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第二部 第二章
66 エレナと隣国の王女様
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『なぁ、エレナ。夜会中はつまらんな』
「ねぇ、エレナ様。アイラン様はなんて言ってるの?」
「夜会中は退屈ねって言ってらっしゃるわ」
「分かるわ! 夜会中は大人ばっかり楽しんで子供はつまらないもの! でも今回はエレナ様もアイラン様もいるからフィーはとーっても楽しい!」
そう言ってわたしに抱きついて屈託なく笑うコーデリア様そっくりの美少女『オフィーリアちゃん(5歳)』にキュンとする。
つい先日嫉妬に駆られていたことなどすっかり忘却の彼方にうっちゃり投げるくらいに可愛い。
『フィーはなんて言ってるの?』
『アイラン様がいらっしゃるから楽しいそうですよ』
『それは当たり前だわ』
アイラン様は相変わらず高圧的だけど、わたしに腕を絡めふふっと笑った顔はあどけなくて可愛い。
昨日晩餐会に向かう殿下達を見送り、公爵家の立派な図書室に寄り道して本をお借りして談話室でゆっくり読もうかな。なんてしているところで、偶然コーデリア様の妹君であるオフィーリア様に出くわした。
本を読んでとねだられ、そこに暇を持て余したアイラン様がやってきて何故かわたしが二人に本を読む約束になった。
最初はそのまま夕飯になるまで談話室で読もうと思ったんだけど、オフィーリア様の侍女によると、夜寝る前に読む本を選びにきていたという事だった。
そのまま寝られる様にとオフィーリア様の子供部屋にわたしとアイラン様は招待されて、一緒に食事をして、湯浴みをして、三人で本を読みおしゃべりをして、昨日はそのままオフィーリア様のベッドで寝た。
そして、今日も一緒にオフィーリア様のベッドに潜り込んでいる。
いきなり二人の妹が出来たみたいでちょっと……ううん、かなり嬉しい。
兄妹はお兄様だけだし、使用人の子供達も家族みたいに育ったとはいえ男の子が多い。
前世はどうだったんだろう。やっぱり妹がいた記憶はないな……
とにかく年下の可愛い女の子から甘えられる経験が圧倒的に少ないわたしには、束の間味わうお姉さん気分は、来たくなかった社交の場でも楽しく過ごせる一種の張り合いになった。
オフィーリア様は自分が選んだ神話の絵本を読み終わるとあっという間に寝てしまった。
エレナも小さい頃自分の領地の女神様の神話が好きだったけど、オフィーリア様もシーワード領の神様の話がお気に入りで二日続けて同じ絵本を読んであげた。
「パジャマ女子会みたいだわ」
わたしはオフィーリア様の頭を撫でながら呟く。
『パジャ……ジョシカイ? なぁにそれ?』
『女の子だけで夜寝る前に集まって寝転がりながらいろんな話をするんです』
『へぇ。そんな文化がこの国にはあるのね』
アイラン様が感心した様に私を眺める。
あっ……
この国の文化、風習だと思われてしまった。
すみません……そんな文化この国には多分ないんです。
友達がスピカさんしかいないから、真実の程はわからないけど。
『どんな話をするの?』
『えっと……一般的には恋の話とか……趣味……の話とかですかね』
『政治や経済の話は?』
『お好きなら話してもいいと思います』
『ちっとも好きじゃないわ。退屈だもの』
『……だと思いました』
『ねぇ、エレナ……』
アイラン様はわたしのことをじっと見つめる。
サイドテーブルのランプの光に照らされた金色の瞳が眩く揺れる。
『はい。アイラン様』
『エレナはシリル殿下の婚約者なのでしょ?』
『……はい』
『なんで公表していないの? わたしは近隣諸国の世継ぎの中で、お相手がいなくて、年頃で、一番見目麗しいのがシリル殿下だって聞いたからこの国に来たのよ? そしたら婚約者がいるんだもの。ちゃんと公表しといてくれないと困るわ。わざわざここまで来たのに無駄になってしまったじゃない』
アイラン様は口を尖らす。
エレナを咎められてもエレナが公表を渋っているわけじゃないんだけどな。
王室の都合だもん。
エレナの記憶が曖昧でも、殿下とコーデリア様の婚約話がふいになって、その時に一番都合がよかったのがエレナだったってだけなのは、さすがにもう理解している。
『……わたしは仮初の婚約者なんです。他にもっと相応しい方がいらしたらいつでも立場が変われる様に、ギリギリまで公表されないと思いますよ』
『シリル殿下にそんな説明を受けてエレナは婚約者になったの?』
『殿下はお優しいので、そんなことはおっしゃらないですけど、周りの噂話からするとそんなところです』
『ふぅん』
アイラン様はじっと考え込んでいる。
『ということは、エレナよりもわたしの方が相応しいとなればわたしを娶る可能性もあるって事?』
『えっ?』
『そういう事でしょ? シリル殿下にとって自国の貴族の娘を娶るのと、他国の……これから交易を活発に進めようと考えている国の姫を娶るのが、どちらが国益になるか天秤にかけて、わたしの方が相応しいとなればエレナとの婚約は無くなって、わたしと婚約する。って事よね?』
……そうだろうけど。
そうなんだけど、えっ?
