
62 エレナと隣国の王女様
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わたしは踏ん張って、後退さろうとするお兄様に従わず立ち止まり殿下を見つめ返す。
ちなみに今日の殿下は正装を召している。
いまは戦争はないけれど有事の際には王族や公爵家の領主は騎士団や国境警備隊をまとめ、指示を出す立場になる。
そのため国力を示すべき公式の場では指揮官として軍服を着る。
詰襟の白い軍服に瑠璃色の外套、赤い肩帯に金色の肩章に飾緒。そして沢山の勲章……
殿下はいつにも増してカッコいい。
顔が良すぎて目が潰れる。
殿下の顔をじっと見ていられなくなったわたしは、視線をイスファーンの王女様に移す。
アイラン王女殿下とおっしゃる隣国の姫君は、十四歳と聞いていたけれど、背がスラっと高い。
明らかにエレナよりも大人っぽい。
漆黒の豊かな髪の毛は腰元まで伸びて、緩やかなウェーブを描いている。
猫のような金色の瞳はややつり目気味で、意志が強そうだ。
その金色の目を細めて殿下にまとわりついて話しかけている。
嫉妬心はないけれど、それでもやっぱり何を話しているのかは気になる。
「お兄様。ご挨拶しましょう?」
わたしはお兄様の拘束からするりと抜け出してしっかりと腕を組む。
「え?」
「だって、殿下がこちらを見ていらっしゃるもの。私たちは殿下の臣下になるのだから、顔を合わせた主君に挨拶せずにこの場を去るなんて不敬なこと出来ないわ」
「そうだけど……」
「それに、イスファーンの王女様が殿下から離れるのを待っていたら、お茶会が終わってしまうかもしれないわ。お兄様も王女様にご挨拶出来ないのは困るでしょう?」
わたしは上目遣いでお兄様を見つめる。
「そりゃ困るけどさ……」
「怒らない、飛び出さない、叫ばないって約束するわ」
「……しょうがないな。約束だよ」
お兄様はそう言って諦めたのか、殿下達のいる方に向かう。
「殿下ー!」
お兄様はいつも通り暢気そうに殿下に声をかける。
わたしがお兄様の顔を見上げると、如才ない笑顔で澄ましていた。
「あぁ、エリオット、エレナ。いいところに来た。王女殿下をご紹介しよう。こちらが、アイラン・カターリアナ・イスファーン王女殿下だ」
殿下も近づいたわたしたちを澄ました笑顔で迎え入れる。
すぐに笑顔が作れるイケメン達が怖い。
エレナはこういう時に笑顔がうまく作れない。
お兄様が単純に笑っていた方がいいから笑ってるのはわかってる。
でも、それだけで即座に笑顔が作れるお兄様が恐ろしい。
殿下に至っては常に微笑んでいる。
さっき不機嫌そうにしてるように見えたのだって、エレナが殿下のこと好き過ぎて気がつく微かな表情の変化でしかない。
基本的にこういう公の場では微笑んでいる。
さすが王子様。
「イスファーン王国アイラン王女殿下にご挨拶申し上げます。私はトワイン侯爵の長男、エリオット・トワインと申します。気軽にエリオットやエリーとお呼びいただければ幸いです。隣におりますのは妹のエレナです」
お兄様は相変わらずの如才ない笑顔でわたしにも挨拶をする様に促す。
「エレナ・トワインと申します。よろしければエレナとお呼びください」
わたしも膝を折りスカートを摘み腰を落として挨拶をする。
エレナだって一応いいところのお嬢様だ。
お嬢様らしい挨拶くらいはできる。
『エリオットとエレナは貴女の滞在中、案内係をする予定だ。何かあれば二人になんでも相談してほしい』
殿下が流暢なイスファーン語でわたしたちの役割を伝える。
わたしが顔を上げて、以後よろしくの気持ちをこめて引きつった愛想笑いをすると、王女様に睨まれる。
『いらないわ! わたしはイスファーンの言葉が通じるシリル殿下にエスコートしてもらいますから、貴方達兄妹なんて用がないもの! ほら! 今だって私が何を喋っているかもわからないから愛想笑いなんて浮かべてるんでしょ? まぁ! 使えないし気味がわるい!』
「えっあっ」
王女様の高圧的な物言いにわたしは池の鯉みたいにパクパクするだけで、堪能なはずのイスファーン語は一言も出てこない。
側妃の子だから虐げられてるのかな? なんて想像してたけど絶対に違う。
年下なのに怖い。
コーデリア様はツンデレだと理解してからは少しは慣れたけど、基本的に高圧的な物言いをする人は苦手だ。
そしてお兄様は未だにコーデリア様が苦手なのできっと王女様の事も苦手に違いない。
お兄様のせいでここに連れ出されたのに、逃げられてたまるか。