『そっか。まぁ、エレナもまだ若いし、新しい婚約者が早く見つかるといいわね』
『えっ?』
『おやすみエレナ。明日のお茶会も通訳よろしくね。明日はイスファーンの特産品をあなた達貴族に売り込む好機だから、わたしのためにしっかり働くのよ!』
そう言ってアイラン様は布団の中に潜り込み、あっという間に寝てしまう。
えぇえぇえっ⁈
わたしはアイラン様とオフィーリア様の寝息を聞きながら、いつまでも眠れない夜を過ごすことになった。
「ねぇ、エレナ様。アイラン様はなんて言ってるの?」
「夜会中は退屈ねって言ってらっしゃるわ」
「分かるわ! 夜会中は大人ばっかり楽しんで子供はつまらないもの! でも今回はエレナ様もアイラン様もいるからフィーはとーっても楽しい!」
そう言ってわたしに抱きついて屈託なく笑うコーデリア様そっくりの美少女『オフィーリアちゃん(5歳)』にキュンとする。
つい先日嫉妬に駆られていたことなどすっかり忘却の彼方にうっちゃり投げるくらいに可愛い。
『フィーはなんて言ってるの?』
『アイラン様がいらっしゃるから楽しいそうですよ』
『それは当たり前だわ』
アイラン様は相変わらず高圧的だけど、わたしに腕を絡めふふっと笑った顔はあどけなくて可愛い。
昨日晩餐会に向かう殿下達を見送り、公爵家の立派な図書室に寄り道して本をお借りして談話室でゆっくり読もうかな。なんてしているところで、偶然コーデリア様の妹君であるオフィーリア様に出くわした。
本を読んでとねだられ、そこに暇を持て余したアイラン様がやってきて何故かわたしが二人に本を読む約束になった。
最初はそのまま夕飯になるまで談話室で読もうと思ったんだけど、オフィーリア様の侍女によると、夜寝る前に読む本を選びにきていたという事だった。
そのまま寝られる様にとオフィーリア様の子供部屋にわたしとアイラン様は招待されて、一緒に食事をして、湯浴みをして、三人で本を読みおしゃべりをして、昨日はそのままオフィーリア様のベッドで寝た。
そして、今日も一緒にオフィーリア様のベッドに潜り込んでいる。
いきなり二人の妹が出来たみたいでちょっと……ううん、かなり嬉しい。
兄妹はお兄様だけだし、使用人の子供達も家族みたいに育ったとはいえ男の子が多い。
前世はどうだったんだろう。やっぱり妹がいた記憶はないな……
とにかく年下の可愛い女の子から甘えられる経験が圧倒的に少ないわたしには、束の間味わうお姉さん気分は、来たくなかった社交の場でも楽しく過ごせる一種の張り合いになった。
オフィーリア様は自分が選んだ神話の絵本を読み終わるとあっという間に寝てしまった。
エレナも小さい頃自分の領地の女神様の神話が好きだったけど、オフィーリア様もシーワード領の神様の話がお気に入りで二日続けて同じ絵本を読んであげた。
「パジャマ女子会みたいだわ」
わたしはオフィーリア様の頭を撫でながら呟く。
『パジャ……ジョシカイ? なぁにそれ?』
『女の子だけで夜寝る前に集まって寝転がりながらいろんな話をするんです』
『へぇ。そんな文化がこの国にはあるのね』
アイラン様が感心した様に私を眺める。
あっ……
この国の文化、風習だと思われてしまった。
すみません……そんな文化この国には多分ないんです。
友達がスピカさんしかいないから、真実の程はわからないけど。
『どんな話をするの?』
『えっと……一般的には恋の話とか……趣味……の話とかですかね』
『政治や経済の話は?』
『お好きなら話してもいいと思います』
『ちっとも好きじゃないわ。退屈だもの』
『……だと思いました』
『ねぇ、エレナ……』
アイラン様はわたしのことをじっと見つめる。
サイドテーブルのランプの光に照らされた金色の瞳が眩く揺れる。
『はい。アイラン様』
『エレナはシリル殿下の婚約者なのでしょ?』
『……はい』
『なんで公表していないの? わたしは近隣諸国の世継ぎの中で、お相手がいなくて、年頃で、一番見目麗しいのがシリル殿下だって聞いたからこの国に来たのよ? そしたら婚約者がいるんだもの。ちゃんと公表しといてくれないと困るわ。わざわざここまで来たのに無駄になってしまったじゃない』
アイラン様は口を尖らす。
エレナを咎められてもエレナが公表を渋っているわけじゃないんだけどな。
王室の都合だもん。
エレナの記憶が曖昧でも、殿下とコーデリア様の婚約話がふいになって、その時に一番都合がよかったのがエレナだったってだけなのは、さすがにもう理解している。
『……わたしは仮初の婚約者なんです。他にもっと相応しい方がいらしたらいつでも立場が変われる様に、ギリギリまで公表されないと思いますよ』
『シリル殿下にそんな説明を受けてエレナは婚約者になったの?』
『殿下はお優しいので、そんなことはおっしゃらないですけど、周りの噂話からするとそんなところです』
『ふぅん』
アイラン様はじっと考え込んでいる。
『ということは、エレナよりもわたしの方が相応しいとなればわたしを娶る可能性もあるって事?』
『えっ?』
『そういう事でしょ? シリル殿下にとって自国の貴族の娘を娶るのと、他国の……これから交易を活発に進めようと考えている国の姫を娶るのが、どちらが国益になるか天秤にかけて、わたしの方が相応しいとなればエレナとの婚約は無くなって、わたしと婚約する。って事よね?』
……そうだろうけど。
そうなんだけど、えっ?
『そっか。まぁ、エレナもまだ若いし、新しい婚約者が早く見つかるといいわね』
『えっ?』
『おやすみエレナ。明日のお茶会も通訳よろしくね。明日はイスファーンの特産品をあなた達貴族に売り込む好機だから、わたしのためにしっかり働くのよ!』
そう言ってアイラン様は布団の中に潜り込み、あっという間に寝てしまう。
えぇえぇえっ⁈
わたしはアイラン様とオフィーリア様の寝息を聞きながら、いつまでも眠れない夜を過ごすことになった。
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