わたしはお兄様が逃げないように、ギュッとお兄様の腕を掴んだ。
ちなみに今日の殿下は正装を召している。
いまは戦争はないけれど有事の際には王族や公爵家の領主は騎士団や国境警備隊をまとめ、指示を出す立場になる。
そのため国力を示すべき公式の場では指揮官として軍服を着る。
詰襟の白い軍服に瑠璃色の外套、赤い肩帯に金色の肩章に飾緒。そして沢山の勲章……
殿下はいつにも増してカッコいい。
顔が良すぎて目が潰れる。
殿下の顔をじっと見ていられなくなったわたしは、視線をイスファーンの王女様に移す。
アイラン王女殿下とおっしゃる隣国の姫君は、十四歳と聞いていたけれど、背がスラっと高い。
明らかにエレナよりも大人っぽい。
漆黒の豊かな髪の毛は腰元まで伸びて、緩やかなウェーブを描いている。
猫のような金色の瞳はややつり目気味で、意志が強そうだ。
その金色の目を細めて殿下にまとわりついて話しかけている。
嫉妬心はないけれど、それでもやっぱり何を話しているのかは気になる。
「お兄様。ご挨拶しましょう?」
わたしはお兄様の拘束からするりと抜け出してしっかりと腕を組む。
「え?」
「だって、殿下がこちらを見ていらっしゃるもの。私たちは殿下の臣下になるのだから、顔を合わせた主君に挨拶せずにこの場を去るなんて不敬なこと出来ないわ」
「そうだけど……」
「それに、イスファーンの王女様が殿下から離れるのを待っていたら、お茶会が終わってしまうかもしれないわ。お兄様も王女様にご挨拶出来ないのは困るでしょう?」
わたしは上目遣いでお兄様を見つめる。
「そりゃ困るけどさ……」
「怒らない、飛び出さない、叫ばないって約束するわ」
「……しょうがないな。約束だよ」
お兄様はそう言って諦めたのか、殿下達のいる方に向かう。
「殿下ー!」
お兄様はいつも通り暢気そうに殿下に声をかける。
わたしがお兄様の顔を見上げると、如才ない笑顔で澄ましていた。
「あぁ、エリオット、エレナ。いいところに来た。王女殿下をご紹介しよう。こちらが、アイラン・カターリアナ・イスファーン王女殿下だ」
殿下も近づいたわたしたちを澄ました笑顔で迎え入れる。
すぐに笑顔が作れるイケメン達が怖い。
エレナはこういう時に笑顔がうまく作れない。
お兄様が単純に笑っていた方がいいから笑ってるのはわかってる。
でも、それだけで即座に笑顔が作れるお兄様が恐ろしい。
殿下に至っては常に微笑んでいる。
さっき不機嫌そうにしてるように見えたのだって、エレナが殿下のこと好き過ぎて気がつく微かな表情の変化でしかない。
基本的にこういう公の場では微笑んでいる。
さすが王子様。
「イスファーン王国アイラン王女殿下にご挨拶申し上げます。私はトワイン侯爵の長男、エリオット・トワインと申します。気軽にエリオットやエリーとお呼びいただければ幸いです。隣におりますのは妹のエレナです」
お兄様は相変わらずの如才ない笑顔でわたしにも挨拶をする様に促す。
「エレナ・トワインと申します。よろしければエレナとお呼びください」
わたしも膝を折りスカートを摘み腰を落として挨拶をする。
エレナだって一応いいところのお嬢様だ。
お嬢様らしい挨拶くらいはできる。
『エリオットとエレナは貴女の滞在中、案内係をする予定だ。何かあれば二人になんでも相談してほしい』
殿下が流暢なイスファーン語でわたしたちの役割を伝える。
わたしが顔を上げて、以後よろしくの気持ちをこめて引きつった愛想笑いをすると、王女様に睨まれる。
『いらないわ! わたしはイスファーンの言葉が通じるシリル殿下にエスコートしてもらいますから、貴方達兄妹なんて用がないもの! ほら! 今だって私が何を喋っているかもわからないから愛想笑いなんて浮かべてるんでしょ? まぁ! 使えないし気味がわるい!』
「えっあっ」
王女様の高圧的な物言いにわたしは池の鯉みたいにパクパクするだけで、堪能なはずのイスファーン語は一言も出てこない。
側妃の子だから虐げられてるのかな? なんて想像してたけど絶対に違う。
年下なのに怖い。
コーデリア様はツンデレだと理解してからは少しは慣れたけど、基本的に高圧的な物言いをする人は苦手だ。
そしてお兄様は未だにコーデリア様が苦手なのできっと王女様の事も苦手に違いない。
お兄様のせいでここに連れ出されたのに、逃げられてたまるか。
わたしはお兄様が逃げないように、ギュッとお兄様の腕を掴んだ。
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